符亀の「喰べたもの」 20210704~20210710

今週インプットしたものをまとめるnote、第四十二回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

日本短編漫画傑作集」(1) いしかわじゅん(監修)、江口寿史(監修)、呉智英(監修)、中野晴行(監修)、村上知彦(監修)、山上たつひこ(監修)

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日本の漫画を俯瞰するために編まれた本邦初の傑作短編アンソロジー。(帯文より)全6巻から成り、1巻には1959年から1967年の作品が収録されています。

冒頭の手塚治虫「落盤」が最高でした。回想がより事件に近く鮮明なものになるにつれて画風がリアル調に変わっていく表現は、ある意味漫画黎明期の作者の画風が固定されていなかった頃だからこそのものかもしれませんが、今でも色褪せていません。最初がコメディタッチが強く、次とその次で他の場面と同じ程度に戻る変化のさせ方と、かなりリアル調にしないとぱっと見の差がわかりにくい落石のコマを最初に入れることで、その仕掛けに気づきにくくさせているのも上手いです。それでいて、話自体も面白いのですから言うことがありません。

その他の作品も面白いのですが、いくつか一読しただけでは面白さが掴めなかったものもありました。その理由についてはいくつか仮説はあるものの、古典であることを踏まえて考察するには今週の体力では不十分でした。2巻以降を取り上げる際、余力があれば再考します。


アンダーズ〈里奈の物語〉」(1巻) 鈴木大介(原作)、山崎沙也夏(漫画)

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未成年で家を飛び出した主人公里奈が、組織的な援行である援デリで稼ぎながら生きていく様を描いた物語です。

犯罪やそれに頼らざるを得ない悲惨さではなく、この世界で生きるために力をつけていく成長譚を本筋にしているのが上手いと思います。ストーリーが王道になる分展開がわかりやすくて読みやすいですし、暗所を前面に出しすぎると読者的にもしんどいですし。それでも十分闇が滲みだしているので、作品の独自性が損なわれていないのもいいバランスだと思います。


最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」(4巻(完)) 二宮敦人(原作)、土岐蔦子(漫画)

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藝大生を妻に持つ原作者が数々の藝大生に取材してまとめたノンフィクションのコミカライズ、その最終巻です。ちなみに3巻には、藝大生時代のあの人が出てきます。

おそらく原作(未読)からだと思うのですが、藝大生を「天才の変態」で茶化して終わらないよう配慮がなされており、好感が持てます。確かにその常軌を逸した行動や考えがこの漫画の趣旨ではあるのですが、話の末尾には彼らに対する原作者の感想が述べられています。それが、彼らを「理解できない奇人」として観測対象としない、筆者さんなりのリスペクトなのかと思いました。

同様の効果を持つ仕掛けとして、多くの、というか「変な人」が登場する話の冒頭において頻出する、原作者さん夫妻の会話があると思います。これによってその話のテーマとなる問いが示され、その後インタビューに移った後も、読者はそれに沿って読もうとします。結果、藝大生の考えからその問いの答えを導こうとし、彼らを「わかろう」とする効果が生まれていると思います。

まあ、その上でヤバい人たちがたくさん出てくるから面白いんですけどね。(台無し)


短編集を読んだおかげで、作品全体の流れといいますか、クライマックスと終わりに向けてどう全体の流れを集約させるかについて考えています。仮説を立てるのですら時間がかかりそうですが、何か思いつき次第メモとして残していきたいですね。


一般書籍

ことばと思考」 今井むつみ

我々が世界を見て、認識し、考える際に、ことばがどのように影響をおよぼすのか。それについて、多言語の話者の比較や、まだ言語能力を持たない赤ちゃんへの実験を元に論じた新書です。書影は版元ドットコムにありませんでした。

一言で言って、名著だと思います。まず1章では、異なる言語において色や動作の切り分け方があまりに異なるという例が挙げられるのですが、その多さと変わりように冒頭から衝撃を受けます。例えば何かを持つ動作に対し、英語では「hold」と「carry」のように移動の有無で、日本語では「抱える」「背負う」など持ち方で区別し、中国語と韓国語では「抱える」をさらに2つに分けるものの移動の有無で呼称は変わらないとのことです。このようなことばが一対一対応していない様は、自身の考えの枠組みが揺さぶられるようで、その驚きがストレートに伝わってきます。

2章以降では、この差が思考の差につながるのかについて、実験の結果を元に科学的な議論が積み重ねられています。こうした専門的でサイエンスな話は小難しく感じやすいものですが、本書はとてもすらすらと読めます。これはおそらく、「この実験で結果がAだったなら〇〇ということになり、Bだったなら××となる」という、実験によって検証されるべき仮説がしっかり記されているのが理由かと思います。サイエンス的な文を一般の方向けに書くにあたり、非常に参考になります。

また、「ところで」にあたる部分で「〇章で述べた通り」とこれまでの内容を再確認させていることで、論理展開に振り落とされにくい点もよくできています。この連鎖をたどっていくと最終的には1章にまでたどり着き、その感覚的な読みやすさを本書全体に波及させる形になっています。

強いて難点を挙げるとすれば、いくつかの実験が利用性ヒューリスティックなどの影響を受けている可能性があり、結論が正しいのかが一部怪しいところでしょうか。元論文は巻末の参考文献一覧に載っていそうですが、番号は振られておらずどれがどれだか探さないといけないのは少ししんどいです。とはいえ新書としてはそれで十分であり、むしろそこまで対応できている本たちがおかしい気もします。

短時間で読めて科学的信頼性も高く世界の見方が変わる、高い質の読書体験が低コストで得られる本として、心からオススメできます。


Web記事

FGO2部5.5章 リンボに学ぶ、明日から使えるGMテクニック

FGO第2部5.5章に登場する敵キャラであるリンボをTRPGのゲームマスターに例え、そのテクニックを学ぼうというnoteです。ネタバレがあるうえに本編未読ではよくわからないであろう記述も見られるため、ゲームをやってから読まれることをオススメします。

TRPG、ひいては物語やゲーム体験の山場において本筋をはっきりさせながら盛り上げるテクニックが解説されており、ネタ抜きに勉強になりました。ボードゲームにおいてはゲームマスターがいない限りセリフ回しによる演出は難しいですが、上手く要素を取り入れられないかと思います。


ゲムマライブ関連の諸々やらなんやらで、ちょっとインプットの質や集中力が落ちている気はしています。制作も山場に差し掛かってきましたので、しっかりやりきって調子を取り戻したいところです。

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