これも親ガチャ?(第23話)

『お兄ちゃん、inst 始めても良い?』
ゴールデンウイークから2週ほど経ったある日、愛が俺に話しかけた。
『ああ、良いよ。ちゃんと約束を守ってくれて
ありがとう。』
真奈もそうだが、何か新しい事を始める時は、
俺の了解を取ることになってる。
それが無料でもだ。
みんなで共有することで、
未然にリスクを回避できることがあると俺は考えているからだ。
『そうか、スマホで作った絵をみんなに見てもらうんだな。
ただ、人の批判が大好きな大人も多いから、
ニックネームで初めて見るかな?
愛はどう思う?』
『お兄ちゃんの言う通りにして、様子を見るよ。
中学の入学式みたいに、私を良く思ってない連中も多いし。』
愛は素直に反応した。
『じゃあ、明日、専門学校の先生に、instに絵画を乗せる時の
注意点でも一緒に聞きに行くか!』
『お兄ちゃん、ありがとう!じゃあ、明日、講座が終わったら、
お兄ちゃんの教室の前で待ってる。』
俺のプログラム講座の浩太郎先生は、40代だけど
第一線で働いてるSE(システムエンジニア)で、
毎月第2火曜と第3火曜だけ教えてくれるすごい人だ。
浩太郎先生は俺の発想が面白いと言って、
いろんなアドバイスをくれるんだ。
俺も、先生となかなか話が出来ないので、
先生の時間が許す時を逃さない為に
聞きたいことをノートに書き溜めている。
先週も『勉、そのノートを見せてくれないか?』
って言うんで、『良いっすよ。』って渡すと
パラパラって流し読みすると
『なあ、勉。このノートの中身をこの学校の奴に分けてくれないか?
お前ほどガンガンに質問に来れない奴にコピーして送りたいんだけど
ダメかな?もちろん、見られても良い所だけで構わない。
だから、そのQ&Aをこのアカウントに送ってくれないか?』
って言うんだ。優しい先生だな!って思った。
『3か所ほど、まだ見られたくない部分があるので、
それ以外をまとめて3日後までにアカウントに送ります。』
と即答したことがあった。
『勉、ありがとう。この借りは、なんかで返すから。』
って返事まで貰った。
数少ない感動をくれた大人だった。
だからって訳じゃないけど、愛の絵の件を相談してみた。
『ああ、こういうのね。勉、A社って知ってる?
あそこのknou-howは最高だから、少し高額だけど、
お勧めだよ!』と浩太郎先生は最高のアドバイスをくれた。
『A社ですね。早速、明日、相談してみるよ。
浩太郎先生ありがとう。』



『あの~、instaに作品を載せる時用の
セキュリティなんかのサービスを
伺いたいんですが。・・・』
早速、俺は翌日の午前中にA社に電話をかけてみた。
『はい、お問い合わせを有難うございます。
Instagram向けの作品のセキュリティですね。
ちなみにinstagramに使う作品はどのようなものですか?』
『スマホのアプリで作った画像です。』
『スマホのアプリで作った画像の
セキュリティでございますね。
・・お客様、お名前をお伺いしても、よろしいですか?』
『相田勉です。』
『相田様、少々、お待ちくださいね。』
受け付けてくれた女性の方は
妙な間を作って、電話を保留にした。
数分後、『あ~あ、勉、待たせちゃってごめんな。』
聞き覚えのある声がした。
『えっ、浩太郎先生?』
『あれ?俺がここでも仕事してるの、
話してなかったっけ?
毎度ご注文を、ありがとうございます、相田様。
見積もりとサービス内容などの書類を送らせて戴きます。
この間のメールアドレスに送って良いよな!勉。』
先生は、いつの間にか、いつもの口調に戻っていた。
『先生、どうぞ、よろしくお願い致します。』
俺は、先生に返事をした。
『あっ、それから、勉。送った見積もりは、特価だから、
他に見せないで欲しんだ。
ばれると社長から怒られちゃうから。あはは。』
そんなやり取りから2週間後。
愛のinstaのDMに、購入希望のメールが3件来ていた。
俺はすぐに浩太郎先生の会社に連絡をした。
こういう場合、どう対応していいか解らなかったから。
先生は僕の話を聞いて、
『ああ、やっと買う気になったんだね!』そう呟いた。
『先生、DMの相手を知ってるの?』
『知らないけど、3日前まで、
この作品へのハッキングが酷くてさ!
そうか、この画像は、そんなに魅力的なんだ!
って思ったわけよ。
愛ちゃんは、この作品を売っても良いの?』
『ハイ、先生。お金になる!って、喜んでます。
僕ら子供には、10万円の価値は
すごいと思うんですけど、
この人たちにとっては、はした金なんですか?』
『じゃあ、10万以下になるかもしれないけど、
売る方向で良いんだね。じゃあ、これは、
アート&インテリジェンス アカデミーの矢島浩太郎が
案件として預かります。勉、まあ、任せてよ。』
『先生、助かるよ。お願いします。』
その3日後だった。
スマホに浩太郎先生から連絡があった。
『おはよう、勉。そこに愛ちゃんはいる?』
土曜日のお昼前で、愛は新聞配達の後の一眠りから
起きたところだった。
『ハイ、います。スピーカーにしても良いですか?』
『愛ちゃん、おはよう。
先日の電子画像の件なんだけどさ~。
結構、質(たち)の悪いブローカーだったよ。
でもね、どうしても欲しいらしいのよ。
100万円で、画像と複製が出来ない様に
近い画像を作らないという権利を
買いたいんだって。どうする?』
『先生は、どうした方が良いと思う?』
俺は気になる言葉があったので、先生の意見を聞いた。
『私も聞きたい。』先生の返事の間に、
愛が自分の意見を言った。
『感触なんだけどね。
依頼主にOKの返事をしてるんじゃないかと
思うんだ。それほど執着があるのよ。
だから、良ければ、売ってた方が
愛ちゃんのためかな?とも思ってるんだ。
妙に恥をかかせるほうが危険かもしれない。』
俺は、浩太郎先生の慎重に聞こえる話し方を
初めて聞いた。‘先生もいろいろ考えての判断かな?’
そんな事を考えてたら、愛は俺を見つめて
『お兄ちゃんは、どう思うの?』と聞いてきた。
『先生、これからも愛のinstaのハッキングをしない約束と
10万でも20万でも良いから、少し値上げしてもらえない?
こいつら、面倒くさいぞ!という記憶を付けておいた方が
良いと思うんですが、どうでしょう?』
『愛は、似た画像を描けなくても、良しとする?』
俺は、1度に2人に質問した。
先生も愛もOKをくれたので、
『じゃあ、先生。その線でお願い致します。
価格は、今言ったように、
面倒くさいイメージを刷り込むだけで良いから
いくらになろうが、先生に任せるよ。
そうそう、先生、今回の手数料って、
そのお金で払えるの?』
俺は慌てて確認した。
『大丈夫さ!売買契約の10%+消費税が手数料なんだけどね。
それは、先方から戴く話にしてるし、
その旨を伝えてあるから大丈夫だよ。
相田愛様、ご採用を有難うございました。
じゃあね~。プツン』
さすがの俺も、愛も手に汗を握っていた。
2人でお茶で乾杯して、
『フ~』とため息をもらして、爆笑した。
俺はふと我に返り、
『愛、頼みがあるんだけど・・・。』と言った。
『何、お兄ちゃん。』神妙な雰囲気は愛にも解ったらしい。
『茜や他の奴らには、しばらく黙ってて欲しいんだ。
茜の行動は想像つくと思うんだけど・・・。』
『はい、はい。
解ったわ、お兄ちゃん。』
愛は素直に了解してくれた。
それでも、中学1年生の愛は、
思い出したように、ニヤつく時がちらほら。
そんな時、茜から
『何よ愛ちゃん、ニヤニヤして気持ち悪い!』
と言われていた。
茜は愛に彼氏が出来たくらいにしか
思ってなかったと思う。

その日を境に、愛のinstaのフォロワーが激増して
仕事の依頼が頻繁に入ってきた。
俺は、売れっ子画家のマネージャーにされていた。
これはマズい。
相田勉、本人が出て来てる時には電話対応が出来ない。
誰か別の人にマネージャーを頼みたい。
真奈を巻き込むと1年ぐらいで
また他の誰かにマネージャーを頼まなければならない。
どうしよう?

つづく(これは、日曜日分です。)

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