これも親ガチャ?(第6話)

 正のお母さんが、警察官たちに説明をしてくれた。
俺の父親の外傷(最後の一蹴り)が
問題になりそうだったが、
学校側から父親が虐待児に5m以上近づかない条件に
違反してる点と
教頭への暴力(腹を蹴っている事)を指摘され、
うやむやになった。
この俺の蹴りを問題視したのは、
正のオヤジと仲の良い警察官の指摘だった。
正のお母さんは、轟さんと呼んでいた。
どうやら俺は、この轟さんに睨まれたらしい。


折角の卒業式が警察沙汰になり、
そのおかげで俺は職員室で缶詰にされた。
まあ、校長室でなかっただけ気は楽だった。
校長室は、校長、教頭、警察官で埋まっていたからだ。
そして今回の経緯の説明や警察の対応もあり、
茜も学校に呼ばれた。
茜は職員室内の簡単な応接セットで
桃子先生にひたすら謝られていた。
俺からしたら奇妙な光景だった。
『だから、言ったじゃない。私が卒業式に出た方が良いって!』
茜は日頃のうっ憤を晴らすかのように俺に説教をした。
俺は、大人しくしていた。
なぜなら、正と正のお母さんが職員室前の廊下で
俺たちを待っていたからだ。
大人しくせざる負えなかった。
10分間は我慢して聞いていたが、
茜は段々とエスカレートしていった。
俺は、なだめるのが大変だった。
「正のお母さんが助けてくれたので挨拶して欲しい!」
という茜へのお願いで、
なんとか桃子先生と俺は解放された。
『えっ、ウソ~、佐藤先輩!?』
茜は、正のお母さんの顔をマジマジ見ながら、大声をあげた。
なんと、正のお母さんは茜が新人の時に
世話になった恩人だったそうだ。
茜はいつもの調子で子供の様に、はしゃいでいた。
茜を少し落ち着かせて、正のお母さんが茜に言った。
『茜さん、相田君をどんな経緯で引き取ったの?
ここでは何だから、今度、家に遊びにいらっしゃい!』
正のお母さんは、俺に興味を持ったらしい。
ハイテンションの茜は家に帰り着くまで、
延々と佐藤先輩が如何にすごい人だったかを俺に話し続けた。
その話を聞いてる間、
何度も「なぜ、正のオヤジとお母さんは結婚したのか?」
「なぜ、未だに離婚しないのか?」という疑問が浮かんだ。
俺の不思議は増えるばかりだった。
よほど茜に聞こうかと思ったが、
これだけ佐藤先輩を褒めたたえる茜が
一言も正のオヤジについて言わないのは知らないからでは?と
予想を点けて、聞くのを止めた。
だって、『佐藤先輩』っとしか呼ばなかったってことは、
その頃、すでに結婚してたはずだからだ。
予想通りだが、茜の話は夜中まで続き、
結局、俺は、徹夜で新聞配達に行った。
更に、ラブホの社長も今日に限って話が長かった。
あくびばかりの俺をなかなか解放しなかった。
『中学生になったらな、
この辺のワルはタチが悪いから・・・。』
的な話だったと思う。
社長は、とどめに
『お前、春休み、暇だろう?
パートに多めに入ってくれよ!』
と言ってきた。
『解ったから、俺、徹夜なのよ。
2日後からにしてよ。じゃあ、帰るね。』
ラブホを出たのは、7時になろうかという時刻だった。
町は早歩きの大人たちで溢れ出していた。


マンションに帰り着くと、
茜は休みを2日取っていたのだろうか?
まだ、眠っていた。
俺は、茜怪獣を起こさない様に自室に入り、
目覚ましを9時にセットした。
バイト代が入ったので、株投資の復活を考えていた。
新聞は、3か月前から続いている中東の混沌とした状況を
さも他人事の様に書き立てていた。
だが、今度の総理大臣はやり手だった。
数か月前の2月に
任期途中で前総理大臣が体調不良で止めてしまった。
その後を引き継いだのが、次の田中総理大臣だ。
交代と同時に、停止していた原子力発電を期間限定で作動させ、
ODAを使って、サウジアラビアの石油精製工場の
突貫工事と消火活動を指揮した。
自衛隊まで出動させて1か月強で、完成させたのだ。
まだ、石油製品は、出荷できてないが秒読みの様だ。
総理大臣のすごいところは、
この石油精製工場のとなりに
水素ガス工場も作っちまったことだ。
2か月後に新聞に出たことだが、
敵対した国にも投資話を促し、黙らせたそうだ。
でも、原油は1バレル50ドル以下にはならなかった。
これも田中総理の産油国への配慮だった。
原油の生産を需要より少しショートさせて、
水素ガスの商売を産油国に広めたのだ。
日本にだけ格安に入ってきてるのは、後から聞いた話だ。
新聞では、議会で野党議員が田中総理のパフォーマンスに
すごい剣幕で反対した事も書いていた。
議会に通さずにかなりの予算を勝手に始動させたからだ。
更に1か月後、東京電力と関西電力、九州電力の3社のみ、
国の林野庁の土地に水素ガス発電所の完成、
発電所の起動を許可するニュースが飛び込んだ。
同時に、『原子力発電を水素ガス発電の状況を見ながら、
徐々に停止していく。』
と官房長官が説明するテレビニュースが流れた。
この出来過ぎる総理大臣は、アメリカ、ロシア、中国と
けん制し合う状況を作っていった。


そんな事を想像しないまま、
俺は、下がりに下がった電力会社の株に持ち金の2/3をつぎ込み、
電気自動車会社に1/3をつぎ込んだ。
前に書いたニュースが出る2週間前の事だ。
この時も、買い終えると、布団に潜りこんだ。
一仕事終えた後の眠りは、気持ちいい。

1週間後、茜が俺を叩き起こした。
また、株の取引きを知らせるハガキを見てのリアクションだった。
『ムー君、なんで、私のお金で株を買ったの!
この間、しばらくは株は買わないって言ったじゃない。
損したらどうするの?
折角、こんなに貯まったのに。』
俺は、またかよ!と思いながら、今度は相手にしなかった。
『それから、ムー君、もう、起きて。
今日は佐藤先輩のお宅に行く日よ。』
そう言えば、茜がいやにオシャレしてると思ったら、そういう事か?
俺は、目をこすりながら、
『俺は、いらね~だろう。先輩と色々喋ってきたらいいじゃないか。』
と言った。
『それはダメよ。相田君と2人で来なさいって言われたから。』
『そんなの聞いてないよ。それに茜だって知ってるだろう。
最近はラブホのパートも朝8時までやってるって。』
俺は恨みも込めて言った。
『だから、出かけるギリギリまで寝かせてあげてるわよ。
もう12時よ。』
茜は威張って言ったが、3時間しか寝ていない。
茜が譲らないので仕方なく佐藤家に行った。

正に『よお!』って声をかけながら入ると、
俺たちをご馳走してくれる準備の途中らしく
慌ただしく動きながら
『あっ、相田君、久しぶり。ちょっと、待っててね。』といった。
今日は正のオヤジは居なかった。
代わりに正の妹が俺に絵本を渡しに来た。
よく解らず胡坐をかいて、話をしようとすると、
正の妹は、ちゃっかり胡坐の中に座り込み
『おにいちゃん、読んでいいよ。』と言いやがった。
『相田君、ごめんね。いつも、僕がそうやってるんだ。』
正が料理を運ぶついでに俺を見つけて、そう謝った。
『いいよ。じゃあ、読むかな。』
‘今は1人の俺だが、妹がいた気がするし、
たまには兄貴を演じますか?’
そう思い直して言うと、もう一人来た。
『じゃあ、ム~君、ととこと一緒に座ろうか。』
‘?へ~、君もム~君なんだ。’そう思いながら、
マイペースな妹と弟に胡坐の上に座られて、
同じ絵本を3度も読んだ。桃太郎だった。
20分後、俺の膝は軋んでいた。
ガキ2人は、さすがに子供の身体の俺にとって重かった。
‘正は、毎日、これをしてるのだろうか?恐るべし。’
俺は、ここで、違和感を覚えた。なんだ、この違和感は?
俺が解放されたのは食事の準備が出来たからだ。
『相田君、ごめんね!』
正と正のお母さんは俺にねぎらいの言葉をくれたが、
茜は『ム~君、子守が似合ってるわよ。』と冷やかし始めた。
俺はスルーしたが、正の妹と弟が反応した。
『ム~君と私は、お兄ちゃんに絵本を読んでもらったよ!
ム~君は子守をしてないよ。』
『だ~!』弟はまだ言葉がしゃべれないらしい。
茜は鈍感だから、まだ、気づいていなかった。
クックックッと笑ってる俺を見て、正が合いの手を入れた。
『茜さん、僕の弟もム~君なんです。
だから、反応したんだと思います。
相田君は、絵本を読んでる間に気づいたんだと思います。』
『ワハハハ!』とうとう俺は大声で笑ちまった。
すると、みんな笑い始めて、
茜が一人で泣きべそをかき始めた。
『ごめん、ごめん。恥をかかせる気は無かったんだ。
茜のお陰でみんなハッピーになれたんだから。
いいじゃん。ありがとう、茜。』と俺はフォローを入れた。
すると、正も『茜さんがいるだけで、ほのぼのします。
有難うございます。』と続ける。
『えっ、そう?じゃあ、仕方ないか。』
茜は機嫌を直してくれた。
『じゃあ、食べましょうか。』
タイミング良く、正のお母さんが先に進めてくれた。
最初の一皿目を食べた頃合いで、正のお母さんが俺に聞いてきた。
『相田君、おばさんの事、覚えてない?
実は、2度、会ってるのよ。
ただ、その時の勉君と今の勉君は別人!
最後に会ってから3年半で何があったか
おばさんに話してくれない?』
俺は愕然とした。
こんな近くに俺を知ってる人がいたなんて。
でも、想像すれば当たり前だ。
正の父親と俺の父親は知り合いの様だった。
おまけに、正のお母さんは看護師だ。
接点はたくさんあったはずだ。
正は、姿勢を正して俺の声に耳を傾けた。
『へ~、知らなかった。
ム~君と佐藤先輩が知り合いだなんて。』
全く空気を読まない茜が喋った。
俺は頃合いかな?と思って、深呼吸をした。
できれば、今後の協力者になって欲しいのと、
俺の知らない相田勉を聞きたかった。
そんな複雑な判断を気まぐれでしてしまった。


『俺は、3年半前のあばら骨を折って
生死をさまよった虐待にあった日・・・・。』
つづく


※次回は土曜日の予定です。よろしくね。ゴリ


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