これも親ガチャ?(第2話)

正はパトカーに過敏に反応した。
俺は小学生だし!とか思って、
気楽にアパートへ近づいていった。
そこには正の父親がいた。
正のバカ親は俺たちに気づいて、太ももをガードするつもりなのだろう
おしっこを我慢してるかの様な妙な格好で警察官の後ろ側に下がった。
『警察の旦那、このガキです。俺を殺そうとしたんです。』
異様な声で叫んでる姿は、動揺してるのが丸わかりだった。
『おじさん、子供を恐喝した事で自首してるの?』
とバカ親の大声と重なるように俺は言った。
警察官は、俺を見てから、バカ親に視線を移した。
『警察の旦那、それは、冗談ですよ。はは・・。』
バカ親のギョッとした表情が面白かった。
『佐藤、話が変わってくるぞ。』
警察官とバカ親は馴染みらしい。
『うん?君は正君じゃないのか?じゃあ、彼はお友達かな?』
警察官は正とも顔見知りらしい。
正はかたまりながらコクリと頷いた。
警察官は職業病なのか、ジロリと俺を睨みつけて、
『君、名前は?それとご両親は?』そう、質問した。
‘えっ、これって、職質?初めてされた。’
俺は少しワクワクしてきた。
『名前は、相田勉。
親の事は、そのおじさんが聞こえないところではダメですか?
さっきも、1回、正君にパンを奢っただけなのに、
人の息子を乞食扱いした!とか、
どうせなら俺によこせ!とか、酷かったんです。
たまたま何人か大人が近くを通りかかったので、
すきを見て逃げてたんです。
今はパトカーがあったから近づいて来たんですけど・・・。』
俺の話を聞きながら、警察官の顔が見る見る怖い顔に変化して
正のバカ親を睨みつけていた。
正のバカ親は、しどろもどろになりながら言い訳を試みたが
何を話してるか解らない。
『ちょっと詳しい話を聞こうか、なあ、佐藤。』そう言うと、
言い訳を続ける正のバカ親の頭を押さえつけて、
パトカーに乗せてしまった。
『相田君だっけ、また話を聞きに来るわ。
今日は突然で済まなかった。』そう言って、
パトカーのバカ親の隣に乗ろうとして、止まった。
『そうそう、相田君、下敷きを見せてくれないかな?』と言ってきた。
『僕、下敷きは使いません。ランドセルを見せましょうか?』
そう言った俺に、警察官は、
『うん、頼むよ。』と応じた。
俺は背中のランドセルを開いて警察官に見せた。
一通りランドセルの中を確認してから言った。
『相田君、普段は、どうしてるのかな?』
『僕、勉強が嫌いだから、あまりノートを使わないんです。
1度は買ってもらったんですけど
いつの間にか無くしちゃって。』とだけ、答えた。
『そっか、有難う。』
『正君、今夜はお父さん、帰れないから、
お母さんにそう言っといてくれるかな?
明日には引受人無しで返すから、今夜はゆっくり眠りなさい。』
警察官は、そう言うと正に手を振り
俺の顔を覚えなおすようにじっくり見てから
パトカーに乗り込んだ。
2人でパトカーを見送った後、俺は正に謝った。
『正、ごめんな。1度はバカ親死ね!とか思ったけど警察に行ったら、
虐待が酷くなるよな。俺、バカだから気が回らなかったよ。』
『相田君、今晩ゆっくり眠れる方が有難いから!
それに、これ、妹たちに食べさせてやれるし。』正が俺を慰めた。
『えっ、正、兄弟がいるの?』俺は聞き直した。
それじゃあ、今まで正はパンを食べずらかっただろうな!って
何も考えてなかった事を俺は少しだけ後悔した。
‘そう言えば、相田勉に兄弟はいないのかな?後で茜に聞いてみよう。’
俺はふっと、そう思った。
『いつもは無理だけど、そのパンで妹の分は足りるの?』
俺が正にもう1度聞くと。
今度は、はっきりした声で『大丈夫だよ、相田君。妹は喜ぶよ。』
とニコニコ笑顔で正が言った。
そして急ぐように走って帰った。とりあえずは喜んでくれたんだろうな!
俺は正の後姿を見送りながら、そう思うことにした。
 
 
 
部屋に入ってパソコンを開き、今日の出来高を確認した。
‘なんとなく嫌な予感がするな~。
全部いかれるより500万確保が大事だな。じゃあ、全部売り!’
『タン!』迷いを吹っ切っての全銘柄、成り行きの売りは、
結構、気持ち良かった。
翌日の夕方、若干のマイナスにはなったものの、全て現金になった。

‘思い過ごしだったかな?まあ、こんなこともあるさ。
今週は株を気にする必要が無くなったし、遊ぼう!’
これといったニュースも無かったので、俺はそう思う事にした。
 
 
『ム~君、大変。株が全部売られてる!』
郵便物の中の証券会社からのハガキを開いて茜が絶叫した。
正のバカ親父との一件から3日後の晩の事だ。
『だって、売ったもん。当たり前じゃん。』俺は茜に答えた。
『なんで売ったの?しかも私の分まで!
もうちょっとで10万の儲けになるとこだったのよ!』
なるほど茜が言いたい事は、そこか。
『解ったよ、俺の中から10万プラスになるように補充してやるよ。
でも俺に運用を任せたのは茜だろう?』
さすがに俺も、カチンときて言い返した。
『だって、まだ上がったかもしれないし・・・。』
茜は、収まらなかった。
俺は面倒くさくなってテレビをつけた。
『皆さん、これは映画ではありません。大変なことになりました。・・』
ニュースキャスターが叫んでいた。
サウジアラビアとイランが全面戦争を起こしたのだ。
映像は石油関連施設をお互いに破壊した直後の街を映したものだった。
一帯が火の海になり、次々に連鎖爆発が起こって地獄と化した、
そんな情景がテレビに映っていた。
俺は自分の勘がこんなに冴えている事に感動した。
いや、恐怖さえ感じた。
でも茜はこのニュースが株式市場に何を引き起こすのか、
理解できていなかった。
‘まだ、8時か・・・。’『茜、今、現金、いくら持ってる?』俺の問いに、
『私が、そんなに現金用意してるわけないじゃない。』
茜は投げやりに答えた。
『茜、俺が金貸してやるから買い出しに行くぞ。』
『え~、やだ。私、疲れてるもん。
それに、まだ怒ってるんだからね。ム~君。』
面倒くせ~と思う気持ちを心の隅に置き直して、
茜の顔に両手を優しく添えて極上のキッスをしてやった。
茜は真っ赤になって下を向いたまま上着を羽織って、車のカギを握った。
俺と茜は、まずディスカウントセンターに行き、
カップ麺、トイレットペーパー、ティッシュ、
ペットボトル飲料などなど車に乗るだけ買った。
それでも、3万円弱。ガソリンの給油缶と灯油缶も買った。
ガソリンと灯油の給油が済んで荷物を部屋な中に運び終わったのが、
夜の12時を過ぎたとこだった。
最後に寄ったコンビニで、
茜用の酎ハイを10本ほどとツマミとデザートもしっかり買った。
やはり目に見えるご褒美は必要だ。
俺は寝るのを諦め、徹夜で新聞配達に行くつもりで
茜に1時間ほど、これから起こることを説明した。
茜は一言も文句を言わずに、酎ハイを飲みながら俺の講釈を聞いていた。
うつろな目をして雲の上を歩いてます状態だった様にも見えた。
酎ハイでご機嫌だったから?俺のキスが効いた?から
どっちらが有効だったかは未だに解らない。
 
 
 
翌日、茜は休みだったこともあり、
俺が新聞配達から帰った時も爆睡だった。
俺は早速余った朝刊を読ませていただくことにした。
新聞には事件のニュースが全世界に駆け巡った事、
株式市場が開いていたイギリス、フランス、
ドイツの市況が大幅安になった事、
続いて開いたニューヨーク市況も2000年のオイルショックだ!
と書いていた。
たった1日で石油関連品の値上げ予測が出たことなど、
おっさんの時の俺の経験にもなかった事態になりつつあった。
‘今日は、あっちこっちで品切れの嵐だろうな。’
俺は茜の寝相を見ながら、
この状態を見て茜はどんなリアクションをするんだろう?
そう思うと楽しくてしょうがなかった。
ホッとしたのか睡魔に襲われた。
とりあえず戸締りをして茜の布団に潜りこんだ。
 
 
『ム~君、起きて!』茜に起こされたのは、その日の午前11時だった。
担任からの電話で茜が起こされたらしい。
茜は担任に平謝りで電話を切ろうとしていたところ、
強引に桃子先生から‘相田君に代わって下さい。’と言われたらしい。
『相田君、お願いだから受験をして頂戴。
私も、あなたの成長が楽しみなのよ。』
なんだか嘘っぽかったが、桃子先生の必死さが伝わった。
『桃子先生、ごめんなさい。今から学校に行きます。
でも慶應義塾付属は、今年の推薦を全て取り消すと思いますよ。
俺の場合は再来年度だから確実に中止になると思います。
だから少し様子見してはどうですか?』
そう言い終わると俺は勝手に電話を切った。
茜が何気につけたテレビからニュースが流れていた。
『東京証券取引も、オイルショックによる世界不況のあおりを受け、
全面安で推移し、後半も下げ幅を広げる勢いです。・・・』
茜は寝ぼけ半分で、俺を抱きしめながらニュースを見続けた。
多分、事の重大性はまだ解っていないと思う。
 
 
 ※皆様、読んでくれて、ありがとう。
次回は5月15日にアップします。ゴリ

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