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ゼロ書民法 #07 公信の原則(即時取得、94条2項類推適用)

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#07のテーマは公信こうしんの原則です。公示の原則との違いに注意しながら、学習してください。


公示の原則と公信こうしんの原則

不動産登記の効力の限界

不動産二重譲渡のシチュエーションです。建物を買おうとする者(上図のD)の立場で考えてみましょう。
売主Aから先に本件建物を買い受けているBが出現する危険は、本件建物の不動産登記簿の内容(登記記録)を確認すれば排除できましたね。ピンとこない方は#05を復習してください。

今回問題とするのは、Aがそもそも所有者ではなかったという危険です。
例えば、Aは本件建物の所有者ではないのに、必要書類(ex.売買契約書・本人確認書類・印鑑証明書)を偽造して登記を申請し、Aが本件建物所有者であるように登記され、Dがそれを信じてしまったとします。
結論をいうと、不動産登記簿上の所有者が真実の所有者ではなかったときは、所有権を取得することができません。不動産登記の効力によっては、ない権利をあるものとみなすことはできないのです。
DはAに対して代金返還や損害賠償を求めることはできても、本件建物の所有者になることはできません。

動産引渡しの更なる効力

しかし、動産については別のルールがあります。
DがAよりダイヤモンドを買うとき、Aがダイヤモンドを占有している限り、Aがそもそも所有者ではなかったとしても、Dはダイヤモンドの所有権を取得することができます。
これを即時取得といいます。とても重要なしくみです。

公示の原則/公信の原則

#05で説明した「公示方法(不動産登記/動産引渡し)を備えない物権変動は存在しない」とみなすルールを公示の原則といいます。これは公示のない権利は、本当にないとみなしていい、という定めです。
先ほど説明した「公示方法を備えた物権変動は存在する」とみなすルールを、公信こうしんの原則といいます。これは公示のある権利は、本当にあるとみなしていい、という定めです。

公示の原則は不動産・動産どちらも適用がありますが、公信の原則は動産のみに適用され不動産には適用されません
公信の原則が動産のみに適用されるのは、動産は不動産と比べて流動性が高く、取引のたびに関連調査が必要だとすると著しい取引の停滞を招きかねず、経済的に効率が悪いからです。また、不動産登記制度が必ずしも虚偽の申請を防止できるようになっていないことも考慮されています。
ただし、不動産は94条2項類推適用という別の制度によって保護される場合があります。

以下、動産物権変動の公示の原則(即時取得)、不動産物権変動の公示の原則(94条2項類推適用)を順に説明します。

動産物権変動の公信の原則(即時取得)

即時取得の効果

BがA所有のダイヤモンドを盗み出し(①)、BがCに同ダイヤモンドを売ったとします(②)。原則は、ダイヤモンド所有権がA→B間で移転していないため、Cはダイヤモンド所有権を取得できません。
しかし、即時取得が成立するときは、Cはダイヤモンド所有権を(原始)取得します。そして、これと矛盾するAのダイヤモンド所有権は消滅します

動産物権変動は引渡しにより公示されます。そして、動産所有者が誰であるかは、動産を現に所持する者に問い合わせれば明らかになります。
Bが動産を現に所持しており、「私はこのダイヤモンドの所有者です」と回答するのをCが信頼したとき、Cをダイヤモンドの所有者にしてあげよう、というのが即時取得です。

即時取得の要件

即時取得の要件は、①取引行為による占有取得②占有取得が平穏かつ公然であること③(占有取得者の)善意無過失、です。
要件①取引行為による「占有取得」に、占有改定は含まれません。詳細は後述します。
要件③(占有取得者の)善意無過失の対象は、前主が無権利であることです。善意は推定され(186条1項)、無過失も推定されます(188条)。動産取引の簡易迅速性から、即時取得者には高度な注意義務は求められません。

即時取得が適用される引渡し

即時取得が成立するには、動産がAのもとから切り離されて、Cが動産の支配を確立したことが必要です。
そして、Cの動産取得は引渡しによって公示されるので、引渡しが動産支配確立の基準になります。
ただし、引渡しの中でも公示が弱い占有改定では、動産支配確立が不十分であるとして、即時取得は認められません。

指図による占有移転vs占有改定

まず、現実の引渡し・簡易の引渡しでは、引渡後にCが動産を占有することになるので、動産支配確立の目印として十分でしょう。
しかし、指図による占有移転・占有改定は、そうではありません。両者を比較してみます。

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