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「魔法使いの女の子」 #お話

魔法使い

カーテンの隙間から朝日が差している。その漏れた朝日が時計に落ちている。もうすぐ7時だ。静かな空気が流れていたが、鳴り出した目覚ましがその終わりを告げた。
5分、10分とたつが目覚ましの主が起き出す気配はない。

「サリア〜、起きなさぁい!いつまで寝ているの。」

結局母親に起こしてもらっている。
ゆっくり体を起こした彼女は時計を見るなり飛び起きる。慌てて下に降りると、もう冷めそうな朝食が用意されている。

「あらあら、いつもなら着替えて降りて来るのに、今日はまだパジャマのままね。」

「うっ。」

痛いとことかれた。

「いつも魔法で着替えないでちゃんとやりなさいってママがいうから、そうしようかと思って。」

と言い訳をしてみる。

「ふ〜ん、こんな時間ないときぐらい魔法使ってもいいわよ。」

とママがニヤニヤしながら言ってくる。

「ママももうすぐお客さんが来るから早く朝ごはん食べてちょうだい。」

「魔法が使えないママに何の用でお客さんが来るんだろうねぇ。」

と悪態をついたあと時計を見て、

「もうこんな時間だ!」

慌てて口に朝ごはんを詰め込むと、着替えに自分部屋に行ってしまった。
母親はやれやれという顔で娘のことを見ている。

なんでこんなに時間が押しているかというと、昨日眠れなかったからだ。クラスメイトから親友テリアと幼馴染みトールがいっしょに帰っているよという噂話を聞いたからだ。昨日はトールといっしょに帰らなかった。まさか親友と帰っているとは思わなかった。別に彼氏ではないので誰と帰ろうとかまわないのだが、いつもいっしょに学校に行き、帰っているのでちょっと心穏やかではない。

トールは隣に住んでいて男の子の割に魔法が使える。圧倒的に女子の魔力の方が上なのだが、男子も魔法を使えるものがいる。そんな彼は小さい頃から隣にいる。それなのに昨日はいなかったのが気になる。

「もしかしてトール、女の子でも好きになったのかな?」

などと考えながら支度をしていたらトールが迎えにきた。まずい早く行かないと。なんだかこのところ魔法の調子が悪い。いつもなら魔法でチャチャっと済ませてしまうのだけれど真面目に着替えた。遅れて出た私を見ると、

「大丈夫?ちょっと髪の毛荒れているけれど直してないの?」

なんて言う。

「ちょっとね昨日魔法の勉強をしていたから夜遅かったのよ。」

完全に嘘である。昨日の噂話を色んな人から聞かされて気になって寝られなかったのだ。

「お〜、サリアも魔法の勉強やるようになったんだ。魔女になるのが夢だもんね。」

「そうよ。今ある魔法なんて全て唱えられるわ、古代魔法は使わないけどね。」

「え〜、おばさんの古代魔法も覚えたら、最強の魔女になれるのに。」

「ママに教わるのは嫌なのよ。」

「なんで?あんなに古代魔法から今の魔法まで知っている人いないよ。」

「なんだかマウント取ってくるのが気に入らない。私の方が知っているって言う感じが嫌なの。」

「そんなことないと思うけれどね。」

そんな話をしたいわけではない、昨日の話私の親友テリアと一緒に帰ったかということを聞きたい。聞くタイミングを失ったまま学校に着いてしまった。

私の通っているのは魔法学校で、まだできてから十数年しか経っていない。ちょうど私が生まれた頃にできた。その一番偉い人の”なんとか長”がうちのおばあちゃん。おばあちゃんも魔女で前回の”星落とし”のときは最強の魔法陣を強いて、魔女全ての魔力を集め”星落としの魔女”に魔力を渡して落つる星を落とした。

この”星落としの魔女”が私の憧れの人、その膨大な魔力を扱い星に当てた。過去にも落つる星はやってきていた。だから”星落としの魔法”が考えられた。”星落としの魔法”は星を砕くことはできる。でもそのあと無数の石が降り注いでくる。これで終わってしまった国もあるほどだ。

それでも人たちはまた復活して街を国を作った。でも”憧れの星落としの魔女”は私が生まれる前の落つる星を粉々に砕いて、さらに焼き上げた。だから地上には何一つ落ちてくることなく国を守った英雄なのだ。

今生きている偉大なる魔女(グレートウィッチーズ)はおばあちゃんとこの”星落としの魔女”だけなんだよね。ママのところに来るお客さんが、ママのこと偉大なる魔女とか言っていた。まさかママがそんなわけない。間違いよね。私より魔法が使えないママが偉大なる魔女な訳がない。

学校に着いてからもなんだかそのことを聞くタイミングを失って聞けなかった。今日もいっしょに帰るから放課後聞けばいいやと思っていた。

数日後

「サリア〜。朝よ〜。起きなさぁい。」

また今日の朝寝坊した。魔法で支度しようとしたけれど、なんだかだんだん弱くなってくる。どうしよう。魔女のママに相談してもいいけれどなんか嫌。仕方なく朝食を食べに下に降りる。

「あらまだ支度できていないの?パジャマのままでいいから食べちゃいなさい。」

「言われなくても食べますよ。」

いつもと同じ時間に起きている。支度なら魔法でパッとやってしまうんだけれど、どうも最近魔法が効かない。うまく発動しない。そんなこと考えていたらママが、

「あなた恋してる?」

なんていきなり聞いてきた。いきなりだったのであたふたしながら、

「い、いきなり何?別にしてないよ。」

というのが精一杯だった。

「それならいいんだけれどね。実は恋をすると魔力が急に弱くなり、最悪魔女になれないこともあるのよ。ってそんなこと知ってるわよね。」

「し、知っているわよ。」

ってなんとか答えたけれど、心の中ではかなり動揺。ちょっと待って、恋をすると魔力が弱くなって最悪魔女になれないって、聞いてないし、聞いたことないんですけど〜。!初耳なんですけど〜。

動揺しながらも朝ごはんを食べ終え着替えに自分の部屋に戻った。まだ動揺している。今まで魔女になれないなんてこと想像したことなかった。魔法は特に何もしなくても呪文が発動した。魔法の威力も普通の人の数倍上だった。だから魔法の練習も勉強もしたことない。親友のテリアがいつもどうやって魔法かけているのと聞いてくるけれど、う〜んこんな感じ?って適当に答えていた。

ここのところ魔力が弱くなっているのを自分も感じる。これってまさか恋をしているということ?じゃあ誰?そう自問自答したとき顔が浮かんだのは幼馴染のトールだった。

「いやいやいやいや、ないない。」

つい口に出して言ってしまったけれど、完全に否定できるのであろうか?

よく周りからふたりは付き合っているのと聞かれるけれど否定していた。そう恋愛対象として見たことはない。いつも隣にいていつも困った時に助けてもらって横にいるのが普通だった。

「まさかトールのこと好き?」

口に出して言ったらますます恥ずかしくなってきた。
いつものように朝いっしょに学校に行ったとき何だか急に意識して恥ずかしくなってきた。あまり口数が多くない私に

「大丈夫?具合悪いの?」

と聞かれたときも

「大丈夫、何でもないわ。ちょっと寝不足なだけ。」

そう答えただけだった。

テリア

魔法の実技のときに遠くにいるトールをぼぉっと眺めて目で追ってしまった。なんだか意識してしまって魔法がうまく発動しない。
私の視線に気づいたのか笑いながらこっち向かってくる。
ちょっと今こっちに来ないで、何だか顔が赤い。

放課後委員会があるということでトールは遅くなるという。待っていてもいいのだけれど、テリアが、

「今日いっしょに帰らない?」

って言ってきたのでいっしょに帰ることにした。
途中までは道が同じなので、3人で帰ることもある。

帰り道、夕日がまだ高いが空の色が変わってきた。
テリアが

「サリア、今日の魔法の実技のとき、調子悪かったみたいだけれど大丈夫?」

と聞いてきた。

「うん、何だかこのところ魔法のかかりが悪いのよね。」

「どうしたの?らしくもない?」

「今まで体調が悪いぐらいでは魔法の効きが悪くなったことないんだよね。テリアはあるの?」

「まあ今までサリアが化け物だったってことよ。ふつう月の動きに連動して、新月のときは弱くなり満月の時は強くなっているじゃない。」

「う〜ん、感じたことないなぁ。」

「それそれ。サリアはふつうに魔法かけても他の人の数倍の威力出ているから、弱くなったなんて感じないんじゃない?」

「そうなんだ。でもそれってとっても弱くなるってことある?術がかからないほどに弱くなる。」

「それはないわね。いくら弱くなっても魔法がかからないというほどではないわ。」

「そうだよね。」

「もしかして…、誰か好きになった?」

「な、何言っているのテリア!誰を好きになるっていうの!」

「例えば…、トールくんとか。」

一瞬の間が入る。

「ないないない、トールとはそういう恋人って感じではなく、つもいっしょにいるだけって感じかなぁ。」

「ふ〜ん。でも恋に落ちていたら確実に魔力は落ちるわよ。」

「それこの間ママにも言われた。知らなかったのよね〜。」

「知らなかったの!」

「そんなに?みんな知っていることなの?」

「そうよ。私の家は代々魔女が出やすい家系。お母様は家を存続させるためにお父様と結婚したのよ。」

「えっ、なんで?そうしてふたり愛し合ったら魔女がいなくなるじゃん。」

「そうよ。だから魔女の役は姉のおばさんが担っているの。おばさんは結婚していないし、ずっと一人よ。」

「そうなの!」

「女王に認められた魔女の家系だからこそ、そうやって家をつなげてきたのよ。」

「魔女の家系も大変なんだね〜。考えたことなかった。」

「サリアはのん気ね。」

そのあとテリアと別れた後に「トールと二人で帰ったの?」と聞けばよかったけど聞けなかったことに後悔した。

告白

古代魔法の授業。何か先生が言っている。先生が言っていることは大抵ママに言われたことばかりだ。先生も私の古代魔法の知識はびっくりしている。でも使わない魔法ばかりなのではっきり言って興味がない。
それよりも考えていたのは、

“もしかしたら私はトールのことが好き?”

その疑問に関してはいつでも「NO!」といえる。トールとはそういうものではないんだって頭では考えていた。今日の放課後までは…。

「トール、今日もいっしょに帰ろう。」

「うん、今日はちょっと委員会の後輩の女の子に体育館裏に来てくれって言われているから先に帰ってていいよ。待ってくれていたらいっしょに帰ろう。」

「校門のところで待ってる。遅かったら先に帰るね。」
「わかった。」

そう言って別れて、ママに頼まれていた魔法書を図書館で借りて、校門のところで待っていた。

「意外と来ないわね。もしかしていなかったから入れ違いになって帰ったかな?」

体育館裏に行くことにした。
そうしたら後輩の女の子がトールに向かってモジモジしている。何話しているんだろう?こちらからはトールの背中しか見えない。

後輩ちゃんが

「トール先輩のことが前から気になっていました。よかったらお付き合いしてくれませんか?」

と話しているではありませんか。これは告白、噂に聞く告白の場面ではありませんか。私も動揺した。でもトールはなんて返すんだろう。人の告白なんて聞いてはいけないものだと思うけれど、トールが何言うかとても気になった。

「ありがとう。でもごめんね。俺好きな人いるからダメなんだ。」

というと、後輩ちゃんは一気に泣き出しかけていった。トールは

「悪いことしたなぁ。でも心の中は変えられないんだ。」

とぼそっと言っていた。
慌てて校門のところに戻り待っていたふりをする。

「サリア、待った?」

「うううん、図書室寄ってたから今来たところ。」

私の動揺に気づかれただろうか。

「じゃあ帰ろうか。」
「うん。」

トールの顔を見てもいつも通りだった。今さっき女の子ひとりふってきたとは思えなかった。私の視線に気づいたのか

「どうしたの?」というので、

「何でもないよ。用事大丈夫だったの。」

「うん、まあよくあることなのだけれど、問題はないよ。」

よ、よくある?トールってモテるの?何だか頭の中がこちゃごちゃしてきた。そのときもトールと話をしたけれど全然覚えていない。でも、トールがあの後輩ちゃんとお付き合いしなくて本当に良かったと思った。

寝床に入ってからふと考えてしまった。今日告白されたところを見たからだろうか?寝付けない。よく見るとトールは優しくてかっこいい。たまにキャーキャー言われているところを見るけれど、「どこが!」と思っていた。
うとうとしながら、半分夢見ているとトールが違う女の子に告白されている。

「それは嫌!」

とつい叫び飛び起きてしまった。夢にまで告白シーン出てくるってどういうこと?なんだか頭の中が整理できない。

それから何日経っても心の中は変わらない。もうダメだ、何だか心がトールで埋め尽くされる。考えないようにしてもつい頭の中に出てくる。

魔法が弱くなっている。
何気なくトールを目で追っている。
トールと話していると楽しい。
トールが女の子からの告白を断っているのを見て安心した。
自分がトールから拒絶されるのはとてつもない恐怖。

ダメだこれもう恋に落ちてしまっている。頭ではトールのこと好きではないといっているけれど、心はトールのことが好きっていっている。もう否定できない。

「私はトールのことが好き。」

口に出したけれど迷いはなかった。恥ずかしくもなかった。本当に心から思った言葉だからだろうか。でももし恋に落ちてしまうと、魔女への道が途絶えてしまう。どうしたらいいんだろう。

そういえばママは魔女だ。でも今はほとんど使えない。やっぱり愛を知りパパと結婚したせいで魔法が使えなくなった。そして私が生まれた。おばあちゃんのグランマもそうなのかな。おじいちゃんはずいぶん前に亡くなったと聞いているけれど、ママがいるんだから当然恋に落ちて結婚したということだよね。魔法は弱くなったけれど魔女だよね。

恋に落ちて愛を知っても魔女でいられるんじゃないか。でも普通の魔女よりも魔力は断然弱い。やっぱり愛を知ると魔法が使えなくなるんだ。でもママはなぜ少しの魔法も使えるんだろう。疑問だらけだ。いろいろママには聞きたいこともあるけれど相談できないし、もちろんトールにも相談できない。テリアにしてみようかな。いろいろ心まモヤモヤしている。いつもいっしょにいるトールが遠い。

この道を決める時が来るのだろうけれど、今はどちらも選べない。
「助けてトール…」
と呟いた言葉は、新月の夜に消えていった。



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