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2021/2022シーズンのロシア男子のバレースーパーリーグ観戦ガイド (その2)

(その1)ではスーパーリーグの仕組みやスーパーリーグの視聴方法等を紹介しました。今回の(その2)では個人的見解も入りますが今のロシアバレー界の現状や注目すべきポイントを紹介したいと思います。

前回の記事
2021/2022シーズンのロシア男子のバレースーパーリーグ観戦ガイド
(その1)

よくロシアリーグの特徴として言われるのがとにかく「フィジカル」です。色々なインタビューでロシアリーグでプレーしたことある外国人選手によくイタリアリーグとロシアリーグの違いは?という質問がされますがほぼ全員から「イタリアは技術と戦術に重きを置き、ロシアではフィジカルの強さが重視される」という答えが返ってきます。それを踏まえてロシアリーグの楽しみ方は?と聞かれると確かにフィジカルの強さが大事になってるけどそのフィジカルの強さでも選手によってのプレーの特徴や身体の使い方が皆んな大きく違っていて(おそらく広い国土が故、出身地によってプレースタイルや教わり方が様々なのではないかと思われ)そのバラバラの個性達を各チームがどうやってそれを一つのチームにしていくか、それぞれの選手の強みを引き出してまとめていくか、というのを見るのが一つの楽しみかと個人的に思っています。

1.今シーズンの勢力図

今シーズンの予想(記事より)

ロシアのスポーツ記事BO SPORTでは毎シーズン始まる前に順位予想がされます。今シーズンの記事内での予想は以下の通りになっていました。もちろん毎年予想通りにすんなりいくわけではなく何かしらのサプライズが起きています。今季は果たしてどんなサプライズが起こるのか気になるところです!
https://sport.business-gazeta.ru/article/268418

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昨シーズンはディナモ・モスクワが2007/2008シーズン以来の13年ぶりの優勝を飾りました。モスクワは長いこと強豪チームの1つとして強さを保っていましたが当時の代表経験選手を多く抱えていながら2010年代後半に段々と成績が落ちてしまい2018/2019シーズンでは成績不振により監督、コーチ及び多くの選手がシーズン途中にもかかわらず大幅に替わることもありました。そこから新たなチームの方向性を築き、そして2019/2020シーズンに加入したセッターのパンコフ(以前ディナモ・モスクワのユースに所属していたこともあった)を中心としたバレーで頂点に立つことができました。スーパーリーグだけでなくロシアカップ、CEVカップも優勝し3つのタイトルを獲りました。(どれも決勝の相手がゼニト・Spb) 

https://www.sport-express.ru/volleyball/russia/reviews/v-chem-prichina-uspeha-muzhskogo-voleybolnogo-kluba-dinamo-moskva-intervyu-1778480/

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vcdynamo.ru

果たしてサンクトペテルブルグがモスクワに勝てる日は来るのか?

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今季まず最も注目すべきカードはディナモ・モスクワゼニト・Spb(サンクトペテルブルグとなります。バレーのゼニト・Spbは2017年に創設されたばかりの新しいチームですが、天然ガス生産・供給の世界最大の企業ガスプロムがスポンサーのクラブで創設された瞬間から強大な資金力を誇るビッグクラブになっていました。ゼニトと名の付くクラブはガスプロム社がスポンサーになるのでどのスポーツにおいてもビッグクラブになります。ゼニト・Spbは資金力を活かして大胆でアグレッシブなスカウトをしていき派手な選手やコーチ陣の補強を行っていて人工的なチームと言われることもあります。創設されたシーズンからいきなりシーズン準優勝を果たしていますがそこから2021年の現在までまだ主要な大会で一度もタイトルを獲れていません。その代わり、シルバーコレクターとして既に7つの準優勝🥈(2021年10/10にて8つの🥈に更新)を果たしています。十分に素晴らしい功績を残していますが、これでもかという程の強引な補強がエスカレートしてるにもかかわらずそれでも最後の最後には勝てないという部分でネタにされてしまうとこがあります。特に昨シーズンは3つの大会で決勝に進んだがどれもディナモ・モスクワとの対戦でいずれも敗戦、そして現在の対ディナモ・モスクワの試合は10連敗(2021年10/10のスーパーカップにて11連敗に更新)となっています。現在の代表監督のサムエルボ監督、OPにポレタエフ、OHにクリュカ、MBにヤコヴレフとウクライナ出身のパシツキィを揃えている中でのこの結果はクラブにとって歯痒いものとなっていて、今シーズンはさらにロシア代表セッターのコブザリ、世界一のリベロと言われるフランス代表のグレベンニコフ、スロベニアのスター選手ウルナウト選手を獲得して(紙面上では)最強チームを作ろうとしています。モスクワ戦の連敗を断ち切りたいとこですが今季果たしてそれが叶うのか、が見どころになっています。

ゼニト・カザンの新たな出発

ディナモ・モスクワの優勝の裏で2020/2021シーズンのFinal6でもう1つロシアバレー界で衝撃的な結末もありました。それはロシア男子バレーの強さの象徴であったゼニト・カザンがメダルにも届かず5位に終わり、そしてクラブの黄金時代を築き上げたきた監督のヴラディーミル・アレクノ氏が監督業を引退したことでした(監督業自体は東京五輪までを条件にイランの代表監督を最後とした)。カザンは2010年代後半は世界最強のチームとして君臨していて(特にキューバ出身で現ポーランド代表のレオンとUSA代表のアンダーソンが在籍していた時)ロシアリーグ内では長らくほぼ敵なしの無双状態でした。多くのチームにとってカザンとの試合に勝つことが1つの大きな目標となっていてカザンが1敗するだけで大きなニュースになっていました。しかし2019年にクズバスに決勝で敗れて5連覇が途切れた後、段々と黒星をあげることも珍しくなくなっていき昨シーズンはゼニト・カザンとして初めてメダルを逃すことになりました。長らくカザンを率いたアレクノ氏は監督のポジションを退き、元ロシア代表の屈指のリベロだったヴェルボフ氏が今季からカザンを率いることになりました (昨シーズンは監督1年目としてクズバスを率いた)。カザンは長年獲得したかったロシア代表のOHのヴォルコフの加入、そしてUSA代表のセッターのクリステンソンの加入で新たに出発し、今季の王者奪還が期待されています。カザンのこの約15年間の大きな成功の歴史の中には常にUSA代表の選手達がいました、ボール、スタンリー、プリディ、アンダーソン、そして今回クリステンソンの加入でカザンの伝統を引き継ぐことができるのかも注目されています。

今季上位チームとされているのは5チーム

今季の強豪チームとされているのはディナモ・モスクワ、ゼニト・Spb、ゼニト・カザン、ロコモティフ、クズバスの5チームと考えられています。ディナモ・モスクワやロコモティフ、クズバスは昨季のチーム編成を引き継ぎ、抜けた選手の穴を同じレベルに保つ補強をするという方向性が伺えます。モスクワはベルギー代表のデローが抜けたところにロシア代表のボグダンを、但しその代わり昨年外国人枠のオーバーで出場機会が得られなかったフィンランド代表のケルミネンが今季正リベロとして出場できることに、ロコモティフはイヴォヴィッチが抜けたとこにカナダ代表のペリン、クズバスはイタリア代表のザイツェフが抜けたとこにブラジル代表のアラン・ソウザとセッターのコブザリが抜けた穴にブティコで監督ヴェルボフの穴をクロアチア出身のユリチッチ氏に。ソウザの控えOPには昨シーズン得点王だったサモトロールのパパゾフを獲得しています。

強豪ベロゴリエ復活になるか

昨シーズン、長年強豪チームとしてて君臨してたベロゴリエのシーズン最下位(14位)になったのも大きな衝撃でした。ベロゴリエにはセルゲイ・テチューヒンやムセルスキーが長い間所属していて2013/2014シーズンにはリーグ優勝、ロシアカップ優勝、ロシアスーパーカップ優勝、欧州チャンピオンズリーグ優勝、世界クラブ選手権優勝とシーズン5冠を達成したこともあります。今季再起を図るべく、クラブの会長にロシアバレー界のレジェンドのテチューヒンが就任しベロゴリエはモロッコのアルハチダディ、セルビアのペトリッチを呼んだりロシア国内の選手でも代表で活躍したことあるセッターのコヴァリョフを迎えました。けれどチームの鍵を握る選手は会長に就任したテチューヒン氏の次男、パヴェル・テチューヒン21歳となります。

どこが上位5チームから勝ち星を奪えるか

昨シーズンの中・下位チームはどこも激しい選手の入れ替わりが行われました。Dynamo-LOもジガロフなど代表経験者を呼んだり、セルビア代表のセッターのヨヴォヴィッチやイヴォヴィッチも新たに加入して上位進出狙っています。EniseyにはOPにクレツ/フェトツォフ、OHにブルガリア代表のスクリモフとウクライナ代表のイェレシェンコの強力なサイド3人の攻撃力とサーブが強力です。そして今年のロシア男子代表のコーチを務めたシュレポフ監督が率いるUralもどこまで上がるか目が離せません。

中・下位の各チームにはこれからのロシアの未来を担う若手選手達のスーパーリーグデビューも多くみられます。ネフチャニクや98年前後生まれの期待の選手達が集まったり、ASKには10代から40代までの幅広い年代の選手が揃ったりもしました。その中でも特に昨シーズン6位のFakelは自チームのユースチームや他のチームのユースの選手達を集めて大幅な若返りを図りました。Fakelはこの5年の間でもリーグでも特に若手育成を積極的に行なっているチームとなっていて、今やロシア男子バレーの中心プレイヤーであるクリュか、ヴォルコフ、ヤコヴレフ、ヴラソフ、ボグダンの出身クラブとなります。その選手達が全員強豪クラブに移籍した今、今度は今年のU21世界選手権で活躍した選手中心で新たな挑戦に挑みます。詳しい選手についての内容は(その3)で改めて紹介したいと思います。

今季の上位チームはまず5チームと紹介しましたが、上位とそれ以外のチームに絶望的な差があるというわけではありません。今季どこが強豪クラブを脅かすダークホースにまずなれるかというがリーグを楽しむ1つの醍醐味となっています。昨シーズンだとサモトロールがゼニト・カザンやクズバスに勝ち星をあげて盛り上がったりもしましたし、昨シーズン最下位だったベロゴリエもゼニト・カザンから勝ち星をあげることもありました。先程紹介したFakelは時折強豪キラーになったりして昨シーズンだとディナモ・モスクワは他の強豪チームには負け無しだったのがFakelだけにはシーズン中に2敗するという事が起きました。特に若いチームは守りに入らずに挑戦する姿勢を見せることがあるので負けられない強豪チームにとってそれが脅威になることがあります。

2.1つの時代が幕を閉じた

ディナモ・モスクワの優勝の裏で2020/2021シーズンのFinal6でもう1つロシアバレー界で衝撃的な結末もありました。それはロシア男子バレーの強さの象徴であったゼニト・カザンがメダルにも届かず5位に終わり、そしてクラブの黄金時代を築き上げたきた監督のヴラディーミル・アレクノ氏が監督業を引退したことでした。(監督業自体は東京五輪までを条件にイランの代表監督を最後とした)

ヴラディーミル・アレクノ氏

アレクノ氏はゼニト・カザンだけでなくここ10~15年の間のロシアバレー界を象徴する1人といっても過言ではありません。先ほどディナモ・モスクワの13年ぶりの優勝を取り上げましたが、その13年前のモスクワが優勝した時の監督もアレクノ氏でした。そしてロシア男子代表では2008年の北京で銅メダル、2012年のロンドンではソ連崩壊後のロシアとして初めての金メダル、2016年のリオではメダルには届かなかったものの4位という成績を収めました。いずれも前監督が成績不振で退任の後に五輪の前年に代表監督に急遽就任するという形からのこのような実績でした。

アレクノ氏のゼニト・カザンでの功績
https://sport.business-gazeta.ru/article/262162

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訳)
12シーズン、25のメダル、31のトロフィー(ロシアリーグチャンピオン9回、世界クラブ選手権優勝1回、ロシアカップ優勝8回、ロシアスーパーカップ優勝8回)ちなみに2017/2018シーズンにはシーズン5冠達成

1つのクラブでこれだけの実績は凄いとしかいいようがないです。しかし、このような輝かしい功績を残しても、最後のシーズンはアレクノ氏にとって心が痛い、切ない形で幕を閉じました。勝つことよりも負けないということの難しさと大変さ、大きなタイトルを重ねるほどその後優勝できなくなった時のダメージ、跳ね返りが大きくなること、その苦しさを身に染みるように体験してきたのもアレクノ氏だけだったと思います。

ゲンナジー・シプリン氏

このシーズンはアレクノさんだけでなくもう1人同じくロシアバレー界に大きな影響をもたらした人物が表舞台から去ることになりました。ビッグクラブの1つのベロゴリエを率いてきたゲンナジー・シプリン氏です。

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写真: © RIA Novosti / Ramil SitdikovGo to the photo bank

シプリン氏は1998年から2004年にロシア男子代表の監督にも就任したことがあり、2000年のシドニーで銀メダル、2004年のアテネで銅メダル獲得に貢献しました。そしてクラブでは1992年にロシアリーグができる前のソ連時代の頃から監督としてベロゴリエを率いていました。そこから2015年まで監督を務め、その後は総監督としてのポジションは維持したままクラブの会長となり現場監督を主に元ベロゴリエの選手だった若いコーチに任せるようになりました。

しかしそれまで4強以上が常であったベロゴリエは2018年辺りから段々上位に食い込めなくなっていきました。セルゲイ・テチューヒンの引退やムセルスキーが日本に移籍したための戦力喪失も確かに影響もありましたが、一番の問題はチームの監督が頻繁に替わることでチームが中々出来上がらなかったことが大きかったと個人的に思います。ベロゴリエは4年の間でなんと12回も監督交替が起こりました。そのことについての批判も大きかったのと最後の成績不振もあって四半世紀以上もベロゴリエの顔であり続けたシプリン氏はこのシーズンを最後にベロゴリエの会長を辞任することになりました。

3.次世代の指導者達のシーズンに

指導者としてこれまでロシアバレー界の顔だった2人の名将が同時に表舞台を去ったことでこれからのロシアバレーの顔が新たに誰になっていくのか今シーズンが大きな変革期になると思われます。更にそれで今までのロシアの指導スタイルが変わっていくのか、あるいは既にもう変わってきているのかもしれません。

現在のロシアバレー界の中心人物

現在のロシア男子バレー界でここ数年一番、常に話題に上がる人物はコッピことトーマス・サムエルボ監督でしょう。色んな意味でロシアのバレー界に新しい風を吹き込みました。

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写真: © Toru Hanai / Stringer / Getty Images Sport / Gettyimages.ru

サムエルボ監督はフィンランド人で、選手としてもフィンランド代表経験もあり、更には色んなリーグの多くのクラブでもプレーしてきました。例えば2005/2006シーズンには日本の豊田合成トレフェルサ(現在のウルフドッグス名古屋)、ロシアリーグでもプレーしていて現役最後のクラブはロコモティフでした。選手引退後にはフィンランド代表の監督にも就任し、ロシアリーグのクラブの監督のキャリアでは2016年にクズバスの監督に就任しました。元々は強豪でなかったクズバスは年を追うごとに順位を上げていき2019年には当時リーグで圧倒的王者だったゼニト・カザンを決勝で倒して優勝したことはスーパーリーグの歴史の中で最も衝撃的な出来事の1つとなりました。その少し前、そのシーズン真っ只中、つまりはクズバスの優勝を誰もがまだ予想してなかった時にサムエルボはロシア監督に就任し、そこでまずその年の大きな話題になりました。というのもまだフィンランド代表の監督の任期が終わっていない時の異例の監督就任だったからでした。色んな意味で各方面に衝撃を与えました。更には長い間、ロシア代表には外国人監督は合わないとされていて(過去に何度か外国人監督の就任があったがいずれもうまくいかなった)ロシア男子バレー界にとっても大きな賭けでもあったからです。

果たしてサムエルボ監督のスタイルがロシア男子代表にうまくフィットするのかどうかというとこで、まず就任して最初の大きな大会であるVNL2019(ネーションズリーグ)でいきなり優勝🥇しました。その前の年の2018年VNLでも優勝してたロシアですが、その時のメンバーとは大きく異なる若いメンバーで優勝を果たしたので一気に大きな期待が高まりました。そして順調に五輪の出場権も獲得してユーロに挑みましたが、そこで1つの壁としてそれまでのロシアの主力選手合流後のチーム作りが難航したのかユーロでは準々決勝敗退となりました。というのも若い選手には自分流の指導を浸透させやすいとこはあったかもしれないけど、これまでロシア代表で活躍してきた選手にはそれまでのロシアのスタイルが浸透していたのでそこで大きなギャップがあったことが伺えました。しかし2021年にはその年のVNLを通じでどうやってベテラン選手と若い選手を1つのチームとして、そして監督の哲学をどう浸透させていくかを模索していった結果、東京五輪の本番ではロシア男子としては2大会ぶりのメダル獲得、準優勝🥈を果たしました。ソ連崩壊後、ロシアとしてロシア男子のメダル獲得に導いた監督は先程紹介したシプリン氏とアレクノ氏の2人だけでした。そしてその2人の名将が表舞台を去る決断をした年にサムエルボ監督がロシア男子に五輪でのメダル獲得をもたらしたのはロシア男子バレー界の新しい時代の転換を感じさせます。しかもこれまで外国人監督がロシアチームをまとめることはできないと言われてた中で、それをも覆すことにもなったのでサムエルボ監督がロシア男子バレー界に大きな変化を与えたのは間違い無いでしょう。

その中で近年ロシアの各選手のインタビューでよく聞かれる質問でアレクの監督とサムエルボ監督の違いは?というものがあります。どれもほぼ共通して「どちらも全く違う指導スタイル、アレクノ監督はソビエト時代から影響受けているスタイル、サムエルボ監督はヨーロッパのスタイル。」という回答が返ってきます。サムエルボ監督は戦術、技術面でも細かい指導するのとあとは選手1人1人とじっくりコミュニケーションを取ります。

ロシア代表が外国人の監督とは相性が良くないと言われてきてた一番の要因は指導スタイルの違いと言われていました。ロシアは規律を重視し、厳しいプレッシャーに耐えて強くなるとされてきました。ロシアの若い世代はサムエルボ式の指導を好むパターンが多く、逆に上の世代の選手はアレクの式の方が合うと答えるパターンがよく見られました。その中間の世代に当たるミハイロフは厳しい指導の方がロシアに合うと考える一方でこれから時間をかけてヨーロッパ式の自由と創造性を育てる指導方式に適応していく可能性も示唆していました。

ヴォロンコフのインタビュー「アレクノ監督はソビエト式の厳しさ」

ポレタエフのインタビュー「アレクノよりサムエルボのやり方の方が自分は合っている」

ミハイロフのインタビュー「ロシア代表は厳しいアプローチの方が効果的」

https://www.eurosport.ru/volleyball/story_sto8571162.shtml

新生ディナモを優勝に導いた監督

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写真 : vcdynamo.ru

今やロシア男子バレー界に大きな影響を与えている存在になっているサムエルボ監督にとって現在新たなチャレンジャーになっているのがディナモ・モスクワの監督のコンスタンティン・ブリャンスキーかもしれません。先程サムエルボ監督が率いるゼニト・Spbがブリャンスキー率いるディナモ・モスクワに11連敗中である通りゼニトというよりサムエルボ監督にとって最大の壁、悩みとなっています。

ブリャンスキーは元々2018/2019シーズンにNovaというチーム(当時はスーパーリーグのチームだったが現在は下位リーグのリーグAに)の監督を務めていましたが、チームの財政面の問題でNovaは主力選手、監督コーチ陣を抱えきれずシーズン中に大量放出することになり、それと同じ時に当時のディナモ・モスクワが成績不振などもあって監督、コーチ陣、主力選手を解雇を行い、そしてNovaから出た主力選手と監督、コーチ陣を迎え入れる形でシーズン中にディナモ・モスクワがチームとして大きく変わったという経緯があります。

今季ゼニト- Spbに所属しているポドレビンキンとヴォロンコフはNova時代にブリャンスキー監督の元でプレーした経験がありますが、2人ともブリャンスキーをとても厳しい監督と述べていました。例えばポドレビンキンはインタビューでブリャンスキー監督はバレーの試合を戦争のするような意気込みで挑むと言ったり、ヴォロンコフはNovaの選手のモスクワへの大移動の際に同じくモスクワ行きを誘われたがブリャンスキー監督の元では2度とプレーしたくないと言ったりとかなり厳しい監督だったことが伺えます。

ヴォロンコフのインタビュー
https://www.sport-express.ru/volleyball/russia/reviews/alekno-nazval-ego-buduschim-rossiyskogo-voleybola-priglyadites-k-fedoru-voronkovu-1561784/

ポドレビンキンのインタビュー
https://www.sovsport.ru/volley/articles/2:1003398

しかし今年の現ディナモの選手のインタビューを見ると現在のブリャンスキー監督のキャラクターはNova時代と変わっていると思われます。厳しさで有名な監督だったのが、セッターのパンコフはインタビューで穏やかになったと認めてたり、要求は多いけど選手達としっかりコミュニケーションを取ることも重要視していると言ってました。モスクワに移って2シーズン近くスランプに陥っていたヴラソフや才能は評価されていながらもそれまでのクラブで中々開花できなかったセミシェフなどはブリャンスキーの元で見違えるように一皮剥けた選手になったのを見ると、監督自身もどういうアプローチがいいのかを自身も成長しながら模索していったのだろうということが伺えます。選手たちが共通して言ってたのは信頼されたことで自信持ってプレーできるようになったということでした。

パンコフのインタビュー
https://volley2022.ru/news/141/

ヴラソフのインタビュー
https://sport.business-gazeta.ru/article/262667

セミシェフのインタビュー
https://sport.business-gazeta.ru/article/261983

            アレクノ氏からゼニト・カザンを引き継ぐ

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写真 : zenit-kazan.com 

ロシア男子バレー代表の歴史の中で間違いなくロシアで一番のリベロとされてきたヴェルボフはゼニト・カザンの黄金時代に守備の要としてチームを支えていました。2020年に選手としては引退し、昨シーズンからクズバスで本格的にクラブの監督を務めました。ゼニト・カザンで選手としてはまだ現役だった頃にアレクノ監督のコンサルの下チームのコーチ、試合によっては監督も務めていました。2019/2020シーズンではシーズンのほとんどの試合でチームを指揮を任されていました。時には途中まで監督として指揮してから試合途中にユニフォーム着て急遽選手としてコートに出るという場面もありました。

そして今シーズンはカザンに戻り、アレクノ監督の引退に伴いゼニト・カザンの監督として正式に就任することになりました。カザンメダルを逃すというショックを与えた咋シーズンから今季カザンを復活させられるかという期待とプレッシャーが大いにかかっています。

ヴェルボフの監督としてのスタイルは指揮するというより同じ目線で一緒に戦うというものになります。実際にカザンの選手の多くはヴェルボフの現役時代のチームメイトだったりします。ヴェルボフも以前のロシアの監督の上から指示したり怒鳴ったりするタイプではなく同じ立場からのコミュニケーションを重視するタイプになります。

ヴェルボフのインタビュー
https://zenit-kazan.com/rus/news/?id=6318

リーグ全体で監督が若返っている

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写真 : nn-volley.ru

恐らく先程紹介した3人の監督がまずはこれからのロシア男子バレー界の最注目の人物になると思いますが、それ以外にも若い監督達のリーグでの活躍も期待されています。今季ASKの監督に就任したアンドレイ・ドラシュニコフ氏は1990年生まれのまだ31歳の監督になります。ASKの選手にはキャプテンのニコネンコが41歳だったり現役選手の6人が監督よりも年上だったりと興味深いチームとなっています。

今回紹介した監督だけでなく、今季参加チームのほとんどが40代の監督となっています。今季は14チーム中10チームの監督が50歳以下となっています。ただその中で唯一Ugraは1996年のクラブ創設から関わってたハビブリン氏が今でも監督を務めていたりもします。時折コーチ陣に任せてる場合もありますがリーグの中では長い間1つのチームを率いてきた貴重な存在となっています。

外国人監督とコーチの存在は見逃せない

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写真 :  lokovolley.com

ロシア人以外が監督を務めるチームもいくつかあります。ロコモティフはブルガリア人のコンスタンティノフ監督、クズバスはクロアチア出身のユリチッチ監督、サモトロールはピャスコフスキー監督。特にコンスタンティノフ監督は元ブルガリア代表の選手でブルガリア代表の監督も務めたことがありロコモティフの監督は2016/2017から務めていて2019/2020シーズンには更に5年契約を結んでいて既にロコモティフの顔になっています。傘下のロコモティフユースの選手の育成にも積極的に関わっていて若手選手に経験を積ませるためにブルガリアリーグに派遣して早い段階でプロのチームでプレーさせたりもしています。

監督だけでなくコーチに外国人コーチを入れることも少なくありません。ゼニト・カザンは長いことイタリア人のトトロ氏がコーチを務めていてカザンの戦術作りに大きな役割を担っています。現在ロシア女子の監督を務めてるイタリア人のブザト氏は長い間ロシア男子の代表及びクラブのコーチを務めていて、ロシアバレー界にデータ分析手法を広めた第一人者となっています。今では当たり前になっていますが2000年代半ばまでロシアバレーではこのような手法は取られていなかったのでロシアバレーに大きな変化、影響をもたらした人物となります。

(参考) ロシアリーグにおけるバレーボールの統計についての記事 
https://sport.business-gazeta.ru/article/250275

しばしばロシアバレーはヨーロッパのバレーと一線を画す比較をされますが、ロシアでバレー強化する上でこうしたこれまでの良さを活かしながらヨーロッパでのバレーの考え方も上手く取り入れて融合させることが常にバレーの強豪としての立ち位置を維持している鍵にもなっていると思われます。その中でこういう外国人監督、コーチの存在も見逃せないものであり、更に現在は各チームの監督の若返りが行われていく中でロシアバレーがまたどう変化していくのか気になるところです。

 ベロゴリエの会長に就任したレジェンドプレイヤー

最後に、指導者としては監督に限らずもう1つ大きな動きがありました。先ほどベロゴリエの顔だったシプリン氏がベロゴリエの会長を辞任したことについての話がありましたが、今季からベロゴリエの会長の座を引き継いだのはベロゴリエだけでなくロシア男子バレー界のレジェンドプレイヤーとなっているセルゲイ・テチューヒン氏で、ここからどのようにベロゴリエを再び強豪チームとしてカムバックさせていくか注目です。

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写真 : belogorievolley.ru

テチューヒンは2018年に選手を引退し、2019年シーズンからロシア代表男子のゼネラルマネージャーとして代表を支えていてそして東京五輪の銀メダルもテチューヒンの存在も1つ大きかったと思われます。テチューヒンはロシアバレーにおいて最も尊敬されている選手の1人であり、現在も若い選手からベテラン選手にとってもお手本でありメンターでありました。なので将来は監督になると思われて期待されていたとこが大きかったのですが、ここにきてベロゴリエの会長の職に就いたのはある意味サプライズではありますが、今後クラブだけでなくリーグにどういう影響を与えていくかも要注目です、

(参考) テチューヒン氏のインタビュー記事 
https://sport.business-gazeta.ru/article/268585

4.まとめ

今回は2021/2022シーズンのロシア男子のバレースーパーリーグ観戦ガイド (その2)としてリーグの見どころ、更には個人的考察も含めたリーグも含めたロシア男子バレー界の現状を紹介してみました。他にも色んな観方があると思いますが、今回書いたやつがロシアリーグに興味持ってもらえたり観戦する上で何かの参考になれたらいいなと思います。だらだらと拙い文章になってしまってると思いますが最後まで読んでくれてありがとうございます。そんな中、まだ(その3)もあります。。。笑 (その3)では注目選手の紹介を主にしていきたいと思いますがこちらも読んでもらえたら幸いです。


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