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2021/2022シーズンのロシア男子のバレースーパーリーグ観戦ガイド (その3-2)

(その1)ではスーパーリーグの仕組みやスーパーリーグの視聴方法等を紹介、(その2)では今季のスーパーリーグの見どころ及びロシア男子バレー界の現状や注目すべきポイントを紹介し、(その3)で今季のリーグの選手についての紹介としましたが、(その3-1)と(その3-2)に分け、今回はその後半の方の記事、つまり観戦ガイドの最後の記事になります。


2021/2022シーズンのロシア男子のバレースーパーリーグ観戦ガイド
(その1)

2021/2022シーズンのロシア男子のバレースーパーリーグ観戦ガイド
(その2)

2021/2022シーズンのロシア男子のバレースーパーリーグ観戦ガイド
(その3-1)


前回の(その3-1)では14チームの選手一覧と各チームのスタメン構成紹介してきましたが、その続き(その3-2)では番外編として今季のスーパーリーグでの個人的に気になる仮想スタメンというかドリームチームを作って紹介してみたいと思いました。

まずは、

1:今季の外国人選手ドリームチーム


以前はロシアリーグにオールスターゲームというのが存在していて国内のオールスターvs外国人選手オールスターの試合がみれたりしていました。残念ながら現在は行われていないので、もし、オールスターが行われたと想像した時にできる外国人オールスターのスタメンオーダーを考えてみました。
(追記)
なんと今季は16年ぶりにロシアリーグでオールスターゲームが2022年の4月に行われることが決まりました。なのでその時にロシアメンバーオールスターvs外国人選手オールスターが行われた場合、今回自分が選んだメンバーとどれ位一致するか気になるとこです。
https://sport.business-gazeta.ru/article/270636

2021/2022シーズン外国人選手ドリームチーム
2021/2022シーズンに登録されている外国人選手一覧

世界一のセッターは?と聞かれた時に必ず名前が出てくるUSA🇺🇸代表の顔、クリステンソンは迷わず選ばれると思います。カザンの監督ヴェルボフがクリステンソンの頭脳は高速計算機と形容していたようにどんな場面でも瞬間瞬間の判断とその時の組み立てのバリエーションの豊富さには特に目を見張るものがあります。

写真 : クリステンソン, zenit-kazan.com

オポジットは誰を入れても強力なのですが今回はモロッコ🇲🇦代表のオポジット、アルハチダディにしました。12月現在でリーグの得点王を独走していて決定率も55%となっていて文句なしの活躍をしています。

写真: アルハチダディ, belogorievolley.ru

MBはGazprom-Ugraのオコリッチを入れたかったのですが、残念ながら試合中負傷してしまい、チームも去ってしまったので今季リーグにいる外国人MBは2人のみとなりました。

OHもいい選手が揃っているのですが、攻守のバランスと今シーズンの調子を考えるとカナダ🇨🇦のぺリンとポーランド🇵🇱のベドノシュの対角がいいのではないかと思いました。ペリンはカナダ代表でもそうだったようにチームにぺリン1人入るだけで一気に底がしっかりしたものにする存在の選手です。ベドノシュは昨季は本領発揮出来ませんでしたが今季はモデナで一緒だったクリステンソンが入ったことも要因となっていますが本来の強さを見せつつあります。あと以前はSkraではレセプション外されることもあったベドノシュですが今はチームのレセプションを安定させる強い存在にもなっています。

写真: ベドノシュ(左)、ぺりん(右), zenit-kazan.com, lokovolley.com

リベロは2人のみで、フランスのグレベンニコフ🇫🇷とフィンランド🇫🇮のケルミネンはどちらも世界屈指のリベロなのですが、グレベンニコフを選びました。現在ほぼ誰に聞いても世界一のリベロという答えが返ってくる選手です。ラリー中のディグの位置取り、反応、運動量も素晴らしいですが、同時に入ることでチームメイトにも影響を与えチーム全体のディフェンス力も上げてしまうような存在感もあります。

写真:グレベンニコフ, vczenit-spb.ru 


2:ロシア男子95年世代オールスター


東京五輪までは95年世代の成長が鍵だった

ロシア男子の95年生まれの世代は黄金世代と言われています。特に2013年にはFIVBのU19、U21の世界選手権優勝🥇したり、2015年ではU21、U23の世界選手権で優勝🥇、2012〜2014年のアンダーの欧州選手権では95年世代が中心に出場する大会全てで優勝🥇するという活躍でした。この時の大会に出た選手だけでなく2015年までのアンダーの主要大会に選ばれていなかったMBのヤコヴレフやOHのヴォロンコフなどその後も更に新たな95年世代の強い選手が出てきたこともこの世代が奇跡の世代とされる所以にもなっています。

写真: 2013 U19 WCH & 2015 U21 WCH 優勝時 http://www.fivb.org/en/volleyball/competitions/U19/2013/, http://u21.men.2015.volleyball.fivb.com/

2013年の時点では主にセッターのパンコフとOPのポレタエフがアンダーの各大会で個人賞を総なめしたりしていて将来のシニア代表入りが有力視されていましたが、2015年から代表入りしたクリュカが95年世代最初にシニア代表のスタメンの位置を確保(シニア代表デビューはヴラソフとポレタエフが95年世代から初めて)、2016年にはそのクリュカと新たにヴォルコフがリオ五輪に初代表、この2人がまず初めに95年世代のシニア進出しての活躍を果たしました。ポレタエフは2015年に代表のベンチメンバー入りはするものの当時カザンに所属していたときにミハイロフがいたためスタメンで出ることが難しくシニアレベルで花を咲かせるのに時間がかかりましたが2016年に移籍したクズバスで力を発揮し2018/2019シーズンではクラブの初優勝🥇にも貢献し、2019年シーズンの代表では本領発揮することができました。

この95年組の最後のピースとなったのは奇しくも一番最初に将来を確実視されていたパンコフでした。怪我などのタイミングも影響してか中々思い描いていたような活躍を見せれず、開花せずに終わってしまうのかと諦めかけたこともありましたが。しかし、東京五輪の年の2020/2021シーズンに遂にパンコフが本来あるべき姿を見せることができ、シーズン4冠🥇、うちMVPも3度取るような活躍を見せました。2020年の最初の代表のワイドロスターではパンコフは選ばれていなかったので、もしコロナで東京五輪が1年延期になっていなかったら東京五輪の代表メンバーとして出場できていなかったことになります。

95年世代を語る上で忘れてはいけないのがFakelの存在です。2010年代に入ってFakelのユースチームは積極的にスカウトを行い、ノヴォクイビシェフスクにいたヴォルコフ、ベラルーシにいたクリュカとボグダン(ボグダンは96年生まれ)、サンクトペテルブルグ出身のヤコヴレフ、さらにはバレー未経験だったヴラソフをたまたま見つけてスカウトなど色々行っていました。Fakelはこのメンバー中心に2014年にはユースリーグで優勝し、他にも95年組でポロシン(Zenit-Kazan 1番)やシェンケル(Dynamo-LO 2番)もチームにいました。その一方でシニアの方のFakelのチームは財政難に陥り高額な選手や外国人選手を獲得できなくなるという事が怒りました。そこで2014/2015シーズンにはFakelユースからまだ10代だったヴラソフ、ヴォルコフ、クリュカをいきなりスタメンに迎えたチーム構成でリーグに挑みました。2018年にはヴラソフがディナも・モスクワに引き抜かれましたがその代わりそれまで控え出場が多かったヤコヴレフも台頭し始めました。最初は若手チームということで不安定な部分もありましたがそこから段々と力をつけていき、2018年には世界クラブ選手権に招待され、最初はなんでリーグで中盤くらいの順位のチームが?という声もありましたがなんと決勝トーナメントまで進み銅メダル🥉を獲得するという快挙を果たしました。さらにはその年のリーグのシーズンでも銅メダル🥉を獲得し、なんと翌年に欧州の強豪クラブが集まるチャンピオンズ・リーグ進出までも果たしてしまいました。金持ちクラブではないのでこのようにしてFakelは若い選手を育成させることで強いチームに仕上げたのと、結果的にこの95年世代の育成がロシア代表の強化にも繋がっていたことにもなりいつの間にかロシア男子バレー界にとっても無視できない存在となっています。それもあってかFakelの会長のカルパノフ氏はバレー協会の理事にも選出されることになったりもしています。

このようにロシア男子バレー界にとって95年世代というのは大きな存在になっています。それを踏まえて今のロシア男子95年生まれのドリームチームを作ってみました。

2021/2022シーズン95年生まれドリームチーム

控え
S : 1. ポロシン(Zenit-Kazan)
OP : 3. リュバコフ(Ural)
MB : 3. コレンコフスキー(Dynamo-LO), 10. チェレイスキー(Lokomotiv)
OH : 10. ウルソフ(Zenit-Spb), 11. ヴォロンコフ(Zenit-Spb)
L :  12. アンドレエフ(Fakel)

スタメンだけ見ててもロシア代表のスタメンとして発表してもおかしくない顔ぶれになります。控えで選んだ選手達も強い選手達が揃っていて、スタメンと控え合わせた14人を95年世代だけで代表級の仮想登録選手として作ることができます。14人は国際大会の登録選手の人数を想定して選んだものでここには選ばなかった中にもリーグにはまだまだいい選手はいます。Uralのセッターのジョス(2番)やEniseyのセッターのコヴァリコフ(11番)、SamotlorのMBのツェプコフ(3番)もそれぞれのチームで重要な選手となっています。

2021/2022シーズンに登録されている95年生まれの選手一覧


3:将来ロシア代表で活躍しそうなメンバー


次の世代が遂に芽を出すシーズン?

五輪が終わってからのシーズンのリーグというのはやっぱり次の五輪までに誰が新しく台頭してくるかということを考えてしまいます。その中でロシアリーグでも今シーズンはスーパーリーグで若い選手が一気に出てきた印象があります。今回はU23にあたる99年以降生まれの現在スーパーリーグでプレーしている選手でドリームチームを組んでみました。

2021/2022シーズン99年以降生まれドリームチーム

次点
S :  11. クレチェトフ(Kuzbass 1999年),  15. ジョゴフ(Belogorie 2004年),
10. クレスキン(Samotlor 2001年), 19. ヴィシュニコフ(Fakel 2001年)
OP : 23. リトヴィネンコ(Samotlor 2000年),  18. シデンコ(Belogorie 1999年)
MB
: 2. ディカレフ(Fakel 1999年),  14. マクシモフ(Enisey 1999年),  17. ザボロトニコフ(Belogorie 2002年)
OH : 5. クルバノフ(Fakel 2001年),  8. ユツェヴィッチ(Fakel 2001年)
L : 4. トゥルドゥママトフ(Kuzbass 2002年)

2021/2022シーズンに登録されている99年以降生まれの選手一覧

基本的にはまだみんなシニア代表未経験ですがテチューヒン(Belogorie 8番)は2021年の欧州選手権に急遽招集されての代表デビューをしています。アバエフ(Lokomotiv 7番)やリジク(Lokomotiv 16番)もデビューはしてませんが2020年と2021年の代表のワイドロスターには入っていました。

写真: 2021年欧州選手権初代表時のテチューヒン, eurovolley.cev.eu

今季リーグで特に大きな活躍を見せているセッターのアバエフとMBのリジクは昨シーズンから台頭してきましたが今シーズンは更にチームにとって重要な選手になりました。アバエフは99年世代ですが2017年はU19とU21の世界選手権どちらも出ていてそれぞれ銀メダル🥈、銅メダル🥉を獲得し、どちらのチームでも正セッターとキャプテンを務めていました。特にその時のU21のチームはアバエフにとって1つ上の世代であり、そのチームの中で最年少の選手だったにも関わらずチームのキャプテンを務めていたりもしていました。2018年のU20欧州選手権では優勝🥇、そして自身もベストセッター賞とMVP2つ獲得していました。リジクは2000年生まれでアバエフと同じ代の選手になりますが、アンダーの国際大会はワイドロスターには選ばれたことはありましたが、実際に出場した経験はありませんでした。リジクは現在MBとして活躍していますが元々はOHの選手で転向してからまだ数年程となっています。ムセルスキー級の高いクイックを炸裂させていますがMBに転向してから一番苦労しているのはブロックとなっていて現在修行中となっています。

写真: リジク(16番)とアバエフ(7番), https://lokovolley.com/

MBにリジクの対角にはブラジュニュク(Enisey 4番)を選びました。今季Fakelで活躍しているディネイキン(Fakel 2番)とも悩みました。どちらも攻撃力、ブロック力、サーブが既に強力ですが、現時点で将来最も伸びそうなのはブラジュニュクな気がしたので選びました。ブラジュニュクもLokomotivユース出身で昨シーズンはLokomotivの試合にも何度か出ていてチャンピオンズリーグデビューもしました。その時はクルカエフが負傷して離脱してる間だけの出場でしたが今季は本格的なスーパーリーグデビューでEniseyに加入しました。シーズン当初はまだ本領発揮できませんでしたがシーズン中盤になって出場機会も増えてきて段々とポテンシャル発揮してきています。MBは他にもマクシモフ(Enisey 14番)とザボロトニコフ(Belogorie 17番)が今季頭角を表してきていて注目だったりもします。

同じくLokomotivユース出身で今シーズンスーパーリーグに本格的にデビューしたのがSamotlorのOPのサポジュコフ(Samotlor 5番)は身長220cmということでリーグをざわつかせています。220cmの脅威の身長から繰り出される規格外の高さからのスパイクは強力で、更にはサーブもムセルスキー級のスパイクサーブを放ちます。サポジュコフはLokomotivのユースリーグ連覇に貢献してMVPも獲得していました。2019年のU21世界選手権では惜しくもメダルには届かず4位に終わりましたが大会のベストオポジットに選出されていました。Samotlorには同じくOPにリトヴィネンコ(Samotlor 23番)がいてサポジュコフと同い年、こちらは跳躍力とパワーでサポジュコフとはまた違う強力なアタックを繰り出します。2人とも互いにチームのスタメンOPの座を譲らない勢いの激しいポジション争いを繰り広げています。

写真 : サポジュコフ, kuzbass-volley.ru

将来というかもう近い将来ロシア代表入り確実視されているのが今季アカデミーのチームからゼニト・カザンに正式に上がってきたリベロのフョドロフ(Zenit-Kazan 16番)となります。ロシア代表のリベロはヴェルボフ以降長らく正リベロが安定しない時期もあり、世界の他のチームに比べてリベロのポジションだけが少々不安になると言われることもありました。ここ数年はゴルベフ(Zenit-Kazan 17番)がようやく代表のこのポジションを安定させることができましたが次の世代を見据えた若いリベロ育成には長いこと悩まされていていました。そん中で出てきたのがフョドロフで、まだ19歳にも関わらず今季Zenit-Kazanの大事な試合で正リベロとして一気に出場するようになりました。ボールの反動、運動量、腕の使い方など既にポテンシャルを大いに見せていますが、フョドロフは既にアンダーの国際大会の試合で何度もベストリベロに輝いたりもしていました。ベストリベロはこれまでロシア代表が国際大会で取ることが中々なかった個人賞でした。

写真: フョドロフ, zenit-kazan.com

OHはテチューヒンと、その対角にはFakelはディネイキン(Fakel 7番)とクルバノフ(Fakel 5番)がスタメンで出てるのでどちらを入れようか迷いましたが、サイズと総合力でディネイキンの方を選びました。2人とも2019年のU19WCHから2021年のU21WCHまでアンダーのロシア代表のスタメンOH対角を組んでいて今季Fakelでもこの対角が実現しています。

写真: クルバノフ(5番、真ん中)とディネイキン(7番、手前), fakelvolley.ru

因みにOHに関して、個人的に将来出てくる可能性が高いだろうなと思っているのは2部リーグにあたるリーグAでZenit-Kazanの傘下のチームであるアカデミ・ーカザンに所属しているラビンスキー(Mikhail Labinskii)です。アカデミーの選手ですが、時折スーパーリーグでZenit-Kazanの試合に24番をつけてベンチ入りしてることもあります。2003年生まれの18歳ですがすでに攻守にバランスが取れた選手でスパイクのパワーも目立ちますが、器用さも兼ね揃えていて将来ロシア代表にとって必要な選手になりそうです。2021年のU19の世界選手権に出場して惜しくもロシアはメダルに届かず4位でしたが大会通して活躍していて、そんな中で東南アジア辺りのバレーファン達の間では既にチラホラと人気が出始めています。

写真: ラビンスキー, https://vk.com/volleysportacadem

因みにリーグAには他にもLokomotivのユース出身で、今季Dynamo ChelyabinskでプレーしてるOHのカザチェンコフやOPムラシュコなど将来スーパーリーグ、更には代表に選ばれそうな若手が潜んでいたりもします。

写真:https://vk.com/vcdinamo

若手選手の7人ドリームチームと次点を挙げてみましたがあくまで今季のスーパーリーグでプレーしている選手からの選出なのでパリまでに今回選んでない、或いは載ってない選手が急に出てくることも大いにあり得ると思います。例えば2021年にはイタリアのミケレット選手、日本では髙橋藍選手が五輪の年にシニア代表デビューしてそのまま東京五輪に出場してスタメンで活躍したりもしました。なので五輪開催される直前までどんな選手がいきなり出てくるか目が離せないと思います。


4 : ロシアの若手選手の育成について

95年世代の次の流れについて

今回ロシアの若手選手のドリームチームを組んだのですがその流れですが今のロシアの若手選手についての現状や動向の話もしてみたいと思います。2個前の章で95年世代の紹介をしましたが、それに比べると次の世代が少し大人しくなってしまった感じがあり、リーグでも代表でも数年間それ以降の世代の台頭が少々伸び悩んでいた印象があります。例えば97/98世代ではセミシェフとMBのコノノフ(Zenit-Kazan 13番)は2017年のU21世界選手権で銅メダル🥉を獲得したときのロシアチームの中心選手で、2人とも個人賞も獲得し今後期待されていましたが、そこからの数シーズンはスーパーリーグデビューしたものの出場機会が得られず中々歯痒い時間が長かったです。2019年にセミシェフ、さらには98年生まれのクレツ(Enisey 13番)がロシア代表に選ばれて、その時がやっと95年世代より後の世代が代表で出てきた形になります。

写真: 2017 U21 WCHよりhttp://u21.men.2017.volleyball.fivb.com/en/media/photos/awardingceremonygallery

ここ最近は長らく大人しかった97/98世代もやっとスーパーリーグで目立ち始めているように見えます。数シーズン大人し目だったセミシェフは昨シーズンにディナモに移籍してから目を見張るような成長を見せそれまで予想しなかったようなアグレッシブな選手にもなってたように見えます。そしてコノノフも今季出場機会が一気に増え、プレーも一皮剥けてついに本来期待された力を発揮しそうな兆しが見え始めました。クレツも今やリーグを代表する大型OPとなっています。

リーグには2000年代にロシア代表で活躍していた選手達の2世達がもうプロとしてプレーしてたりしています。これからリーグだけでなく代表でも大きな役割を背負うだろうテチューヒン(Belogorie 8番)は2016年のリオで開会式の旗手まで務めた4つの五輪メダル🥇🥈🥉を獲得しているレジェンドのセルゲイ・テチューヒンの息子で、ディネイキン(Fakel 7番)は2004年のアテネ五輪で銅メダル🥉獲得した215cmのOPスタニスラフ・ディネイキンの息子、更にはD. ヤコヴレフ(Neftyanik 10番)は2000年のシドニー五輪で銀メダル🥈獲得したロマン・ヤコヴレフの息子でそれぞれ各チームで既にスタメンとしてプレーしています。

写真 : テチューヒン親子(左)とヤコヴレフ親子(右)belogorievolley.ru, https://fakelvolley.ru/

Lokomotivの若手選手育成

今のロシアの若手選手達を語る上で欠かせない存在なのがLokomotivとなっています。2つ前の章で95年世代の育成に多いな役割を果たしたFakelについてやFakelユースが2014年にユースリーグで優勝したことを紹介しましたがその後安定してリーグの上位を維持するようになっていたチームはディナモ・モスクワのユースとLokomotivのユースとなりました。特にLokomotivは2018年からユースリーグ4連覇しています。2010年代半ばに積極的に全国の才能をスカウトしていたのがFakelだとすると、2010年代半ばから後半にかけてすごいフィジカルデータを持つ若い選手達を集めたのがLokomotivと言えます。そしてここ最近スーパーリーグにはそのLokoユース出身の選手達が羽ばたいてきたのと、パリ五輪までの間に誰が代表レベルの選手になれるのかという高揚感も出てきます。そんなLokomotivが現在多くの若手選手を輩出しているのはただ有望な選手を集めているからではありません。LokomotivもLokomotivなりの新たな考えで新たな選手育成の方法を編み出しました。

若手選手の海外派遣

ロシアはこれまでも多くな有望な若手選手が出てきましたがその中で大きな1つの悩みとなっているのはどうやって有望な若手選手をプロレベルの選手に引き上げるかということだったと思います。ポテンシャルはあっても世界で戦える一人前の選手になるというのはまた別の話になると思われます。特に世界レベルの選手になるのに欠かせないのは試合経験です。けれどプロリーグでプレーするというのは結果が大事なのと実力で評価される舞台なのでそこを育成の場にするというのはリスクであるし、実力が既に伴っている選手たちに対しての公平性も失います。特にビッグクラブ、強豪クラブはチーム全体のユースチームを含めた育成システムは整っているけどそういう選手をスーパーリーグの試合に出すということは特に難しいこととなります。例えば95年世代のとこで紹介したポレタエフはゼニト・カザンで立派な選手に育ったが試合経験という部分ではチームにはミハイロフがいるので試合に出ることができず、カザンでもう1段階上の選手になることが難しく代表には選ばれても実力及ばず2016年のリオ五輪では代表落ちしてしまったことがあります。ポレタエフが実力発揮したのは最初はローンでの移籍でしたがKuzbassでチームの大黒柱としてプレーすることができるようになってからでした。逆にFakelが一旦チームとしてはどん底の状態になったためリスクを冒すことができ、そこから結果的に若い選手たちが早く世界の舞台で活躍することができたということになりました。

Lokomotivもリーグではビッグクラブの1つとなります、他の強豪クラブのように強いユースチームを作っていて、特に2010年代半ばからはさらに強力なポテンシャル達が集まりました。そうなると他の強豪チームと同じようにどうやってその有望な選手達をシニアレベルの選手に強化できるかという課題にぶつかります。そこでLokomotivが行ったのは2017年に当時18歳のセッターのアバエフと19歳のOPのクレツをブルガリアリーグのMontanaに送ったことでした。これはLokomotivの監督のコンスタンティノフがブルガリア人ということでブルガリアリーグにつてがあったからというのもありました。この時のロシアの選手が海外リーグに移籍することはあまりメジャーなことではなく、ましてやユースの選手が他国のリーグに移籍することは異例のことでした。2人とも移籍したモンタナで本格的なプロデビューし、そこではスタメンとして活躍することもできました。次のシーズンではアバエフはフランスリーグのPoitiers、クレツはブンデスリーガのHypo Tirol AlpenVolleysへ行きそこでも活躍しました。そのような経験を経てアバエフはLokomotivに、クレツはEniseyでスーパーリーグ本格デビューした時には既にプロで戦える選手となっていきました。Lokomotivはその後も何人も選手のブルガリアリーグ派遣を行い、そしてLokomotivだけでなく他チームもユース選手を他リーグでプレーさせるパターンも少しずつ増えていきました。

2020年にLokomotivは今度は当時19歳のセッターのクレスキンとOPのサポジュコフをアバエフとクレツと同じパターンでブルガリアのMontanaに送り、そこでプロリーグデビューをさせました。その2人も今季2021/2022シーズンにロシアに戻って2人ともSamotlorでスーパーリーグ本格デビューを果たしました。

写真: 左が2017年Montanaのアバエフ(当時7番)とクレツ(当時11番)
右が2020年Montanaのクレスキン(右)とサポジュコフ(左)
https://novini247.com/novini/ruskite-perli-na-montana-kiril-klets-i-konstantin-abaev-komentiraha_793447.html, https://sport.business-gazeta.ru/article/264171

育成の狙い

そしてLokomotivは今は海外リーグだけではなくスーパーリーグの中下位に当たりのチームに選手をローン移籍させるということもしています。Uralにはハリトノフ(Ural 18番)やEniseyにはブラジュニュク(Enisey 4番)を、さらには2部リーグにあたるリーグAのDynamo ChelyabinskにはOPのムラシュコ、OHのカザチェンコフ、セッターのコスタディノフ、リベロのゴルベフ(Zenit-Kazan17番ゴルベフの弟)を送り、各選手それぞれがシニアレベルの試合経験を積んでいます。その代ではMBのリジク(Lokomotiv 16番)だけがユースチームからそのまま上がってきた選手になります。

恐らくLokomotivの狙いはそれぞれのチームで各選手が試合経験を経て成長していきLokomotivが想定する戦力レベルになった時にその選手達を連れ戻そうという戦略があると言われています。例えば毎シーズン外国人セッターを獲っていたLokomotivは自チームに長く居れるセッターが必要となっていた時にアバエフを戻し、そして見事にアバエフは現在Lokomotivのセッターであり、チームの顔となっています。

2つの意味のファームクラブ(Farm Club)

ロシアの各クラブチームを調べるとファームクラブ(Farm Club)という表現があります。通常はスーパーリーグのクラブチームが所有するマイナーリーグでプレーするチーム、つまりは傘下のチームを指すことが多いです。クラブのユースチームとは別でスーパーリーグの下のリーグ、リーグAやリーグBに参加してるチームです。例えばZenit-KazanはリーグAにファームクラブつまり傘下のチームとなるアカデミー・カザン、ユースリーグにはゼニト・カザン・ユース。Zenit-SpbはのファームクラブはリーグAにAvtomobilist、ユースリーグにZenit-2があります。傘下のチームをファームつまりは農場と呼ぶのはメインチームの将来の戦力を育成していくチームだからという意味合いがあるからです。

そしてスーパーリーグでは別の意味でファームクラブと呼ばれているチームがあります。それは途中で何回も出てきたFakelです。何故シニアのFakelがファームクラブと呼ばれているかというとFakelは若手主体で戦っているチームでそこで活躍している選手達が成長して大物になった時にビッグクラブがその選手達に高額のオファーを提示して獲得していくから、つまりFakelが強豪チームにとっては自分たちが将来獲得するような大物候補たちを育成しているファーム(農場)クラブであるという風な形になってきているからです。例えばFakelから2018年にヴラソフがディナモ・モスクワ、2019年にヤコヴレフがZenit-Spb、2020年にクリュカがZenit-Spb、2021年にヴォルコフがZenit-Kazanとボグダンがディナモ・モスクワへと移籍しました。先ほど紹介したLokomotivは自分たちのユースの選手をまずは別のチームに送り、それらのチームがLokomotivのファームクラブとなってそこから育った選手たちをLokomotivが獲得していくということが想定されます。


本来はドリームチームを組んでみた、という流れなのですが今回のロシアの若手選手の章では余談というか大幅な寄り道としてロシアリーグでの若手選手の育成についての現状も書きました。6年前のFakelの新しい切り口に加えて今は更に各チームそれぞれが育成に関して色々工夫しています。個人的にこれから次に新しく来そうなのはSamotlorだと思ったりもしています。まず、多くのチームは基本はスーパーリーグでのチームとユースリーグのチームの構成(+その下にスクール等)で数チームがさらにリーグAにファームクラブを持っています。リーグAとユースリーグどっちにも傘下チームがあるパターンは通常どちらかのリーグでは下位に沈んでいたりします。というのも自チームの若い選手の中でも強い方はどっちかに偏ってチーム強化されているからです。リーグAにアカデミー・カザンを持っているZenit-KazanやAvtomobilistを持っているZenit-Spbはどちらもユースリーグの方ではここ何年も下位の方に沈んでいます。そんな中でSamotlorは今季リーグAとユースリーグにそれぞれUniversitetがありますがリーグAでは中位を維持し、ユースリーグでは上位につけていて唯一両方で強さを保っているクラブとなります。スーパーリーグの方では年を追うごとにジワジワと順位を上げてきているSamotlorですが自チームの若手選手たちの強化も着々と行われていることが伺えます。

5:ミドルエイジのドリームチーム


バレー選手としての本番は30歳超えてから?

恐らく10、20年前に比べるとバレーの選手寿命は伸びてると思います。昔観た30代の選手よりも今の30代の選手達でまだまだ動ける選手が増えてるようにも感じます。勿論こちらの目には見えない苦労もたくさんあると思いますしインタビュー記事読んでても細かいところで若い選手達と体力の違いがあって気をつけていかなければいけない部分が多いのも伺えます。

フィジカルの部分では勿論段々と思い通りにいかないところは増えるかもしれませんが30歳を超えた辺りの方が選手として吹っ切れるというかプロとしてやっていていい具合に力が抜けてバレーを楽しめるようになっているのではないかとも思ったりします。20代の場合はもっと生き残りをかけた戦い、力が入ってしまうような感じが多かったのが、30代になってこれから残りのバレー人生どうやって楽しもうかというので、本気の出し方と楽しみ方の上手いバランスの取り方を見つけられるようになってるのではないかと感じます。そういうのもあるのか、逆に30代に入ってからの方が活躍する選手もいたりします。

Kuzbassのシェルバコフ(12番)は1985年生まれ現在36歳になってもまだまだ現役選手として衰えることなく強豪クズバスのMBとしてスタメンを張っています。特にフィジカル重視されているロシアリーグで2mにも満たない197cmでもリーグ屈指のMBとして活躍し続けています。昨シーズンはリーグのブロックランキングでも全体の2位で、寧ろ現在の方が選手としても脂が乗っている状態に見えますし、ブロックは身長よりも身体の使い方、判断力が大事なことを証明しています。ここ数シーズンではKuzbassのスタメンを張っていますがこうやって長くスターターとしてプレーするようになったのは寧ろ30歳半ばになってからだったりします。

同じくKuzbassのシヴォジェレズ(6番)は代表にも長いこと呼ばれていてロシアでもお馴染みの選手ですが、昨シーズンにZenit-Spb戦で22点を挙げ、これがリーグで10年以上プレーしてきた中での自身のキャリアハイの記録でした。34歳という年齢でもこうやって自分の記録を更新していくことで色々な可能性を示してくれました。

写真: シヴォジェレズ(6番), kuzbass-volley.ru

今季リーグで一番年齢が高いのはASKのMBのニコネンコ(9番)が1980年生まれの41歳となります。チームのキャプテンでありながら常にスタメンMBとしても試合に出続けています。今季チームは昨季優勝したディナモ・モスクワに勝ち星をあげたりもしましたし、平均年齢が高いからといっての限界など微塵も見せていません。

写真: ニコネンコ(8番), nn-volley.ru

そうした色々な例がある中、今季リーグのベテエラン選手で組んだドリームチームを作ってみました。35歳以上の選手としました。今季リーグで35歳以上の選手を調べてみると19人、全体の約8%になります。因みに30歳以上だと77人で約30%となります。

2021/2022シーズン35歳以上ドリームチーム
021/2022シーズンに登録されている35歳以上の選手一覧

19人のベテランのうち、OPとリベロだけは1名のみとなりました。これらのポジションはフィジカルの負担が特に大きいのかもしれません。一番多くて選ぶのに悩んだのがMBで、しかもほとんどの選手が現在もスタメンとして活躍していました。経験が特に活きるのはMBなのかもしれません。特に相手オフェンスに大きなプレッシャーかける役割には経験が必須なのは頷けます。

今はほとんど引退してしまった2008年の北京五輪に出場してたインドアの代表組はリーグではアレクサンダー・ヴォルコフやベレジュコと当時は20歳だったミハイロフのみで、みんな今季はカザンの選手なっています、そしてその時のリベロだったヴェルボフはそのカザンの監督になっているという現在です。コロディンスキーは北京ではビーチバレーで出場していました、インドアでは2010年代後半ずっとFakelで若い選手たちを支える重要な役割を担っていました。因みに今回このドリームチームで選んだクルグロフ、ベレジュコ、シヴォジェレズ、ヴォルコフ、サモイレンコは2008/2009シーズンで当時の期待の若手選手としてディナモ・モスクワで揃っていました。

写真:
http://www.fivb.org/EN/Volleyball/Competitions/Olympics/2008/M/Photos/Photos.asp, https://zenit-kazan.com/media/photo/

リーグの選手の内容からズレてしまいますが、北京に出場していたロシアの選手でもう1人、グランキンもいます。グランキンは代表でも長らく正セッターで北京、ロンドン、リオを経験しリーグでも長いことディナモ・モスクワに所属していましたが、ディナモが弱体化した頃にシーズン中にディナモを出て行かざるを得ないことになってしまいます。その時は長く代表、クラブで輝かしい実績を残しながらもうグランキンの時代は終わってしまうのかにも見えてしまいました。けど実はその後がグランキンにとってのある意味本当のバレー人生の始まりだったかもしれません。グランキンはディナモを去ってから2018/2019シーズンの途中になんとブンデスリーガのBerlinに加入することになりました。試合見てる時ではロシア代表の中でも特に冷たい印象があったグランキンが、Berlinに加入してその正反対のイメージの選手達がいるチームにどう合うのか最初想像できなかったです。けど蓋を開けてみると、予想を超えてグランキンはBerlinに馴染んで、今まで見たことないような明るい一面、特にUSA代表のお祭り隊長パッチとプレーも性格も息ぴったりな部分等見せていて驚きました。まさかそんな1面を持ってるとは想像もしていなかったですし、そこでグランキンって本当はこういうキャラだったんだという新たな発見をすることになりました。

https://www.bz-berlin.de/berlin-sport/volleys/grankin-verlaengert-bis-2023-bei-den-br-volleys

写真: グランキン, https://www.bz-berlin.de/berlin-sport/volleys/grankin-verlaengert-bis-2023-bei-den-br-volleys

そしてやはりグランキンにとってもBerlinを大事な居場所としているようで現在も楽しそうにプレーしており、さらには2023年までBerlinと契約更新しています。こういうグランキンの一面を見るとやっぱりバレー選手としての本番、選手自身の本当の姿を見せれるようになるのは30超えてからなのではないか?と思ってしまうのです。


2つの記事に渡ってやってきた選手紹介の章、今回は今季のリーグ内で活躍してる選手にいくつかのテーマで作った仮想ドリームチームというちょっと自己満+内容大幅脱線記事でまたダラダラ長い文章になってしまいました。読んでいただきありがとうございます。全部読んでなくてもサラッと流し読みしてもらえただけでも嬉しく思います。

2021/2022シーズンのロシア男子のバレースーパーリーグ観戦ガイドその1から今回の記事までお付き合いいただきありがとうございます!ではでは


ひゅー
https://twitter.com/hue_kamekichi

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