見出し画像

この町と

近所の昔ながらのパチ屋は僕が小学生の時にできた大きいパチ屋に潰された。
その解体工事の虚しさと美しさに僕はそれを録音せずにはいられなかった。
その美しさと街並みの変化に僕はただ虚しさを抱えてコンビニで買ったビールを飲み干す。
あの頃好きだった彼女の住んでいたマンションは今でもそのまんまで今日もこの町を形作る。
彼女と走り回って巡った僕の生まれた町は愛すべき対象でその記憶を辿りながら淡い色彩を今日も巡らせる。
虚しくもその道を辿りながら公園を目指す僕の自転車はパンク寸前でまるで僕とシンクロしている。誰かが見れば歪でとうに壊れている。
あの頃言えなかった一言をSNSなんかでただ消化する僕のことなんて彼女は興味もない。
彼女はきっと僕が知らない間にこの町と同じように変わっていってしまったんだろう。
僕が守りたい全てを壊して平然と自然の摂理のように無情な虚しさを漂わせて。
何処で間違えて、何処で狂って。
考えながら走り抜ける風は冷たく頬を撫でる。
僕らはきっとこれからも間違える。
伝えたい。それでも君には伝わらない。
彼女のありがとうの一言は何の感情もない定型文で僕はそれを眺めることしかできない。
彼女と近い魂なら上手くいったのかな。
今は彼女に興味ないって言ったら嘘になる。
僕の故郷で彼女の過去。
僕らは今日も変わりゆくその街並みに虚しさを抱えて過去を辿る。
延々と続く旅を思い出す。
故郷をこの町を、僕は愛すべきなのかな。
愛したい、心から。
君と過ごしたこの町を。
さようならまた何処かで。きっと。
この町で会えたら。
希望を抱えるには人生はあまりに長すぎる。
解体工事の現場を眺めながら僕はただ思いを馳せる。そして、気の抜けてしまったビールを一息で飲み干してまた走り出す。
僕の町、僕たちの町。
愛すべきこの町、僕の故郷と。
サヨナラ、僕の故郷へ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?