符亀の「喰べたもの」 20211031~20211106
今週インプットしたものをまとめるnote、第五十九回です。
各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。
土曜は説明書の作成と試遊会に明け暮れたため、日曜日に更新しています。
漫画
「逃げ上手の若君」(3巻) 松井優征
鎌倉時代から室町時代への狭間、死を栄誉とする武士の時代に、生き延びることで英雄となった一人の少年の物語。第四十一回以来の登場です。
ストーリーの大筋も面白かったですが、読者を興奮からゾクっとさせる演出が多く、メリハリを生んでいたように感じます。この「ゾクっとする」感情は意外性からくるものであり、連発されると混乱してしまいがちですが、本作は全くストレスなく読めます。ここが素晴らしいです。
おそらく、この演出をするときは「何が起こるかは読者が予想できる(ようにタメのコマを入れている)」「しかし方法や絵面が読者の想定を越える」「何が起こるかわかっていない敵側のリアクションを入れて、読者の感情も追従させている」などの点に気をつけられていて、故に予想通りで読みやすい話の中に意外性が生めているのかと思います。唯一この巻で上記の法則が当てはまらない、つまり読者も驚くポイントは81ページのアレですが、あそこは「人の才を見抜く力があるキャラだと既に示されていて、起きたことに納得感はある」うえ、逆に「相手側のリアクションが静かで、意外性が強調されすぎていない」ため、ここでバランスが取っているのだと思います。
「怪物事変」(15巻) 藍本松
人に見つからぬようにこの世に潜んで生きる怪物(けもの)たち。その一つである屍鬼と人との間に生まれた半妖である主人公が、化け狸に拾われて怪物事件専門の探偵社で働く物語。第二十六回以来の登場です。
「逃げ若」と逆に、正直この巻の前半は悪い意味でどう話が転ぶのかわからず、キャラへの感情移入もしにくい印象でした。爆弾を抱えたまま二転三転する話は全体を知ってから読み返せば面白いと思いますし、じゃあどう直せば初見から読みやすかったのかと聞かれると困るのですが。というか正直私が忙殺されてて初見時のリテラシーが死んでただけかもしれないのですが。
それに対し、終盤の新キャラ達の描写は非常に好みでした。「このキャラならこういう行動をするだろう」と初見のキャラですら思わせてくる描写の丁寧さ、本当に見事です。
「研究棟の真夜中ごはん」(2巻) 夏河もか(漫画)、神岡鳥乃(原作)
知的好奇心にあふれつい「なぜ」と聞いてしまう塔山うららと、人付き合いが苦手で知っていることを聞かれるとマシンガントークを炸裂させてしまう鳥見川氷彗。2人のリケジョが、夜食を通じて交流する話。第二十回以来の登場です。
2人の思い出を確かめ合う形で、今までに出た料理知識を復習させてくれるのが上手いですね。この後に続く「覚えてるよ 氷彗が教えてくれたことは全部」というセリフがストーリー的にも非常にいいセリフなのですが、私は全部忘れてました。だって読んだの9ヶ月前だもん。
その他液体窒素を使う際にしっかり窓を開ける(液体窒素を密室で使い、気体化して急激に体積が増えた窒素により窒息死した事故例がある)など、細かい描写にも読者、特に真似してみようとする人への配慮が感じられます。
なお前回取り上げた際に1話のコマ割りが気になっていたようですが、この巻では特に違和感を覚えませんでした。でも百合描写が強すぎないかというのはまあ、うん。
「ケモ夫人」(第16話) 藤想
展開が速い。
今週はいわゆる「ジャンプの週」でしたが、それで3冊しか読めていないというのはなかなかにマズいですね。具体的にはこの1.5倍積読が増えました。
一般書籍
「知的生産の技術」 梅棹忠夫
1969年に初版が発行された、「頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら――情報――を、ひとにわかるかたちで提出すること」である知的生産について、そのネタ探しから整理、執筆にいたるまで幅広い観点から書かれた新書です。なおこの巻はちょうど100刷目だそうです。
4月から6月ぐらいに買うだけ買って積読してましたが、「ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論」で登場したのを見て流石にそろそろ読むべきかと思い、読みました。1ヶ月かけて。内容の理解のためには一気に読めと本書でも言われているというのに。
幅広く描かれている分、自分の興味のある部分とそうでない部分とで自分の読む態度が大きく変わっているのがわかりやすく、想定外のところでダメージを受けました。前半のいわゆる「カード式」についてはめんどくさいという印象が強く内容もおぼろげですし、逆に中盤の読書や終盤の文章(執筆)の章は前のめりになって読みました。「知的生産」全般に興味を持っている私とその総本山である本書ですらそうなのですから、私が文を書く側になったときに煮え切らない態度の読者にどう伝えるべきか、認識を改めまなくてはいけないですね。
さて本書は方法の提言書ですので、私的に実践したいと思った内容をここにまとめておくことにします。これ以外にも面白い章やついうなづいてしまう部分もありましたが、あくまで再読用の「索引」として。
索引をつくる(P34)、資料を規格化する(P79)、先輩のおしえ(P81)、バラ紙に書く日記(P183)、こざね法(P220)
さて、あとはこれをどれだけ実践できるかですね。本書「おわりに」にある通り、「実行しないで、頭で判断して、批判だけしていたのでは、なにごとも進展しない」ので。
Web記事
コストを追加で払った際の効果について、「角括弧の中の記述を削除する」という記述法によりテキストの簡略化をしたマジック・ザ・ギャザリングの工夫の妙について述べられたツイートです。
この書き方は完全に想定外であり、いいものを紹介していただいたなと思います。機会があったらパクります。
「圧倒的な物量『庵野秀明展』に思う。文化とは『90%のカス』のほうが本体である(藤津亮太)」
『庵野秀明展』が、第1章で「庵野秀明を作ったもの」として当時の特撮やアニメの資料を一同に会させて文化の流れを示した構成であったのを受け、その総体を残すことの価値について述べられた記事です。
私も残すことの意義は重々承知していたつもりでしたが、個別資料としてでなく総体として残す重要さには意識が薄かったと気づかされました。反省すべきポイントです。
ちょうど今週に最終回を迎えた「桜井政博のゲームについて思うこと」シリーズに関し、それが桜井さんの凄さと同時に日本のゲーム制作の問題点の象徴をも表しているのではないかと考察されたnoteです。
私も本シリーズのファンなのですが、この視点は持っておらず、また確かにその通りだと思わされました。ただそれが故に日本のゲームがブランド化されていたり、また近年のゲームでは少数のカリスマが看板になることが減ってきている気もしているので、今後の展開に注目したいところです。
「『バッタを倒しにアフリカへ』行き、必殺技を見つけてきました」
「バッタを倒しにアフリカへ」の著者が、バッタを効果的に駆除するための重要な発見を論文にしたと報告するために書かれた記事です。
最初に「全部読むのに12分はかかる」と書いたうえで、明らかにそのためだけに撮った写真と配慮を感じる注釈により一気に信頼感を高める手腕が見事です。ただすごい研究家でありバカ売れした新書の著者であるという情報があるがゆえの信頼感な気もするので、このまま流用してもヤケドしそうではありますが。
「『ゲムマ2021秋事前試遊会@娯楽屋秋葉原スペース』まとめ」
「『バックハンダー』説明書」
今週の宣伝枠です。
なおこの説明書を印刷所であるポプルスさんに入稿したのは6日の午前3時でしたが、その1週間後にポプルスさん主催のイベント「ボドゲガレージ」でその説明書を入れた状態で「バックハンダー」を頒布予定です。主催をギリギリスケジュールに巻き込むなバカ。
というわけで今週も忙しかったわけですが、来週の週末はなんと即売会1つ1つと試遊会2つに参加します。なおこのうち2つは同日です。バカのスケジュールだな。
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