これも親ガチャ?(第3話)

今日は大人にとって、とても大変な日だったらしい。
街のあちこちで渋滞が起きていた。
そして多くの大人が苛立っていた。
子供は何かわからず過ごしていたが、
でも勘の良い奴は学校に残らず家に早めに帰っていた。
俺はいつもの様に正と一緒だった。
ただ今日は学校で宿題を済ませてから帰った。
俺たちにとって、いつもと違うことは
コンビニのパンが売り切れていて、買い食いできなかったことだ。
『参ったな~、正、どうしよう!』俺が言うと、
『無いものは、しょうがないよ。
いつも貰ってて僕が悪く感じてるくらいだよ。』と正が答えた。
『じゃあ、給食のコッペパン、妹にあげるよ。』
『えっ、良いの?相田君も食べてないじゃん。』
『だって俺、今日遅刻したじゃん。
家でお昼を食べて来たから、食べられなかったんだよ。』
そんな俺の言葉に、正は、『ありがとう』とだけ言って
パンを持って走って帰った。
妹、可愛いんだな。俺は自然に、そう思った。

『お帰りなさい、ム~君。
茜、やっぱり、ム~君、大好き!』そう言って、
茜は靴も脱いでない俺に抱き着いてきた。
『それで、どの辺りまで、理解できたんだ?』
茜が今後、俺に逆らわない様に
しっかりと記憶させるために、意地悪く聞いた。
だけど、茜が理解したのは自分の株が暴落を免れたことだけだった。
『そうだよな!茜には、もう少し後で状況が出そろってから
答え合わせした方が良いのかもな?』
そう呟きながら俺は話を続けた。
『それで茜は、どうする?もう少し俺に運用を任せるの?』
茜は俺が何を考えてるのか解らず、ただ頷いていた。
『さて、それじゃあ、茜スマホを貸して。』
そう言うと俺は、証券会社に電話をかけた。
電話口は、おっさんの声がした。
不機嫌な口調での対応だったが俺は構わず続けた。
『この銘柄を借りたいんだけど、
550万円分のキャッシュでどこまで貸してくれる?』
俺は客だから遠慮なく話す。
電話の相手が誰なんて分かる訳ないから、どうどうと渡り合う。
『え~っと、相田勉様ですね。解りました。
通常は、1000万円以上のご利用のお客様にしか、
ご紹介できないのですが、ご利用度では申し分ないので、
400万円分まで銘柄の貸し出しに応じましょう。
但し、損失が出た場合をしっかり考慮して下さいね。
そうそう、貸付銘柄は規制がかかりそうなので、気を付けて下さいね。』
担当者はちらっと喋った。聞き逃しを狙ったのか?
『そうですか、いつ頃からだと思いますか?』
俺は、確認を怠らなかった。
『うわさでは、今週中です。
では、扱える状態にしておきます。これで、失礼します。』
‘なるほど!まあいっか、何事においても、ほどほどってことね。’
俺は独り言を言いながら、
貸付銘柄400万分を全て成り行き売りを
スマホの証券口座から操作した。火曜日の事だ。
そして、木曜日は、仮病で学校を休んで、
午後一で、売り分全てを買い戻す予定にした。
これで、一気に総額700万ぐらいまで膨れるな。
さすがの俺も、緊張した。
木曜の午後に買戻しの成立を確認し終えた後には、睡魔が襲ってきた。

『ねえねえ、ム~君、どうなった?
私、仕事が手につかなくって、ミスばかりだったよ。』
茜は、帰るなり、寝てる俺をゆすりながら聞いた。
‘お前は子供か!’と言おうと思ったが、
『茜、明日からは心配いらないよ。もう株はしばらく休むから。
目的のハンドバックが買えるぐらい儲かったから。』
とだけ、あくびをしながら答えた。
俺は、眠たかった。
もう説明は十分だろう!とそのまま眠ろうとするけど、
興奮した茜は止まらない。
俺を揺らしながら、興奮のまま叫んだ。
『ねえ、ム~君、ほんとう?茜、嬉しい!』
眠たいのに俺はキス攻めにあわされた。
掛け布団を被っても、
『そんな照れなくても良いじゃない。』とか言って止めない。
絶対、嫌がらせだ!と思った。
ブチ切れた俺は、『あっそう、じゃあ、出ていく。』と怒鳴った。
さすがに茜の興奮も止まった。
『嬉しかったから、ちょっと騒いだだけじゃない。』
とかブツブツ言いながら、茜は隣の部屋に消えていった。
折角の睡眠時間が・・・目が覚めてしまった俺は、不機嫌だった。
‘新聞配達がどれだけ睡眠不足か、茜に味合わせてやりたい。’
という悪魔な思いが、俺の中にある閃きを授けた。
『茜、恨みっこなしだからね。クックックッ!』
翌朝バイトから帰った俺は茜の布団をはぐり、
冷え冷えに冷えた水で洗たばかりの両手を茜の太ももにつけた。
冷たかったのだろう!すぐに寝がえりで防ごうとする茜。
俺は間をおいて、次はお腹に手を置いた。
『もう、嫌!』茜の寝言だった。
茜は意外と起きないんだ。
じゃあ!と、また水で洗い直した手をお尻につけてやった。
すると茜は起きるどころか、俺の方に転がって来て抱き着いた。
俺の身体は子供だ。
茜に乗られて、身動きできなくなった。
いつの間にか茜と抱き合いながら眠っていた。
『あ~、寝た。
あら、ム~君、昨日は私のキスをあんなに嫌がってたのに!
一緒に寝たいなら、そう言えばいいのに!』
茜が目覚めた直後にそう言った。
俺は、茜の下敷きになった右半身が痺れて動けなかった。
いたずらを失敗したのが癪だったから何も言い訳をしなかった。
‘この天然さは、ある意味、能力かもしれない。’と思った。
茜は朝ご飯を作りながら俺に聞いた。
『そうそう、ムー君。ガソリンの缶、どこに置いたっけ?
そろそろガソリンが切れそうなんだけど。』
『茜、あと2回はスタンドで給油をしておいで。
それから車はあまり使わない事。
一時的にガソリン、無くなっちゃうからさ。』
俺は布団を畳みながら茜に言った。
『えっ、それ困る。ガソリンが無くなるって、どういう事よ。』
朝食作りの手を止めて、茜は俺の前に仁王立ちした。
俺は今日ゲットした朝刊を読みながら話した。
『先週、石油の最大輸出国同士がお互いの
石油を地下から汲み上げる機械の壊し合いをしたんだ。
そうすると機械が修繕できるまで、
他の国の石油と今出回ってる石油しか無いのよ。
次に起こるのが石油の取り合い。石油の価格は上がるし、
普段、持たない量をみんなが持つから、
世界中が納得する量が、いつもの4~5倍まで増えるのよ。
だから、俺たちみたいな貧乏人まで、
ガソリンが来なくなるという訳。』
茜は、それを聞いても怒ってた。
『それから、今、買い込んでるものの話を外でするんじゃないぞ。
押し込み強盗がくるぞ。』
そう言った後から、茜は急に黙り込んだ。
『??えっ、もう、しゃべったの?』
慌てた俺の物言いで事の重要性を察したのか、
茜がしどろもどろに言い訳を始めた。
『ちょっと!少しだけ、ムー君の事を話しただけよ。
士長でしょう。久美子に、麻里江に・・・。』
俺は自分の見通しの甘さを実感した。
『茜、座んな。
茜はトイレットペーパーが無くなったら、どうする?』
俺は、静かに聞いた。
『当り前じゃない。無いと困るからドラックに買いに行くわよ。』
茜は、腰に手を当てて、
‘それぐらい私だって解るわよ。’的な態度で答えた。
『じゃあ、ドラックに行っても売り切れてたら?』
俺は気にせずに続けた。
『他所のドラックに行くわ。
最悪、高いけどスーパーでも仕方ないわね。
トイレットペーパーは使うもの。』
茜の話し方が段々苛立った言い方になってきた。
『トイレットペーパーって、結構、石油を使うって知ってる?』
俺は、少し話を進めた。
『そうなの?で、何で、トイレットペーパーの話をする訳?
私、忙しんだけど。』
とうとう茜が怒り出した。
『ガソリンの値段が上がってるし、
給油やドラックに行列が出来てるってことは
ガソリンが不足し始めてるって事。
ガソリンが不足してるのに、同じ石油が、
トイレットペーパーの製造会社には
潤沢にある訳?おかしくない?』俺は、続けた。
『言われてみれば、そうね。』茜の怒りが少し消えた。
『だから、トイレットペーパーの製造会社は作りたくても、
トイレットペーパーを作れなくなってるって思ってね。
茜、さっきのトイレットペーパーを売ってなかったらの話だけど、
トイレットペーパーが不足したらどうする?』
『だって他でおしりを拭けないし、探すわよ。』
茜はだいぶ解ってきた。
『じゃあ、茜、そんな困ってる時に、
茜のとこは、ムー君がバカみたいにトイレットペーパーを
買ったんだよね。あれ、1年分ぐらいあるんじゃないかしら?
とか話してたら、「1袋だけ頂戴?
いやいや、お金は払うから!」とか言われると思わない?』
俺は、やっと話が終わると思いながら辛抱強く話したが、
事態は最悪だった。
『そうか、だから、久美子と麻里江が、
今日の朝、寄って良い?って聞いたのか。』
茜は納得した。
それを聞いた俺は、最悪の事態にどうしたものか、
収拾がつくのか不安に襲われた。
『これは、とっとと会社に売りつけた方が、危険じゃないかも?』
俺は、これ以上の講義を諦めた。
茜に何かを話すのを止めようと思ったが思いとどまった。
違う展開の方が失敗が無いと考えたんだ。
『茜、困ったよ。家の分を除いたほとんどを売る話にしてるんだ。
だから家の分からしか分けられないぞ!』
『え~、ムー君、どうすんのよ。もうすぐ、来ちゃうじゃん。』
茜は泣きそうになった。
よほど持ち上げられたらしい。
今更、断れない状態のようだ。
『茜がトイレットペーパーを使うのを節約すれば?
まあ家の分の10袋をどう分けるかは、茜に任せるよ。
ただ4か月持つように分けてね。俺も困るから。・・・』
茜が真っ青になってる時に呼び鈴がなった。


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