符亀の「喰べたもの」 20231001~20231007

今週インプットしたものをまとめるnote、No. 159です。



漫画

鵺の陰陽師」(1巻) 川江康太

人の怒りや悲しみに反応する幻妖が見えるために穏便に過ごすことを第一としていた主人公と、彼に力を貸す幻妖「鵺」との物語。

いやー面白かったです。1話の口コミは聞きながらも紙で読めるまで我慢していたのですが、その上がったハードルをちゃんと越えてくれました。同時に、俺は好きみたいな煮え切らない推され方をしていたり打ち切りが心配されてたりした理由もなんとなく察しました。

まずこの作品、1巻の時点で物語における長期目標が提示されておらず、何の話なのかわからないんですよね。これ普通の漫画なら一発OUT、ジャンプなら即打ち切りクラスのやらかしだと思うんですが、それなのになぜか面白い。あの1話の展開は意外性と見せ場とでわかりやすく面白いですが、2話以降は「なんか面白い」って感じなので強みが分かりにくく、かといって作劇上の基礎が守れていないように見える欠点 (意図的かもしれませんが、ここでは欠点とします) は明白なので、自信持って他人に勧めるのは難しいのも分かります。

で、じゃあこの作品は何が面白いのかを考えてみたのですが、多分「お約束展開にちゃんと驚く」ことな気がしてきました。漫画はフィクションなので、現実基準だと変なことが起こり、それがお約束のテンプレとして流されることも多いです。ですが、本作ではそこに真面目に向き合い、ギャグにするのを持ちネタにしているのだと思います。1話の「覚醒した主人公が予想外に強くなったので手加減を推奨する師匠」とかは普通のなろう系とかでも出てきそうな演出ですが、その後の「やけにリアクションがいい同級生に『そんなノリのいい奴だったのか!』と驚く」ネタや「転校生が主人公の隣の空いている席に割り振られる時に、そこが空いていることに驚く」、「教科書見せてあげるイベントの発生や日和った主人公に一緒に見ることを要求する転校生の積極性にいちいち驚く同級生」あたりは、あえてやらないと出ない描写でしょう。このやり口の面白い点は、ツッコみつつも展開自体はテンプレのまま進むので、話のテンポはいいし読みやすいところです。テンプレ展開に乗っかってストーリーの流れは理解しやすくしつつ、現実目線から見たときのその異質さにはいちいちツッコむことでネタは増している、いいとこ取りなやり方だと思います。今のところ、そういう自然な展開でネタを足す手口が一番面白いので、強みが隠れて見つけにくく「なんか面白い」としか言えないのも納得です。

2巻以降の分を読んでいる本誌勢の人からは「ちゃんと面白い漫画になった」とか「もう安心」みたいな感想も聞こえてきているので、早く発売予定の12月になってほしいですね。


あかね噺」(8巻) 末永裕樹(原作)、馬上鷹将(作画)

父の落語を聞いて育った娘が、父の至れなかった真打を目指し落語家となる物語。No. 150以来の登場です。

主人公の「親離れ」が見事でした。いやこの巻の筋書きは全部面白いんですけど、その中でも69話からのエピソードはさらに一枚上でした。

憧れていた父の弱さに気づき、それを越える話。で十分熱いのが描けるのに、父の弱さが好きだったという、よりキャラに向き合った話が書けるのがすごい。最後の見せ場を見開きにせず1ページちょっとの大ゴマで描くことで、キャラの背中側が狭くなり、少し寂しさも感じさせる絵面が内容にピッタリ合っているのがすごい。原作さんも作画さんもすごい。超すごい。

コマ割でもう1つ好きなところが、30〜31ページ (64話) です。ここは商人の上方弁での長台詞を一息で言い立てる見せ場なわけですが、既に1回出たセリフなうえに難解さと言い立ての勢いさえわかればいいので、内容はもうどうでもいいんですよね。なので、「ほなもう一回言いましょうか」とフリつつも言い立てはページ下半分に回しつつ分身したキャラの視線誘導で読み飛ばさせ、ちゃんと読んでほしい解説部分は上側に置いています。その上部分で経過した時間分か、下側で描かれた言い立てでは1回目と比べて最初が抜けているのもオツです。チョーすごい。


SPY×FAMILY」(12巻) 遠藤達哉

凄腕スパイの父・殺し屋の母・超能力者の娘が、お互いの正体を知らないまま疑似家族となるコメディ。No. 134以来の登場です。

やっぱ「すれ違いコント」って面白いなと再認識しました。特に80話では、「3人目の登場によりさらに状況が悪化する」「片方の何気ない一言がもう片方の致命傷になるなど、テンションに差がある」「何もわかっていない奴がたまたま最適解を打つおかげで話が進む」など、すれ違いコントを面白くするためのスパイスが多く勉強になりました。


マッシュル-MASHLE-」(18巻(完)) 甲本一

ハリー〇ッターの世界でムキムキのマグルが下剋上する話。No. 146以来の登場です。

最終巻らしい、熱い全員集合でした。思えば、本作は「ピンチになる→過去の敵が助けに来る→主人公が決める」というパターンが多い作品でした。ですが、また同じ展開かとうんざりすることは少なかったように思います。まあここ以外では似たパターンに感じて中だるみしていたところもあった気もしますが。

その理由は、主人公が「他の人の持っているもの (魔法) がなく、他の人が持っていないもの (筋肉) を持っている」のが明白だったからかと思います。主人公に欠けているものが明らかな分、それを持っている人が助けに来る展開を受け入れやすい。そして、主人公の戦闘スタイルが他人と違いすぎるため、助けられた後も最後に主人公の見せ場を作りやすく、主人公いらなくね的な感想を抱きにくい。結果、「これまでの敵が助けに来る」という熱い展開を何回も使えたのかなと思います。

筋肉ネタ一発でここまでやり切る、非常に脳筋で面白い作品でした。完結おめでとうございます。


限界煩悩活劇オサム」(4巻(完)) ゲタバ子

対腐女子特化の除霊師とオタクに優しい非実在ギャルの2人が、荒ぶるオタク感情を現世に残してしまった腐女子霊を祓っていくギャグ漫画です。No. 147以来の登場です。

完結後のおまけページに作中作のキャラクターデザインの人からイラストを寄稿してもらい、それに対するキャラのオタクリアクションを描くネタ、ズルいと思います。最終巻だからって好き勝手やっていただいてありがとうございます。完結おめでとうございます。


呪術廻戦」(24巻) 芥見下々

「宿儺の指」をこう使う発想、最悪。


ペンと手錠と事実婚」(1巻) 椹木伸一(原作)、ガス山タンク(作画)

スケッチブックを使って話す少女と、彼女に婚姻届を書かされた中年刑事との、ミステリーラブコメです。

「一方的に中年男性に惚れている少女」や「スケッチブックで話す」といった、話としては面白いものの不自然な設定に対し、4話である程度フォローが入ったのがよかったです。この2人の結婚に対しちゃんと「キモッ」とツッコミが入り、かつそのツッコミを悪人として退場するキャラにさせることで、強い言葉でツッコんでも後々の展開に邪魔にならないようにしています。また、スケッチブックの表と裏で別の内容を書くというスケッチブックでないとやりにくい演出を見せ、この設定に合理性があるように思わせているのも上手です。単にインパクトやギャグ演出のための筆談ではなく、それでこそできる魅せ方を示してくれたおかげで、不自然さへの警戒よりも次に何を見せてくれるのかというワクワクが勝つようになっているのが見事です。2巻以降も楽しみです。


小さい僕の春」(1巻) 渥美駿

スパイカーになる夢が中学で叶わず、夢を持たないことを決めた主人公と、女子バレー部エースのヒロインとの分不相応な恋を描いた物語。

「ヒロインの影響で昔本気だったスポーツに再挑戦する」という設定が、スポーツものの難しいところをいくつも解決していて上手いと思いました。まず、ヒロインのために頑張るというのを序盤の見せ場にしており、その見せ場に結果が伴う必要がないこと。普通のスポーツ漫画なら主人公がその競技に向いた才能を持っていることを見せ場の鍵にしますが、その場合、スポーツのルールを解説して才能の重要性をしてからでないと面白さを伝えにくいです。ですが、本作の形だとヒロインの魅力と主人公のこれまでさえ描けば準備が済むので、必要項目が減って他の描写にページを割きやすいです。

また、「昔本気だった」というのも、主人公のキャラ付けをしつつ覚醒時の説得力を担保させており、活躍させる前に修行パートを挟む必要がなくなっています。まあ、1回見せ場作ったからええやろ的なことなのか本気になった描写なのかで、すぐ修行パートは出てくるんですけども。だからこの考察全部間違いかもしれないんですけども。


地雷なんですか?地原さん」(3巻) りょん

地雷系に見えて天然なヒロインと、陰キャで天然な主人公とのラブコメです。No. 153以来の登場です。

天然ネタは面白いものの飽きるのも早いかなと思っていましたが、3巻も楽しく読めました。2巻までの時点でヒロインと主人公両方天然にすれば2倍面白くなるという力技にやられていましたが、ついにモブの教師まで天然というトリプル天然をやられたのには完敗しました。もう完結するまで買い続けるでしょう。


日曜日の試遊会後、せっかく遠出したからと本屋さんに寄って未読作品を漁ったのですが、その週がよりによってジャンプコミックス発売週だったせいで冊数がヤバいことになってしまいました。「あとは量だ」じゃねえんだ。


一般書籍

流石に今週はサボっていいよね。


Web記事

チャレンジャーズ!の基本的攻略

チャレンジャーズ!」のカードの選び方や強いデッキについて書かれた攻略noteです。

TCGライクのゲームを作るときのデザイナーズコンボの参考にもなりそうなので、メモしておきます。「チャレンジャーズ」にハマりきれなかった人間的には、こういうゲームの全体図が見えていばもっと楽しめるのだろうなと羨ましくも思いました。


Suspicion-Agent: Playing Imperfect Information Games with Theory of Mind Aware GPT-4
ポーカーなど不完全情報ゲームを「心の理論」で上手にプレイするGPT-4ベースの『Suspicion(疑心)-Agent』松尾研など開発

相手の行動から相手の持つ情報を推測して不完全情報ゲームをプレイするAIをGPT-4ベースで開発したという論文と、その解説記事です。原文はDeepLを使って全文を、解説記事は会員登録せずに読めるところまで読みました。

公開情報のみから最良手を推測する場合 (Vanilla planing) と相手の行動パターンを知っている前提での推測 (first-order ToM)、相手が自分の行動パターンを知っている前提での推測 (second-order ToM)で明確に勝率が変わっている (表3) のが見事ですね。また、従来の機械学習ではゲームごとに数百万回の学習が必要なところをGPTのような大規模言語モデルならその必要がないというのも利点として素晴らしいと感じました。強いて言えば、今回のモデルは相手の行動傾向がわかっていないと役に立たない点は気になりましたが、そこは想定している応用法がゲームではなく政治経済である点から問題ではないということなんですかね。


“炎上”したクリエイターはどうしたらいいのか? 『FGO』塩川洋介が『ニーア』ヨコオタロウに教えを乞う。ヨコオ氏『塩川さんはもうダメかもしれない』

元FGOプロデューサーの塩川氏の「人から好かれるには、どうしたらいいんでしょうか……」というDMから始まった、ネット上の振る舞いに関する対談企画です。

本来的な「上から目線」が嫌われがちな分、むしろ「ダメに見える」ように振る舞うべきというのが面白いと思いました。その後ひたすらダメ人間オチに持っていこうとするヨコオさんの優しいこと優しいこと。


【川崎】ゲームマーケット2023秋向け【創作ボードゲーム★試遊&相互PR会】に参加しました。ゲムマまで時間があるせいか、試遊会というよりテストプレイ会な雰囲気で、私のゲームもせっかくだからとルールを変えつつ遊んでもらいました。で、これの帰りに本屋さん寄って諸々物色したせいで今回大変なこと (5000字超) になるっていうね。

あ、あと「ポケモン feat. 初音ミク」の二次創作が最近𝕏でむっちゃ流れてくるんですよね。タイプ相性をカップリングの力関係と捉えるのが面白い発想ですし、ある意味正解のようなものがあることで描きやすくも外しの自由さもあるのがいいなと思いました。まあ公式はそういうつもりじゃなかったと思いますけども。

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