狩野さんの入浴part8

狩野さんの支援を始めて半年が過ぎたころ、自宅で入浴できないだろうかと事務員さんより話があった。
「二人介助でなら大丈夫ではないでしょうか、座位もとれるし、一人が見守って一人が介助したら洗えると思います。ただ、移動は二人介助で抱える形になると思いますが。」と伝えると
社長が「ふくさん、体が大きいからあの通路通れないかもね」と笑う。
いくら大きくても通れるわと心でつぶやく。

私と村田さんの二人で入浴介助することになった。
村田さんは先輩で、身体介護の大先輩。
頼りになる先輩で口調はきつめだけどとっても優しくて素直で面白い方。
さっそく、日時決めて、二人で訪問した。
早いうちから伝えると、不安定になったらいけないからと、入浴直前まで狩野さんには内緒にしていた。
「今日これから、個々の風呂に入ってみない?」と声かけると
「えっいい。面倒くさいし怖い」と不安な様子の狩野さん。
「大丈夫。ちゃんと支えるから、久しぶりにここの風呂に入ってみようよ」と伝えると
「じゃあ行ってみる」と笑顔になった。
風呂場まで二人がかりで抱えて移動した。
シャワーのお湯を体にかけていたら、小さな洗面器で浴槽の湯をくんで自分にかけ始めた。
「狩野さん、すごいね。今までそうやって入ってきたんだね」
と声をかけると「そう、ずっとこうやってしてきただで。」と手慣れた手つきでお湯をかけている。
今日は久しぶりだから、シャワー浴にしようと思っていたが思っていた以上にスムーズで、表情もよかったため狩野さんに聞いてみた。
「浴槽に入ってみますか?」との声かけに
「それなら入ってみようかな」と。足を上手にあげて浴槽をまたぐことができた。そしてゆっくりしゃがんで肩までしっかりつかっている。
「いい塩梅。嬉しいなあ」と嬉しそうな狩野さん。
よかった。こっちまで嬉しくなる。
少しして、「あがる」といい、足をあげられたがあげきれず介助した。
それでも、帰りは居室まで一生懸命歩こうとされた。二人で支えていたが足を上手に動かしている。
もしかしたら歩けるようになるのではないか、と思うようになった。

今までも考えられないような回復をしてきた狩野さん。
うん、狩野さんまだ大丈夫だ。
なんでもできそう。
本当にそう思っていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?