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「ワガママ魔法使い」 #お話

おはなし

むかしむかし街から離れた森に魔女が住んでいた。魔女は人よりも長く生きるので気味悪がられてしまい一人で住んでいました。ある嵐の晩に旅人が訪ねてきました。ちょっと怖かったので隣の物置に旅人を泊めました。

旅人は嵐が過ぎ去るまでの暇つぶしにと今まで旅したところのお話をしました。かつて住んでいた街と森のことしか知らない魔女はとても興味深く、旅人の話を一字一句逃さぬように聞き入りました。その夜大きな木が倒れてきて、魔女の家を潰してしまいました。

嵐が過ぎ去ったあと、荒れた森を魔法で治している魔女。自分の家が潰れているのに、まず森の木々や動物たちのために動いています。お礼や申し訳なさも含めて旅人は家を直すことにしましたた。

森を治し夕方帰ってくると、家の横にテントが立って、旅人が夕食を用意してくれていた。世界一の魔女なので家を元どおりにすることは簡単なのだが、倒れてた木をどけ、中から使えそうな家具を出して濡れないように小屋に入れてくれているのを見ると、なんだか魔法で直すのは申し訳ない気がして直しませんでした。何よりもう少し彼の旅の話を聞きたいと思ったのは彼女自身の気持ちでした。

その夜は彼の持っていたテントでいっしょに寝て、たくさんの話を聞いた。動物ではなく人と久しぶりに話をした魔女はなんだか心がドキドキしていました。

少しずつ森を治す魔女、少しずつ家を元に戻す旅人、これから何日もそういう生活が続きました。1日森を治して帰ってくると彼がご飯を作って待っていてくれる。夜は外でご飯を食べ、そのあとはテントの中でたくさんの話をしました。

だんだん森も治ってきて、家も普通に直って元どおりになってきました。世界一の魔女は魔法で一瞬に直してしまうこともできるけれど、彼が汗を流して直してくれた家は今まで以上に好きになりました。家への愛着はそのまま彼への愛へと変わっていました。
魔女は自分の気持ちに気付いてしまい、明日また旅立ってしまう彼にどう接していいかわからなかった。いつもと違う様子に彼が気がつく。

「どうしたの、今日は体の調子が悪いの?」
「いつもの調子じゃないかもしれない。」
「それは大変だ。今日は早く休んだほうがいい。」
「…… 調子が悪いから明日もいっしょにいて欲しいな。」
「そうだね病の君を置いて去ることはできないよ。でも君は癒しの魔法が使えるのにどうしたんだい。」
「この病を治すことはできないわ。」
「君は森さえも治すことができるのに、治せないものもあるんだね。」
「だって、だって、…」
真っ赤な顔をした魔女に彼が言う
「だって?」
「恋の病は治せないのよ!」
その顔はもう真っ赤になって火がつきそう。恥ずかしくて顔をあげられない魔女は容姿もあってかただの女の子です。
「それじゃあ、その病治るまでいないといけないかな。」
「えっ、それって...。」
「僕も君のことを好きになってしまったということだよ。」
顔を押さえてなく魔女の頭にそっと手を置こうとした途端、魔女は抱きつき大声で泣いている。彼の手は優しく彼女を包んだ。そしてなぜこんな森に一人で住んでいるのか、どれだけ辛いことがあったのかに思いを馳せた。しばらくして魔女が、
「魔女は恋をすると魔法を失うの。そうするともう私は魔女ではなくなるのよ。」というと、
「僕は魔女を好きになったんじゃない、ある一人の女性を好きになったんだよ。どうか君のそばに居させてくれないか。」と言う。

そうして森の中の二人の生活が始まりました。

翳る魔法

彼と住むようになると魔女は極力魔法を使わなくなった。今まで魔法でやっていた掃除、洗濯、食事など彼に教わり自分の手でやっていた。ついいつもの癖で魔法を使いそうになったが、いずれくる魔法がなくなったときのために自分の手でやると決めたのだ。

その点においては彼はいい先生だった。ありとあらゆることを知っており、自らの手で生活していたのはさすが旅人といったところだろうか。初めてつくったシチューは煮込みすぎて焦がしてしまった。芋の皮むきもできない魔女が初めてむいた芋はもう半分以下の大きさになっていた。

それでもなぜだろう、魔法で作った料理よりもおいしい。焦げたシチューも小さくなった芋も彼と共に自分の手で作ったためであろうかとてもおいしかった。何より彼は「おいしい!」と言って食べてくれたのはいちばん嬉しかった。なんでも食べてしまうので、ちょっと味音痴なのではないかと疑ってはいるけれど。

誰かのために何かをつくるのがこんなに楽しいことだと魔女は初めて知った。人がとてもめんどくさいことをしているとバカらしく見ていたが、今となっては尊敬の念すら抱いた。
だんだん自分でできることも増えてきたので、魔法が弱くなっていることはさして気にならなかった。自分の手でできることが増えてきたのは嬉しかった。もう料理は彼よりも上手になっているのではないかと思っていた。彼にはまだまだと言われていたけれど。

落つる星

ある日見慣れない人が二人のもとにやってきた。初めのうちは追い返していたが、何度も来るので話を聞くことにした。どうやら女王からの手紙を持参した使いのようだ。

手紙の内容は、城の魔法使いや天文学者がどうやら星が落ちてくることを観測し、伝説にある「落つる星」と確認できたのだが、どうするかいい案が浮かばない。伝説によると「星の魔女」が知っている魔法で砕け散ることができると言う。しかし王都には星の魔術を使えるものがいない。「光」の魔女ならば「星」「月」「火」「水」「土」の魔法を全て知る。まさしく彼女が「光」の魔女だった。

そして彼女は言った。
「今、私は人を好きになりました。初めて信頼できる人だと思いました。だからもう魔力は残っておりません。術式を知っていても、魔力がなければ発動しません。どうかお引き取りください。」と。さらに
「もし魔力が残っていたとしても、もう魔法を忘れてしまった人たちのために力を貸すのは嫌です。どれだけのことを私たち魔女にしてきたのかをお忘れてしょうか。」そう言うと彼女の目は少し涙が溢れていた。

どうしようもないと思った使いはがっくり肩を落として帰っていった。
彼がそっと魔女に近寄ると「ごめんなさい、あなたとの世界を守れそうにないわ。」と言う。そうすると彼が「大丈夫、いままでたくさん君からはもらったのだから、何も後悔することないよ。最後までいっしょにいよう。」といった。

二人は星が落ちてこようといつも通りの生活をしようと誓い合っていた。

新しい命

ある日、魔女が体調を悪くした。大抵が治癒魔法で治してしまうので治らないことはない。何日かたったあとでも良くなる気配はない。食欲まで落ちてきたので旅人は心配になる。いてもたってもいられなくなったので医者に連れて行こうかと思ったが連れて行ける状態ではない。

熱も出てなかなか引かなかったが、三日目の朝熱が引いたようだ。魔女はお医者さんを呼ぶように頼んだ。ならばということで、お医者さんを連れてきた。医者はしばらくみたあと看護師に任せて部屋を出てきた。心配そうな旅人を横目に笑みを浮かべていた。

しばらくして看護師さんが出てきた。医者に目で合図を送ると医者はこう言った。「おめでとう。彼女のおなかの中には新しい命が宿っているよ。」と言った。世界の破滅の前に彼女がいなくなるのではないかと思っていた旅人は拍子抜けしたような顔をしていた。しばらくぼおっとしていたが、彼女のいる部屋に入り手を握りいった。
「おめでとう」
「何言っているのあなたの子供でもあるのよ。」
「しばらく君は休んでいなくてはいけないね。」
「大丈夫?」
ううん、と咳払いが聞こえたので部屋の外を見ると、お医者さんと看護師さんがたっていた。旅人はこれからのことを看護師さんからみっちりレクチャーを受けた。終わる頃にはすっかり生気を失っていた。

その晩魔女は旅人に話した。
「ねえ。」
「なんだい?」
「ずっと考えていたんだけれど...」
「何を?」
すこし言い淀んでいた魔女だったが、意を決して話し始めたようだ。
「私、世界を救おうと思う。もう魔力はそんなに残っていないしできるかどうかわからないけれど。落ちる星のための魔法があることは知ってた。でも使ったことない魔法だし、もうこの世界に魔法はいらなくなった。だから初めはこの世界とともになくなるつもりだった。」
「そうだね。」
「でもね、この子に世界を見せてあげたいの。魔法の無い世界かもしれないけれど、あなたから聞いた世界はまだそんなに悪く無いのかもと思ったわ。」
「そうだね。君はきっとそう言うと思ったよ。」
「世界のためじゃない、この子のためだけに命をかけようと思うの。」
「それじゃあ、僕に手伝わせてもらおうかな。」
「でも失敗したらあなたまで...」
「大丈夫、君は失敗しない。三人で一緒に暮らそう。」

そうして森の奥の小さな小屋で世界を救う算段が始まったのだった。

準備の間

魔女は確実に落ちる星を落とすために古い文献を調べた。過去に何度も落ちてきて、何度か世界を救った魔女がいたことを知っていたからだ。旅人は森の中を探した。魔力を強くする薬草があるとかつての旅で教わったことがあるからだ。その薬草を旅人自身が森で見たこともあったので探した。ただたくさんの量が必要なので時間はかかった。

いろいろな準備のために街に行くときがある。そのとき人々の間でも落ちる星についての噂話をしているのを聞いた。しばらくすると、もう人々の間でもその話で持ちきりだった。どうやったら世界が無くならないか、どうやったら生き延びられるかを話していた。やけになり全財産を使う者、今までと変わらず生活をする者、神に祈りを捧げる者など色々な人がいた。魔女に助けを乞う小さな子はいたけれど、大人たちはただただ解決策のないまま過ごしているだけだった。

ある日魔女見習いの子が小屋を訪ねて来た。どうやら風の噂に二人のことを聞いたらしい。この森を探して小屋を見つけたのだから能力はあるのだろうと思っていた。何か手伝わせて欲しいとのことだったけれど、特にもう準備は終えていたので手伝えることはないと伝えた。こんな森の奥に来てもらったので旅人が歓迎して料理を作った。魔法を使わない魔女を見て驚いていたが、こんな魔女もいいですねと魔女見習いの子が言っていた。次の日魔女見習いの子は帰っていった。

もう夜になると「落つる星」は見えるようになった。二人はいよいよそのときがやってきているのだとわかった。とてつもない魔法を使う。森に影響が出ないように準備した。しばらくして昼でも見えるようになってきた。お日様よりも大きくなってきた星を見て次の満月の夜がちょうどいいだろうと考えた。満月の夜は魔力を何倍にもしてくれるのでその日にかけるのが一番だと思ったからだ。

それからの数日、魔女と旅人は今までのことを振り返りながら過ごしていた。新しい命を感じながら過ごしていた。
「いよいよ明日ね。」
「そうだね。」
「なんだか怖いわ。」
「大丈夫、君はちゃんとできるよ。」
「自分がいなくなるのは構わない。でもお腹の子とあなたがいなくなるのは耐えられない。」
「僕だってそうさ。だから3人で暮らそう。」
「そうね。それがいいわ。」
そうして二人は眠りにつきました。

大勢の魔女

次の日の朝、何やら小屋の前が賑やかです。たくさんの人がいます。いや箒に乗っている人もいるので全員魔女です。10人や20人で収まりません。たくさんの魔女がいました。2人はびっくりして外に出ると、以前小屋を訪ねてきた魔女見習いの子がいました。
「ご無沙汰しています」
「これはどういうことなの?」
「この日のために世界中の魔女を集めてきました。」
「でも落つる星を落とせるのは私の魔法だけよ。」
「それなので…」
後ろから出てきたのはどうやらこの集団のリーダーとも思えるベテランの魔女でした。
「かあさん!」
「ひさしぶりねぇ。あなた森に入って出てこないからどこにいったかわからなかったわ。」
「だってもう人のために魔法を使うのはやめたのだから、森の中の方がいいでしょ。」
「ん?あなたおなかに…、そういうことね。あなたたった一人のために全魔力をかけるのね。そういうことなら私たちが来た甲斐があったわ。」
「どういうこと?」
「”星落としの魔法”を唱えられるのはあなただけ。私でもできないわ。おなかの中にいるのなら、もうあなたの魔力はそんなに残っていないわよね。」
「そんなことはわかっているわよ。」
「そこで私の登場。ここにいる全ての魔女の魔力を私が一つにまとめてあなたに渡すわ。そうしたら、魔力がなくて魔法の効果が出ないこともないでしょう。それでもおそらく一発勝負。もう一度魔力を集めて魔法を唱える時間はないわよ。」
「でもどうして母さんがそこまでしてくれるの?」
「あなたほどではないけれど、私たち魔女が何をされたのかは思い出したくないわ。でもね、存外悪いことばかりではないわ。人間の友人もいる。守りたい命はあるのよ。しかし私には星落としの魔法は使えない。使えるのはあなただけ。そのあなたがどこにいても見つからない。だから一度は諦めたわよ。でもこの子があなたのいる小屋を見つけたというのだから驚いたわ。」
魔女見習いの子は少し照れていた。
「まあ事前に準備したいと思ったけれど、またあなたどっかにいってしまうと思ったからこうやって当日押しかけたたってわけ。こんな大きな魔法、仕掛けるのならば満月の今夜よね。」
「なんでもお見通しってわけね。仕方ないから手伝ってもらうわ。」
「相変わらずねぇ。ところでそのおなかの中の子のお父さんは彼かしら?」
そう言われて初めて旅人が「はい」と答えた。
「ということは義理の息子ということになるのね。」
「はじめまして、お母さん。」
緊張した面持ちで話しかける。
「ありがとう、あの子をこんな風にしてくれたのはあなたなのね。」
「はぁ。」
どう答えていいかわからない返事をすると小声で
「ここに来る前のあの子ったら、もうそれはそれはすごかったのよ…」
「母さん!」
「お〜怖!これが成功したらお話ししてあげるわ。」
と話すとすっと出ていった。

落つる星の夜

2人はあっけにとられながらも「グレートウィッチーズ(偉大なる魔女)」の母親の手際の良さに驚いていた。これだけたくさんの魔女を一番いい状態で配置した魔法陣は今までに見たことがなかった。全て配置し終えた時にはもうお日様はずいぶん西に傾いていた。そうすると空を覆わんとする星がくっきり見えて来た。

お日様が西の空に沈むと東から月が昇って来た。ある程度の高さまで月が昇って魔法陣に光が差したとき魔法を唱えるのだ。
「準備はいい?」
「母さんこそ大丈夫なの?」
「やあねぇ、おばあちゃん扱い?」
「だってこの子が生まれたら、本当におばあちゃんじゃない。」
「あらそうね。じゃあ孫のために成功させないとね。」
「うん、でも心配なことがあるの?」
「なに?」
「こんなにたくさんの魔力にさらされて、おなかの子は大丈夫なのかなって思って…」
「大丈夫、彼が守ってくれるわよ。あなた彼のことを愛し、彼もあなたのことを愛しているのだから大丈夫よ。」
「ありがとう母さん。」
「その子の母親があなたのように、私はあなたの母親なのよ。少しぐらい頼ってもいいのよ。」


「ところで母さん、あの魔女は何をしているの?」
「あ、あれ。この様子を人間のところに映像として届ける魔女よ。王様が見たいというものだから、全世界に見せてやろうと思って。」
「全世界に?」
「魔女がいないとあなたたちの世は滅びるのよ。って見せつけてやろうと思って。そのほかにもいろいろお願いして来たわ。」
「何勝手にお願いしてるの?」
「ここに来た魔女たちは命をかけて来ているのよ。その魔女に何にもないなんてありえないじゃない。だからいろいろ王様にお願いして来ただけ。」
「母さんのそういうところ嫌なのよ!」
「まあまあ、悪いようにはしないから。はいはい、星が落ちて来ますよ。」
「もう。」


魔女は旅人の方に行き話し始めた。
「いいお母さんだね。」
「どこが!まったく母さんのああいうところ嫌いなのよ。」
「でも今君緊張していないよ。」
「そうだけれど…。」
「こんなにもたくさんの魔女を集めたり、王様にお願いしたり、いろいろ大変だったんじゃないかな?」
「まあそうだけれど…」
「お母さんには、僕たちの子を見てもらわないとね。」
「わかったわ。」
といって魔女は笑った。
「いい笑顔だね。」
そういって魔女に寄り添った。
「ん、う〜ん」
と咳払いをしてお母さん魔女が見ていた。
「それでは行くわよ。お2人さん。」
全ての魔女が呪文を唱え始め魔力を集めていた。
星はどんどん落ちて来ていた。もう星の地表の様子がわかるほどに近づいていた。
「もういいんじゃない。こっちはいつでも魔力を集め渡せるわよ。」
「だめ、この距離ならで星を砕くことができるけれど、あれだけの体積のものがこの森に降り注いだら、森がなくなってしまう。砕いた後一気に焼き上げる。」
「そんなことまで考えてたの。まあそれだけ大切な森なのね。いいわよいつでも呪文を唱えなさい。それと同時に魔力をあなたに注いでいくわ。」
「わかったわ、そのときお願い。」
とても強い風が吹き荒れているけれど魔女は冷静だった。その様子は全世界に流され、人々は固唾を飲んで見守っていた。神に祈りを捧げげていた人たちはいつしか魔女を祈るようになっていた。

その時だった。空に向かい一条の光が走った。あたりは真っ白になり星に当たった。星は砕けたくさんの火の石が雨のように降り注いで来た。
「まだよ。」とまた魔女が呪文を唱えさらに星を焼いていた。その様子は落ちる火の石を包み全てを焼き尽くしていた。魔力が途絶えた魔女たちがバタバタと倒れる中全ての火の岩を焼き尽くしていた。
全ての魔力を使い切った魔女たちは、光が消えたあと月に照らされる静かな森を見るのだった。

絵本の話

その後の話を少し言うと、人たちは魔法を見直し、王様も魔女たちを認め、魔法のある世界へと戻っていった。魔法の素質のあるものを伸ばす魔法学校なるものも作られて、簡単な魔法なら10人にひとりぐらいの割合で使えるようになっていった。
そのあと魔女と旅人はどうなったかだって?それはまたいつか話せる時に話しましょう。昔話によるとどうやら街で普通に暮らしているようです。もしかしたらあなたのすぐそばにいるかもしれませんよ。


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