「紹興酒が甘い」のはカラメルのせいではありません。
「紹興酒って、甘いですよね」
そう言われることがたまにあります。
この感想を分析してみると、一般的な紹興酒ってカラメルのような香りがあったり、銘柄によってはまろやかさもあったり、ボディ感も厚いです。その点をキャッチされているからなのかな?と思っています。
僕自身は正直なことをいうと、紹興酒を甘いと思ったことがあまりありません。どちらかというと酸や複雑な風味が強い印象です。
ちなみに「甘い」という感想を否定したいわけでは決して無くて実際に感想として言われることがちょくちょくあるので「紹興酒=甘いと感じる人もいる」と認識しています。
今回はその「紹興酒は甘い」という点をちょっと深堀してみます。
他のお酒と紹興酒の糖質を比較してみる
紹興酒はざっくりいうと、日本酒同様に"米の酒"です。日本酒って、お酒の中で糖質が高く、甘味のある酒ですよね。これは僕も理解できます。
日本酒「久保田」で知られる朝日酒造さんのサイトにお酒の糖質一覧が掲載されていたので拝借すると、こんな感じでした。
紹興酒の糖質はどうなのでしょうか?紹興酒は4種類に分類ができますが、日本で一般的に流通しているのは「半干型(バンガンシン)」といういわゆるセミドライタイプ。
どのぐらいの糖質かというと以下の通りです。
これは"4種の紹興酒が1リットルあたりに糖分がどれだけ含まれているか"という一覧です。
半干型は上から2列目ですね。15.1〜40.0g以下とあります。これを100mlに換算すると1/10になるので1.5g〜4.0gですね。
この糖分量を他のお酒と照らし合わせてみると、一般的な紹興酒の糖度は赤ワイン程度(1.5g)のものから日本酒(3.5g)以上のものがあることがわかります。
結構幅広いですね!
厳密にいうと糖分だけで味の判断はできないのですが(ビールは糖質高いですが甘くはないですよね)、「紹興酒は甘い」と感じる方はきっと、日本酒と同程度もしくはそれ以上の紹興酒を飲んだのかもしれません。
▼紹興酒の分類については以下に詳しくまとめているのでご興味ある方はぜひご参考ください
「紹興酒はカラメルを使ってるから甘いんですね!」
先日、レストラン向けに開催した勉強会でこんな一コマがありました。
紹興酒はカラメルを原料として使うことが許されているのですが、その理由を"着色やツヤ出しのため"と解説したときのこと。
若いスタッフさんが「だから紹興酒って甘いんですね!」と仰ってたんですね。
カラメルは砂糖を焦がしたものであり、そう結びつけたくなるのも理解できますし納得です。
実際に今回だけでなく、カラメルの話をするとよく言われることでもあります。
しかし、実際は違うんです。
カラメルは、あくまで着色とツヤ出しのためであり、味には全く影響がない程度で使用している、と大手メーカーが公言しています(紹興酒蔵の方から直接聞きました)
紹興酒が甘いとしても、それはカラメル由来ではなくて原料や製法によるものなのです。
他にもカラメルを使っているお酒がある。
「本当にカラメルって味に影響ないの?」ってところですが、他のお酒でもカラメルを使ったお酒があります。
例えば、ウイスキー。
全てではありませんが、アイリッシュ、スコッチ、日本の有名銘柄でも使用されているのが一般的です。カラメルによる着色は違法ではなく、正式に認められている原料のひとつです。
ただ、ウイスキー業界でも「カラメルは味や香りに影響はない」とされています。
ラベルへの表記は義務付けられておらず「影響がないなら表記せよ!」という意見もあったりして物議を醸しているようですが「ノンカラー」としっかり明記しているメーカーもあります。
統計が出ているわけではないのですが、海外の有名な酒販店がカラメル入りとノンカラメルのウイスキーを飲み比べる実験をして「味に違いはない」と結論づけたエピソードもあるようです。
そもそもウイスキーを「甘い」という方もあまりいないですよね。やはり味との関連性は低いと考えてよいのではないでしょうか。
紹興酒はカラメルやナッツのような香りがする
「でも、紹興酒ってカラメルの香りしますよね!?」
そんな声がどこからか聞こえてきます。
これはひとつに熟成によって増す"ソトロン"によるものと考えられます。
ソトロンは黒糖やカラメルの香りを感じさせる香成分。よく紹興酒に似ていると言われるシェリーもソトロンが豊富です。
その他にも、熟成によって蜂蜜香やナッツ様香も増えると言われており、まさに紹興酒の主要な香成分といえるのではないでしょうか。
▼参考情報
ノンカラメルの紹興酒は総じてライト。
これは僕の個人的な感想になりますが、カラメルを使った紹興酒とノンカラメルの紹興酒で決定的に違う部分があります。
それは、ボディ感。
ノンカラメルの紹興酒って、ライトで軽やかなんです。それを「味が薄い」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
カラメルを使用した紹興酒は、もったりとした印象があります。
もちろん全ての銘柄に当てはめることはできませんが、ワインでいうところのフルボディ、ノンカラメルはライトボディといった感じかな。
今後の紹興酒カラメル事情。
2000年以上の歴史を誇る紹興酒ですが、大手紹興酒メーカーの方曰く、カラメルを使用し始めたのはここ数十年ぐらいのようです。意外に最近ですね。
そしてこれまでカラメルは使用されるのが当たり前でしたが、ここ3〜4年で情勢が変わってきています。
先ほども少し触れましたが、カラメルを使わないノンカラメルの黄酒が日本にも多く流通し始めたのです。
その背景には、中国でもオーガニックを中心とした無添加へのニーズが高まっていること、またノンカラメルでもしっかり琥珀色になることがわかって方向転換が始まっていると考えられます。
▼この辺りのことは中華メディア80Cさんで書かせていただいたことがあるのでよかったらご参考ください。
味や香りに影響がないとはいえ何かを「添加する」ことに対してはマイナスに捉えられやすい、という現実は直感的に理解できます。
今後もノンカラメルの黄酒は増えていくでしょう。ただ、伝統製法として継続して使い続ける酒蔵も消えることはないと思います。
味や香りは、カラメルではなくて他の原料や製法の工夫によって生まれるものだから。
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