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新人理系図書館職員奮闘記:まさかの配属!「サービスとは何か?」を先輩から学ぶ

  附属図書館 研究支援課 研究支援企画担当 奥田

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○今回のコラムのポイント○
筆者が思う、大学図書館職員がサービスする上で大事なポイントはこの4つ!
①サービスの対象となる利用者は誰かを考える
②相手の立場になる
③距離感を見極める
④大学図書館職員としての立場からできる、最高のサービスはなにかを考える
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■新人理系図書館職員、まさかの配属■

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「うそでしょ、、、!?」

北海道大学 事務局、辞令式。

新人理系図書館職員だった私は、辞令の紙を受取り軽く一礼をしながらも、その時、静かに絶望していた(というと偉い方に怒られてしまいそうだが)。


辞令に書かれていた配属先は
「附属図書館 利用支援課 本館閲覧担当」

私はその文字列を戦戦恐恐と見つめていた。

本来、私がこの場に立てているのは、とても喜ばしいことのはずだった。

高校の頃から「なれたらいいな」と思い描いていた図書館職員、司書。

その中でも大学図書館の職員を目指したのは、本が好きだったこと、情報学(高校理系、大学工学部出身)が好きだったこと、大学教育に関心があり研究や教育を支援する仕事がしたかったからだ。

自分の好きが詰まった、このうえなく贅沢な職場であると思ったし、そして、まさかその職場に自分がつけるとは思わなかった(倍率が高くほとんど諦めていたのだが、ダメ元で受けてみて本当に良かったと思う。倍率高すぎて無理だよ、、と諦めている方、意外と情熱は伝わるものですよ)。

そう、嬉しいはずの辞令式だった。しかし、1つ問題があった。

それは『接客が苦手』ということである。

ここで、文章を少し巻き戻してみよう。

『....(高校理系、大学工学部出身)....』。

そう、私は生粋の理系環境で育っていた。理系(とくに工学部など)は「コミュニケーションに疎い」などと言われることが多い気がするが(そんなことない人も大勢いるけれども)、私はそのイメージのご多分に漏れず、あまり接客が得意ではなかった。

しかし、大学図書館の仕事はあまり知られてはいないが、資料保存、資料管理、システム管理・運営、レファレンス業務、研究支援、教育支援、資料の購入・契約、図書の分類、相互利用、など実際にはかなり多岐に渡る(https://www.lib.hokudai.ac.jp/employment/employee/)。

その時の私は図書館学を学んでいたため、そうした事情を知っていた。
だからこそ、この『接客が苦手』ということについては、大きな問題だとは捉えていなかった。

ただ、北海道大学附属図書館には接客をメインの業務とする部署があった。
それが『本館閲覧担当』。附属図書館本館のカウンター対応を担う部署である。

私は辞令式の際に
「本館のカウンターだけは嫌だ、本館のカウンターだけは嫌だ、、」
と某イギリスファンタジー映画の主人公のごとく心の中で祈っていたのだが、、、

、、、展開は映画と全く逆となった。


手にした辞令、会議室の赤い絨毯、同期の背、変わらない文字列、、、あの時のショックは今でも鮮明に覚えている。

「ちゃんとやっていけるだろうか、、」

配属先に絶望し、そして、不安になった。

■慌ただしくも新鮮な生活、他職員さんの支え■

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そんな不安の中始まった新人図書館職員生活だったが、最初の半年は不安を感じる暇もなく過ぎていった。

研修、研修、マニュアル、マニュアル、現場、現場、研修、etc…

詰め込まれた新人研修の合間を縫って、カウンター、事務作業、マニュアルを行き来した。

特に私の勤めた本館は、利用者の属性(学生、大学院生など)によって手続きの仕方などが違うため、多くのマニュアルを読み込んで覚える必要があった。もの覚えがよいタイプではなかったので、ひたすらチェックリスト化してメモをとり、ここでとったメモ帳は最終的に7冊におよんだ。

目まぐるしくすぎていく中で、『接客が苦手』という弱点が、新人図書館生活をさらに大変にする理由の一つとなっていた。

利用者の方の中には、てきぱきとした対応がまだ身についていない新人職員にたいして、強めの態度で要望を伝えてくる方も多く、ときには怒鳴られることすらあった。
今思うと、そんなことを気にせず毅然と対応するのが仕事だと思うのだが,そのころの私は、恐怖で心がいっぱいになるばかりだった。

それでも、不思議と新人時代の思い出に対しては「大変だけど、楽しかった」という思いが今、強く残っている。

それは、一緒に働いていた先輩・同僚達のおかげだった。

Iさんは、ぴよぴよビクビクバタバタとまどう私に対して「大丈夫かな?」と思われたらしく、学内で行われていた音楽会(オルガンとバイオリン)に誘ってくださった。その際に自分のことをオープンに話すと同時に、私の話も熱心に聞いてくださった。

また、一つ年上のMさんは、私がカウンターで困り果てているときに、颯爽と途中から対応を変わってくださった。

落ち込んでお手洗いに引きこもったこともあったが、そんなときは、Tさんが励ましてくれた。

などなど、あげ始めればきりがない。

指導する立場でない方ならば、ぴよぴよバタバタした新人職員を放っておくことだってできただろう。新学期にはとりわけ忙しくなる部署だ。

けれども、自分の業務の時間やときにはプライベートの時間を削って、多くの先輩や同僚が私を気にかけてくれた。
その方達にはいまでも頭があがらない。

■職場に慣れてくる中でぶつかった「サービスとは何か」の壁■

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そんなこんなで、周りに助けて頂き、ようやくのこと職場になれてきた私であったが、一つ大きな壁にぶつかった。

それは、『よいサービスとはなにか』という問いである。


「マニュアルどおりにはある程度できるようになったけれども、これでいいのかな」
そんな思いが浮かんでいた。

大学を卒業して一年目。カウンターの向こう側には、去年まで私がいた世界が広がっていた(北海道大学出身ではないが)。

学生時代をともにした同期や知り合いが院生となり、北大の図書館でみかけることも珍しくなかった。

他大学から進学したメンバーなだけあって、みな、目的意識がしっかりしていた。

「看護の視点を学んだあと、研究でしか救えない命があると気付き、研究者を目指した人」
「人の役にたつ薬品の開発に携わりたいと大学院に進んだ人」
「理系の知識を生かした職につきたいと、自分のスキルを磨きに大学院に進んだ人」

「研究がしたい!世の中の役に立つ発見をしたい!」と高い志を持った、まぶしい人達ばかりだった。

そんな彼らを見て、「自分のこのカウンターに立つ姿を見られて、恥ずかしくないだろうか」そんな思いが、ふと、よぎった。

彼らは決して安くはない学費を払い、大学で学んでいることを私は知っていた。そして、その学費を支払うために、どんな苦労を背負っているのかも。

私の銀行口座に毎月振り込まれるお給料。ありがたい。ありがたいけど、この通帳にタイプされた数字は私に見合うのだろうか。
このうちの幾分かは、私の友人たちが苦労を重ねて捻出した学費である(といえなくもない)。

「私が学生の立場、もしくは給料を支払う立場だったとして、自分が提供しているサービスにこれだけのお給料を支払うだろうか」

------答えは「NO」だった。

■「サービスとは何か」先輩から「まなぶ、まねぶ」■

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『まなぶは、まねぶから』
その時、私の頭にはこの言葉が浮かんでいた。

私は高校時代弓道部だったのだが、恩師がよく「とにかく基本・型をしっかりしなさい。工夫はそれからです」とおっしゃっていたのだ。

『まなぶは、まねぶ』。恩師の言葉に従い、私はとにかく『サービス』に長けていると感じた先輩をひたすら真似ることにした。

「給料泥棒になりたくないんです!!!!!!!」
私が高らかに宣言していたのは、同期であり、人生の先輩であるFさんだった。
同じ年に同じ部署に採用され、前職などで鍛え抜かれた接客で利用者からの人望も厚かった。

Fさんには、そのサービスの高さから感謝の手紙が届くこともしばしばあった。優しい人柄に加え面倒見がよく、私が「しゅん、、、」としていると、可愛いイラストでよく励ましてくださった。

「一日一個質問していいですか!!!!!!!」私が教えを乞うたのは、係最古参のM先輩であった。
英語ペラペラ、仕事スーパースピード、コミュニケーションの達人、時たま訪れる海外の図書館職員や研究者とも流暢に会話し、こちらもまた、感謝の手紙やご指名が舞い込み、ひとたび手を貸せば「Thank you for your help!!」となり、研究者の著書のスペシャルサンクスに載る、、、。
「ば、ばけもんだ、、」と正直思った先輩だ。

レベルが違いすぎて話かけるのさえ怖かったが、
『棚から牡丹餅をぼーっと口あけて待ってても落ちてこない!!!学びは自分でとりにいけ!!』
と自分を震い立たせて、一日にひとつ質問をした。

くだらない質問(とくに抽象的な)をすると大抵「わからないですねぇ」「私も知りたいです。わかったら教えて下さい」と相手にされなかったが、
私がいい質問(的確に返答をしぼることができる範囲)をすると「いい質問ですね」と教えてくれた。

一日一回のバッターボックス、どうやったらヒットをだせるか、、、と質問を考えた。このことが自分で物事を考えるきっかけにもなっていたと思う。

机の配置、メモのとりかたまで、とにかく観察に観察を重ね、疑問に思ったこと、なにかヒントになることはないかと日誌に書き連ねつつ、とにかく真似た。

その中で、少しずつだが、わかってきたことがあった。

■図書館にとってのサービスとは何か■

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そんな探偵のごとく、観察に観察の日々を重ねた私だったが、わかってきたことは主に以下の4点だった。

①サービスの対象となる利用者は誰かを考える
②相手の立場になる
③距離感を見極める
④大学図書館職員としての、立場からできる最高のサービスとはなにかを考える


①サービスの対象となる利用者は誰かを考える
私達大学図書館がサービスする相手は誰だろうか。今目の前にいる学生さん?
確かに、今対応している学生さん、先生に全力を尽くすことも必要だ。

ただ、私達がサービスの対象としているのは、目の前にいる人だけではないことを学んだ。

その学生さんの要望を叶えることで、図書館全体としてのサービスはどう変質する?
未来の図書館にくる学生さんのサービスはどう変質する?
今目の前の人に時間をかけることによって、他の人が受けられるサービスが減るかもしれない。そういった一歩引いた視点も大事だと気付いた。

私の場合は、特に次の3種類の利用者を意識するべきと考えた。

【筆者が思うサービス対象とすべき利用者】
1-目の前にいる学生
2-図書館という組織全体からの恩恵を受ける(例えば、蔵書構成など)、目の前にいない学生や教員
3-将来,この図書館からサービスを受ける学生や教員


②相手の立場になる
このことは、サービスだけではなく働く上でも大事なことであると思う。できるだけ、相手の立場になって物事を見る、そのあとに、自分の主観としての見方を考える、最後に第三者の視点からみて、一番よいと思われる判断をすることが大事だと学んだ。
また、希望に添えなくても、相手の立場になって考えることができれば誠実な対応ができることを学んだ。

③距離感を見極める
これも未だにできているわけではない、難しい。が、基本的には、敬語には敬語を、砕けた問いかけには砕けて、などと相手の立ち振る舞いから、どんな対応やどういった職員像を求めているのかを汲み取るように努めた。

今思うと必死だったのだと思うが、カウンターでは先輩方をイメージした3モードを用意し、利用者の方に合わせてどのモードでいくかを決めていた(最終的に目指す地点は自分らしくその人にあわせた対応だと思うが。)。

【筆者のカウンター3モード】
① かっちりKさんモード(そつのない美しい対応)
② なごやかしっかりFさんモード(親切でありつつ、毅然とした対応)
③ フランクMさんモード(親しみを込めて応対し、信頼できる関係性を築いていく対応)


④大学図書館職員としての立場からできる、最高のサービスとはなにかを考える
自分個人としてではなく、大学図書館職員としての立場からできる最高のサービスとはなにかを常に考える。これは、意識の持ち方の課題であろう。

■最後に■
勿論学んだことを全て実践できているわけではない。

だけれども、おろおろびくびくぴよぴよしていた私が、
まごついている学生さんに「ニコッ」とほぼ無意識に笑いかけることができたとき、
学生さんがホッとした顔をしてカウンターに来てくれたとき、
そんなとき、「あ、少しは成長したのかな」と感じる。

先輩たちから学んだ、『大学図書館職員のサービスとはなにか』について、
少しでも誰かの学びや励みになることができたら、これほど嬉しいことはない。

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○今回のコラムのまとめ○
筆者が思う、大学図書館職員がサービスする上で大事なポイントはこの4つ!

①サービスの対象となる利用者は誰かを考える
②相手の立場になる
③距離感を見極める
④大学図書館職員としての立場からできる、最高のサービスはなにかを考える
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