これも親ガチャ?(第8話)

最近、‘年食ったな~!’ って感じる。
まだ、身体は中学生なはずなのに!
下校時にいきなり顔が火照りだして、
やたら暑くなったり、
さっきまで何事も無く歩いてたのに、
いきなり動悸がすることが増えた。
これは明らかに更年期の症状じゃないか!
俺は愕然とした。
この身体に移る前でも、更年期症状を体験してないと思う。
‘更年期って、魂の加齢でなるのかな~?
今日帰ったら、何か良い薬が無いかググろう!
いやいや、単純に寝不足かもしれない。
今日は帰ったら、即、寝るかな?’
とか考えながら下校していた。
『相田君!』正が後ろから走ってきた。
『おう、正、今帰りか?』クラスが違うから、終わる時間も違う。
妙に残ってると先輩風をふかせたガキがうるさいから、
最近の俺は、とっとと帰ることにしている。
だから、正と一緒に帰ることも週の半分ぐらいだ。
正は俺に追いつくなり、ニヤッとした。
『相田君、顔が赤いよ!』
正にしては、すっごく感じが悪い言い方だった。
‘やっぱ俺、熱があるんだ!正が性悪に思えてきた。’
俺が何か言おうとする前に
『さっきから、真奈ちゃんに見つめられてるもんね。』
と正に畳みかけられた。
『なんだ、それ?』
俺は、自然に聞き返した。
どうやら、俺の知らない事らしい。
『あっ、そうか!相田君、入院以前の記憶が無いんだっけ!』
ここで、やっと、正は俺に解説が必要な事に気づいたらしい。
『あの子、河合真奈って言って、
相田君とすっごく仲が良かったんだ。
入院するまでは、よく真奈ちゃんから
勉強を教えてもらってたんだよ、相田君。
ところが、学校に戻ってから、
人が変わったように真奈ちゃんと一言も話さないし、
僕の面倒を見るようになったから、
真奈ちゃん寂しそうだったんだ。』
正が解説の最初に河合真奈を指さしたもんだから
河合真奈がズカズカと俺の前まで来た。
『何よ!言いたいことがあるなら、ハッキリ言ったらいいじゃない。
コソコソ話して。どうせ、私の事、嫌いなんでしょう!
無視するなら、ハッキリ嫌いって言いなさいよ!』
なるほどね!鈍い俺でもやっと理解できた。
‘良かった、本気で更年期、心配しちゃったよ。’
という本音が、もう少しで声になりそうだったが、
グッと抑えて
『嫌いじゃないよ!河合さん、
色々話したいことがあるから、正と俺んちに来ない?
河合さんも聞きたい事あるだろ?』と振ってやった。
いや、かなり強引に家に連れて行ったと言う方が正しいかもしれない。

『お帰り!あら、ム~君、お客さん?』よりによって茜が家にいた。
『こんにちは、茜さん。』
正が茜に挨拶した次の瞬間、茜と真奈がハモった。
『誰、この人。』
‘えっ、茜、勘が良い!こんな時だけ。’
そんな事を思いながら、
俺は、正と真奈を部屋に押し込んだ。
『あっ、茜、作戦会議だから、入ってくんなよ。』
そう言い残して、俺らは部屋に入った。


『さて、河合さん、相田勉が小3の途中から
いきなり態度が変わった理由を話すから聞きな。
つい最近、正と正のお母さんにも話したばかりで
トップシークレットなんだ。
でも、相田勉は、河合さんが大好きみたいなんで
特別に河合さんにも秘密を共有して欲しいんだ。』
俺は、おじさん的視点で話を始めた。

相田勉は虐待で死にそうな目にあって、入院した事。
その怪我の最中に他人のおっさんである俺が意識を占有した事。
今、怪我の前の記憶が全くない事。
ただ、最近、河合さんの視線に
相田勉が真っ赤になったりして反応し始めたこと。
多分、相田勉は、河合さんに惚れてると感じる事
などを説明してから、最後に、この一言を言った。
『まあ、考えてみ。
ある日突然、バカだった奴が天才になると思う?』
最後の一言で河合さんが頷いたことに、
身体はショックを受けたようだった。
なぜって、身体の力がドッと抜けたから。
もう少しでコケそうなくらいに。
10分ほど、俺を睨みつける様に考え込んでいた河合さんは、
ニッコリ笑って右手を出した。
『ありがとう、お陰でスッキリしたわ。
私も相田君の事好きだったけど、中身がおっさんじゃあね!』
‘ム~君、ごめんな、振られちゃったよ!’
そう考えながら、俺は、河合さんと握手した。
その瞬間、河合さんは、左手を重ね、
思いっきり俺の右手を潰しにかかった。
一瞬痛かったけど、すぐに形成は逆転した。
大人並みの仕事をしている力を舐めるんじゃない。
河合さんの不意打ちは失敗した。
俺は、そのまま河合さんを引っ張って、ハグした。
相田勉へのご褒美のつもりだったが、
ハグの次の瞬間、俺の身体も、河合さんも固まって
ハグしたままになっちゃった。‘かわいい!’そう思った。
俺は、それ以上はいたずらをせず、ハグを解き身体を離した。
『河合さん、ありがとう。
相田勉は今、幸せを噛みしめてるみたい。』とだけ伝えた。
河合さんは、黙ったまま帰って行った。
ただ、困ったことが起きた。
これ以降、相田勉は更に敏感に河合真奈に反応するようになった。
それを知ってか知らずか、河合真奈は、
積極的に俺に絡んでくるようになった。
隣の中学に通ってるらしいのだが、
俺の下校を待っているんじゃないかと思うほど
よく会うようになった。
俺の心臓は持つのだろうか?

そうそう、困った事と言えば、正も帰った後の事だ。
茜から河合真奈について色々と聞かれた。
ちゃんと説明をしたんだけど、
『ふ~ん』っていう、そっけない返事で終了!
だけど、その後がよくない。
その晩からずっと俺のベッドに、茜は入ってくるようになったんだ。
新聞配達が終わって、自分の部屋のベッドに潜ると
ガチャ、パタン。‘うん?何の音’と思いながら、
寝ぼけたまま布団から顔を出すと、そこに茜がいた。
??なんで?
茜も寝ぼけながら俺の布団の中に潜り込んできて、
俺の胸に顔をうずめてスース―言い出した。
だから身体に悪いって!
俺は反応したかったけど、
相田勉の身体はまるっきり反応しない。
‘こいつ、河合真奈に義理立てしてるのか?’
いつだったか、寝ぼけてパジャマが半分脱げたまま、
茜は布団の中に入ってきやがった。
手に生暖かい感触があって、ビビったじゃねえかよ。
更に身体自体もびっくりしたらしく、
そこから2時間、金縛り状態になった。
ほんと、心臓に悪いし、寝不足だし。俺、どうしよう?


そう言えば、そんなム~君ラブな茜が、
他の男性と本気で結婚を考えてた時があった。
この時ばかりは、‘仕方ねえな、俺はどこに引っ越そう?’
と腹をくくったよな~。
まあ、それは、また話すとするか。
世の中は、オイルショックも落ち着き、
どちらかというと活気にあふれていた。
田中総理は意外と若手議員に人気があり、
4回当選の有松議員が「田中総理を支える派」を立ち上げると、
他会派の若手議員の8割が集まり、
一気に自由党の半数以上の議員を有する最多派閥になった。
アメリカ寄りや中国寄りの議員が
田中総理の失脚工作を画策していたのだが、
自分の身が危なくなり、態度を急に日和見に変更して話題になった。
これを境に、アメリカ大統領は、田中総理といろんな交渉事をこなし、
対中国政策を推し進めることに専念する様になった。
田中総理の食えないとこは、
この間、中国にもちゃんと配慮していたとこだ。
シークレットで中国を訪問し、
北朝鮮との国境の町に日本領事館を作らせてもらい
中国製の新幹線を逆輸入してあげるなど、
普通ならバカげてると思えることをやってのけた。
この領事館がハバロフスク州の独立の
重要な拠点となっていくことなど
誰も考えもしなかった。
こんな先手が総理の寿命を短くしたのかも知れない。
後にも先にも、例を見ない政治家だったと思う。


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