FGO2部5.5章 リンボに学ぶ、明日から使えるGMテクニック
●注意
この記事は、スマートフォン向けRPG「Fate/Grand Order」(以下、FGO)、第2部5.5章「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」のネタバレを含むものです。
未プレイの方はご注意ください。
※文中の引用部分は、「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」における、アルターエゴ・リンボのセリフとなります。
●この記事について
先日リリースされました、FGO第2部5.5章「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」。 長きにわたる「アルターエゴ・リンボ」との戦いに決着がついた、素晴らしい物語でした。
本記事では、「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」における、ラスボス的存在、「アルターエゴ・リンボ」の言動から、「明日から使えるTRPGのGMテクニック」を学び取ろうという趣旨のものです。
以下に、「TRPG」の簡単な解説と、記事の目的について記載します。
・TRPGのGMとは?
「TRPG」とは、正式名称を「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム」という、アナログゲームのジャンルのひとつです。
ゲームの参加者は、物語の進行役である「ゲームマスター」(以下、GM)と、「プレイヤー」(以下、PL)に分かれます。
そして、PLは、自身の分身となるプレイヤーキャラクター(以下、PC)を使い、GMが用意した「シナリオ」と呼ばれる物語を、主に対話によって進行させ、遊びます。
詳しくは、多くある動画や解説記事などを御覧ください。
・アルターエゴ・リンボを操るリンボGMの行動から、GMテクニックを学び取る
本記事では、「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」のアルターエゴ・リンボを操り、5.5章の物語を動かしていた「リンボGM」がいるものと仮定し、リンボGMが、カルデアの主人公たちPCを操るPLたちに対して、どのような手段で物語を進行させていたか。
また、その中でリンボGMは、スムーズな物語進行のためにどういうテクニックを使っていたかということを、妄想の上で勝手に学び取ろうというものです。
平たく言えば、「もし、5.5章がTRPGのシナリオであり、物語を動かすGMがいたら」という空想の元に書かれています。
「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」は、当たり前ですがTRPGのシナリオではありません。
記事の性質上、TRPGをご存じない方にはピンとこない部分もあるかと思いますが、なんとなくそういうものなんだなと思って読んでいただければ幸いです。
※本記事は、「fussetter」(ふせったー)に書いたものをまとめたものになります。
●はじめに
FGOの主人公と金時、段蔵たちPC軍団のモチベーションを維持しつつ、脱線しそうになる行動に素早く対応し、おそらくPCたちに合わせてシナリオそのものを修正してくれたであろう「アルターエゴ・リンボ」こと蘆屋道満を操るリンボGM。
最後の章にかけてのバトルでは、神GMが盛り上げるTRPGのクライマックスシーンを見ているかのような爽快さで楽しませていただきました。
本編クリア後にテキストを読みなおし、5.5章における「アルターエゴ・リンボ」の言動の中から、明日から使えそうなGMテクニックを学び取ることができました。
サンキューリンボ。
そんな神GMであるリンボGMが、物語中で使っていた、「明日から使えるGMテクニック」を見ていきたいと思います。
便利そうだなと思ったテクニックがもしあれば、みなさんもぜひ明日からのTRPGライフに活かしてください。
各GMテクニックは、5.5章の物語内に登場した順として並んでいます。
●1~5節のリンボGMの手腕
・レイシフト観測ログに混ぜられた「DOMAN」の文字
シナリオ開始から戦闘に巻き込まれ、ホットスタート的な展開であった序盤。現地協力者である金時と合流し、紫式部の屋敷に落ち着くことができたPCたち。カルデアとの通信が回復し、PLたちとしてはひと段落つくことができた場面でした。
緊張する場面や、序盤の危機などを乗り越えると、往々にして今まで何をしていたのか、これから何をするべきだったのかということが忘れられてしまいます。
ですが、そこは神GMリンボ。カルデアとの通信中に「DOMAN」の文字をでかでかと混ぜ込むことで、ギャグとしてPLたちの心を落ち着かせつつ、シナリオの目的が何であったかを明確に示し、これから調査フェイズが始まることを自然な形で理解させています。すごいぜ。
ピンチの直後や、ややこしいことがあったシーンの後には、PLたちにシナリオの目的を再提示しろというリンボGMのありがたい教えをここに見ることができるでしょう。
「これ以上の種明かしなぞ無粋というもの。そうでしょう?」
上記の直後、ホームズやダヴィンチが、アルターエゴ・リンボの目的や行動についておおまかな情報を出したところで、リンボは通信を切ってサッと次のシーンへと移行させています。
対処すべき危機と将来的な崩壊の予想を示し、ボスの目的を推察させ、これから始まる調査シーンでのPCたちの行動をどうするか考える材料をPLにしっかりと与えておく。
ただただPCに調査をさせるのではなく、このままではどうなってしまうのか、敵の目的は何なのか考えることができる材料を提示し、PLたちが能動的に物語に参加することができるように、スムーズなシナリオ進行をしています。さすがはリンボ。
・「内裏で顔見せに来た蘆屋道満」
調査シーン開始後、PCたちはいきなり敵の本拠地に乗り込むルートを選択しました。当然、そこには道満ことアルターエゴ・リンボがいるのですが、いきなり戦闘をさせるわけにもいかない。かといって、何も情報なしで帰してしまってはPLたちのモチベーションが下がってしまう。
そこでリンボGMは、PCたちのいるシーンに蘆屋道満を登場させ、害意がないことを示し、PCたちに判定までさせることで、ここに来ても情報を手に入れることができないことをPLに示しています。
この、PCたちに判定させることが大事で、自分たちが判定をしたことによって情報が手に入らないことを納得しやすくなります。
さらに、重要NPCである藤原道長が登場し、PCたちに「源氏の総意として、天覧聖杯戦争は悪なりと告げろ」と言ってきます。PCに無駄足を踏ませず、足りていないフラグを示して、PCたちの次の行動を促す。
このあたりのリンボGMの手腕は、歴戦のGMのそれを感じさせてくれます。
TRPGのシナリオ中、突然PCたちが敵の本拠地に乗り込んできてしまって戸惑うことも多いと思いますが、その際の演出例として大変参考になるものでした。
この演出によって、PCたちは次に「源氏の総意をとりつけなければならない」ことが明確になり、その後の行動をスムーズに考えることができるようになります。さすがはリンボ。
「宮中にございます、どうか刃傷はご容赦おば」
金時と綱があわや戦闘かと盛り上がった場面、リンボGM操る道満のセリフ。
この辺のNPCの配置が大変うまい。万が一PCたちがボスの本拠地に直接乗り込んできた場合、無理やり戦闘することができない理由を用意するため、内裏という場所を設定しておく。
この配置により、無理やりに戦闘でシナリオを展開することがむずかしいことをPLに示し、「ちゃんと調査しろよ」というGMからのメッセージを伝えています。
この辺の場面設定とNPC配置の隙の無さが、リンボGMのうまさを感じさせてくれます。
ここまでのリンボGMの演出により、PCたちは
・いきなり戦闘で解決することはできないこと
・次に行わなければならないことは「源氏の総意」をとりつけること
・ある程度PCが無茶しても大丈夫であること
などを理解していると思います。
さすがにうまいぜリンボGM。
序盤からPCたちの道を丁寧に引きつつ、PCたちのモチベーションをうまく管理し、丁寧なシナリオ進行をしています。
●6~10節
第5節までのGMリンボの仕込みにより、スムーズに情報収集を行い、「源氏の総意として、天覧聖杯戦争は悪なりと告げる」という目的のために動くPCたち。
6~8節にかけては、酒呑、茨木の鬼組との邂逅、頼光との出会い、綱との決着など、順調にフラグを処理し、頼光が戦うことができるようになり、綱との和解も果たしました。
結果、目的であった「源氏の総意として、天覧聖杯戦争は悪なりと告げる」ことを達成します。
このあたり、リンボGMは特に物語に介入することなく、PCたちの動きに任せています。
前節までの仕込みにより、目的は明確化され、後はほっといてもシナリオが進むという判断でしょう。
そして、天覧聖杯戦争が中止になるあたりからまたリンボGMは動き始めます。
「後一歩のところで源氏の殺し合いとなったものを、またカルデアにしてやられた!」
「流石の拙僧も計算外にて、フフフ!」
シナリオの流れとして、ここで前半「天覧聖杯戦争編」は終了になったのではないかと思います。
言ってしまえば、「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」は、前後半の2シナリオ構成であり、前半シナリオをぐだや金時のPCたちがクリアしたのではないか。
酒呑童子、源頼光、渡辺綱ら主要NPCは登場しているし、種々のミッションは解決し、敵らしい敵がいなくなりました。
そこでリンボGMは、PCたちカルデア勢の活躍によって天覧聖杯戦争が中止に追い込まれたことをきちんと演出してくれます。
これは、前半シナリオ終了のご褒美的な演出であり、PCたちの行動が敵におよぼした影響をしっかりと見せてくれる。
これをやるとPCたちに達成感が出ます。
このあたりの負けっぷりや、ボスがどう追い込まれたかを明確に示してくれるあたり、リンボGMが非常にPLフレンドリーなGMであり、PLのモチベーション管理に気をつかっていることがうかがえます。
PLたちは、前半シナリオクリアで1度気持ちよくなって、スムーズに後半シナリオ「地獄界曼荼羅編」へ移ることができます。
さすがリンボ。
さらに、この後の、アルターエゴ・リンボが正体を現し、地獄界曼荼羅へつなげる流れは、堅実なシナリオ構成と万が一に備えた仕込みを感じることができ、大変参考になるものでした。
・八将神 黄幡神・蘆屋道満
天覧聖杯戦争はPCたちの活躍により中止、本来捧げられるはずであった英霊の魂は4騎分しか集まりませんでした。
ですが、リンボは空想樹を呼び出し、「地獄界曼荼羅」を発現させます。
これは、前半シナリオがどういう展開になろうとも、後半シナリオを問題なく始めることができるための設定なのでしょう。
あるいはPCたちがさらに活躍し、バベッジやパラケルススが生き残ったとしても、リンボは空想樹を呼び出し後半シナリオへ移行させることができたでしょう。
そのために、新たなる敵である「八将神」を用意しています。
このあたりのシナリオ構成が実にうまい。
大きな事件を起こす際、敵側の仕込みがある程度済んでおり、たとえ計算よりPCたちが活躍したとしても、計画そのものは進めることができるようにしておく。
用意したイベントがすべて起こらなかった場合を想定しておき、内裏にいるボス「アルターエゴ・リンボ」がいつでも「地獄界曼荼羅」を発動できるように設定しておく。
短時間で大きな事件を起こすシナリオにおけるTIPSをこの辺の展開に見ることができます。
そして、PCたちの行動が無駄ではなかったことを、先のリンボのセリフで示してくれる。
「流石の拙僧も計算外にて、フフフ!」とは言ってますが、おそらくGMとしてのリンボは計算済みだったでしょう。
「貴方がたの活躍たるや見事なる者。この道満もといリンボ、いたく驚かされました。」
「人の想い。人の抗い。」「わが企てを遥かに超えるモノでありました」
後半シナリオにつながる場面にて、リンボGMはしっかりPCたちの行動をほめてくれています。
思ったことはきちんと伝える。具体的な言葉として言うことでPLたちのモチベーションを維持させる。
この辺の言葉がさらさらと出てくるあたりも、リンボGMが歴戦のGMだなと感じさせてくれます。
ですが、リンボGMはそれだけでは終わりません。
「まぁ、嘘は。このあたりにいたしまして」
PLたちの行動を褒め、モチベーションを上げてから、リンボGMはスムーズに後半シナリオへ移行します。
変わり果てた平安京の光景と、明かされる「地獄界曼荼羅」。
ここでタイトル回収も絡めて、PLのテンションを上げてくれます。
このあたりの呼吸が実にうまい。
さらに9節、雷と共に現れる八将神の2人
タイトルの「轟雷一閃」との関連性がチラリと見える、ニクい演出です。
その流れからスムーズに後半シナリオの説明をしてくれます。
天覧聖杯戦争でささげられた英霊の魂は4騎。
後、3騎到達すれば敗北。
後半シナリオのリミットに、PCたちの前半シナリオでの行動がしっかり取り入れられています。
前半シナリオの行動に意味があり、PLたちは、自分たちの行動の結果を数字で見ることができます。
これはわかりやすく達成感を得られやすいとても良い構成。
・八将神に挑む源氏武者たち
PCたちは、強力な八将神と対峙することとなります。
八将神が2騎で出てきたのは、例え2騎とも朱雀門に到達したとしてもシナリオが終了しないようにというリンボGMの仕込みかとも思われますが、そのあたりはわかりません。
リンボGMは、八将神が非常に強力な存在であり、勝てるかどうかわからないことをセリフで示唆します。
あるいはここでPCが一時撤退し、何らかの対抗手段を探すルートを想定していたのかもしれません。
ですが、頼光は「それがいかがいたしました」と高らかに宣言し、戦闘へ移行します。
さらに、敵の宝具を展開させ、もう一度PCの撤退機会を作り出そうとしていたかのように見えたリンボGMですが、金時PCはそこから敵を挑発し、戦闘を継続します。
ほんと源氏PCたち戦闘好きだな。
そして、PCたちは、敵の宝具、真名解放の刹那を狙った攻撃によって奇跡の勝利を得ます。
ここからは完全に自分の妄想となりますが、もしやこれは、PCがクリティカル連発して、負けイベントに勝利してしまったのではないだろうかと感じます。
たとえ、八将神の2騎が朱雀門へ到達したとしても、後1騎分猶予がある。
あるいはここで撤退からのなんらかのフラグが用意されていたとしてもおかしくない。
ですが源氏PCたちは、「源氏進軍」の合言葉と共に奇跡の勝利を成し遂げます。
おそらく担当PLたちは相当に盛り上がっていたことでしょう。
やはりそこはリンボGM。
盛り上がっているPLたちに水を差すわけにはいかないと、八将神たちを倒させ、即座に後のシナリオを修正する方向に舵を切ったのではないでしょうか?
これはあくまでも自分の妄想ですが、もしかしたらそうだったのではないかと思わせてくれるほど、ここまでのリンボGMのマスタリングは素晴らしいものです。
PCたちの行動をさりげなくサポートし、不安要素は早めにつぶしておく、さらに、何か想定外のことが起こってもシナリオが進行できるように用意しておく。
八将神に勝利したPLたちは、達成感と共にさらなる戦いに進むことができます。
そして、ここから物語はさらに佳境へと向かっていきます。
●11~14節
前節終了時、PCたち源氏軍団は、八将神の2騎を倒すという奇跡を成し遂げました。
PLたちのテンションもあがっており、物語は佳境に入っていきます。
ここまで、主として戦闘で物事を解決してきたPCたちの前に、新たなる敵が立ちはだかります。
「源氏殺し」の力を持つ、「歳刑神・平景清」です。
「源氏進軍」の合言葉と共に戦闘を楽しんできたPCたちですが、この八将神に対しては今までのようにいきません。
源氏メタの化身ともいえる存在を用意したリンボGM。
これは、源氏以外のキャラクターを活躍させるためのシナリオ構成上の仕込みと思われます。
・酒呑童子の取り扱い
源氏毒を持つ平景清に対し、源氏のキャラクターたちは対抗することができません。
そのため、PCたちは、先の天覧聖杯戦争で戦った酒呑童子ら鬼の協力を得ようとします。
この協力を得るための提案を、ナーサリーライムを茨木童子によって傷つけられた頼光にさせるあたりも、スムーズに物語を進行させるために有効な手段です。
さらに、ナーサリーに攻撃したのが茨木童子であるという点も、酒呑童子とPCたちが協力するために有利に働く点でしょう。
そして、酒呑童子の協力を得たPCたちは、源氏毒を無効にし、平景清に勝利します。
この、「特定のキャラクターでないと対抗することのできない敵」というのは、用意するだけでそのキャラクターが自動的に活躍することができる、大変便利な設定です。
TRPGのシナリオにおいて、まま見ることのできるものですが、「あるアイテムを持つ場合」、「あることを知っている場合」など応用の効くもので、特定のキャラクターを活躍させたい時に有効です。
ですが、この手法には注意点もあり、ともすれば、そのキャラクターが主にならず、「あの敵を倒すために必要なキャラクター」という舞台装置化してしまい、主客が転倒してしまうことがあります。
そのあたり、リンボGMは、後に登場する「太歳神・伊吹童子」という、酒呑童子の別側面的なキャラクターを用意しておくことで、「この物語は、酒呑童子の物語でもある」という風に補強しています。
伊吹童子が登場することで、酒呑童子の役割と立場が補強され、シナリオの登場人物として確立されます。
このあたりの設定が実にうまい。
さすがはリンボGM。
・金時PCが戦う理由
リンボGMは、シナリオ開始前に金時PCのPLに対して、「戦う理由で悩んでいるキャラクターを作ってくれ」と申し送りしておいたのではないでしょうか?
「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」では、カルデアとアルターエゴ・リンボとの決着と共に、「金時が戦う理由を見つける」ということもシナリオテーマとして重要になります。
金時PCは、シナリオの中で様々な人物と出会い、自分の考えを深めていきます。
そして、景清との戦いを経て、その答えの片鱗をつかみます。
これは平たく言えば、金時PLのRP方針が決まったということであり、リンボGMから渡されていた「戦う理由」についての答えの方向性が大まかに決まったことを意味しているのでしょう。
八将神の4騎目を倒したところで、金時PCの方向性は決まりました。
言わば、クライマックスへの突入条件を満たしたに等しい状況です。
これは、GMとしては非常に悩ましいところです。
八将神はまだ4騎しか登場していないにもかかわらず、金時PCの心はおおまかに決まった。
このままでは、残り4騎との戦いは下手をすれば消化試合となってしまう。
状況としては、酒呑童子との協力を取り付け、金時PCの答えはどうやら出そうだ。
残すフラグはさほど多くない。
そこで、リンボGMは一気に物語を加速させます。
「拙僧は一流を志しておりますれば……」
5騎目の八将神、「太歳神・伊吹童子」を登場させ、一気に物語を加速させるリンボGM。
「八岐大蛇」というその存在は、シナリオ上のラスボスとして充分なものでしょう。
そして、その圧倒的な力の前にPCたちは無力化され、絶対絶命のピンチに陥ります。
さらに時を同じくして、空想樹の開花が始まりました。
物語は一気にクライマックスへ。しかし、いったい何があったのでしょうか。
「此処で焦るのは二流、否、三流にて。
拙僧は一流を志しておりますれば……」
リンボGMは、内裏の奥にいるアルターエゴ・リンボを動かします。
リンボは、その左右に「大将軍・イツパパロトル」、「太陰神・チェルノボーグ」を従えており、いつでも7騎分の魂を集めることができる状態にあったことを明かします。さらに、その魂を地獄界曼荼羅にすでに呑ませてあるという。
その結果、地獄界曼荼羅は開花してしまいました。
これらの展開を最初から想定していたとはとても思えません。
八将神の2騎がいきなり倒され、景清との戦いの中で金時PCのRP(ロールプレイ)プランも固まった。
リンボGMは、それらの状況に即座に対応しました。
まるで、「最初からアルターエゴ・リンボの左右に生贄は用意してありましたが何か?」と言わんばかりのその表情は、いくつもの危機を乗り越えた歴戦のGMのそれでしょう。
こういう時は、何をツッコまれてもドヤ顔で言い切ることが大事なのであると我らがリンボGMは教えてくれます。
「やめました」
そして、伊吹童子と対峙するPCたちの前に、アルターエゴ・リンボその人が現れ、明かされることのなかった情報を一気に語ってくれます。
ここで見るべきは、いきなり現れたアルターエゴ・リンボが、
「如何です?カルデアのマスター、そして木偶人形」
「顔見知りの英霊を次々に斃し続ける今回の趣向、お楽しみいただけましたでしょうや?」
と告げ、伊吹童子に向いていたヘイトを一気にリンボに向けてくれます。
シナリオのボスはあくまでアルターエゴ・リンボであることを再度提示し、PCたちの心の目線をリセットしてくれる。
PLのモチベーションに充分配慮する、PLフレンドリーなGMであると言えるでしょう。
そして、異星の神の器という伊吹童子の真の役割や、アルターエゴ・リンボだけの「異星の神」を降臨させるというボスの真の目的を明かします。
ボスの目的は明かされ、いよいよクライマックスへと突入するのか。
ですが、リンボGMはこれで終わりません。
シナリオの面白さを限界まで追求しようというリンボGMの尊い姿勢がこの直後に明かされます。
「つい一昨日の夕刻まではそのように想っていたのです。ええ、ええ、本当ですよ?」
「やめました」
地獄界曼荼羅の前にて、アルターエゴ・リンボは、先ほどの目的をやめてしまったことを突如として告白します。
これは、本当にリンボGMは一昨日の夕刻まではこの方針でシナリオを進めるつもりだったのではないでしょうか。
ですが、一昨日の夕刻以降に何かがあった。そして、さらにシナリオが面白くなる何かを見つけたのではないでしょうか。
そして我らがリンボGMは、少ない時間で大胆にシナリオを修正し、目的を「伊吹童子を使い、異星の神を降臨させる」ことから「アルターエゴ・リンボ自身が、『地獄界曼荼羅・髑髏烏帽子蘆屋道満』として君臨する」ことに変更します。
「髑髏烏帽子蘆屋道満」などという名前を用意してあるあたり、このあたりは事前に決めてあったのでしょう。
あるいは、一昨日の夕刻にこの「髑髏烏帽子蘆屋道満」という言葉を思いついてしまい、「こっちをボスにした方が面白そうだ」と考えてしまったのではないでしょうか。
そして、伊吹童子を喰らい、クラス・ビーストの「髑髏烏帽子蘆屋道満」として覚醒しようとするアルターエゴ・リンボ。
ですが、ここでリンボGMに思いもよらないピンチが訪れます。
・PLからの怒涛のツッコみ
急展開に驚いていたPLたちですが、ここでさすがにこれまでの展開に対してツッコみ始めます。
さらに、誰かが「クラス・ビーストになるためには条件が足りていない」あるいは「ルール的にそれは難しい」ことを指摘したのではないでしょうか。
「人類愛なき羅刹に獣の資格なし」
「人類悪は人類が超えるべきもの」
PLたちから怒涛のツッコみを受けるリンボGM。
ルールの読み違いか、あるいはエラッタ処理か。
何らかの理由で、アルターエゴ・リンボがクラス・ビーストとなることはむずかしい。
そこで我らがリンボGMは高らかに言い放ちます。
「まさに!!正論!!!」
これです。
PLの発現に理があれば柔軟に受け入れる。
疑問点やいぶかしい点には誠実に対応する。
リンボGMが誠実なGMであり、PLの言葉にきちんと対応する場面が見えます。
もうこの辺にくると、アルターエゴ・リンボの発言なのか、中のリンボGMの発言なのかよくわからなくなってきますが、それは些細なことでしょう。
さらに、PLの疑問を受け入れ、クラス・ビーストに変わることはなくなりましたが、クライマックスは続きます。
「人類愛なき者に人類悪たる資格なし!正論正論、ンンンはははは儂としたことが何たる!」
「ならば分かった!拙僧が、この儂が如何にすべきかァ!」
「こうなれば!こうなれば最早ァ!」
「クラス・ビーストなぞには拘らぬ!」
「羅刹王・髑髏烏帽子蘆屋道満となりて」
「この手で、すべて嬲り殺してくれようぞ!!」
このあたりの、もはやアルターエゴ・リンボのセリフなのか、中のリンボGMのセリフなのかわからないあたりの流れは、細かいことを置いておいて戦闘へ突入する際のお手本のようなセリフです。
声に出して読みたい日本語というのは、こういうものを指すのでしょう。
条件の不備を認める潔さ。
そこからの転身。
そして、突然出てくる「羅刹王・髑髏烏帽子蘆屋道満」という新たな名前。
一連の流れは、美しい曲の調べを聞いているようで、感動すら覚えます。
リンボGMは、「髑髏烏帽子蘆屋道満」というワードをよほど気に入っていたのでしょう。
何があろうとここだけは譲らないという美学が見えます。
そしてついにアルターエゴ・リンボとPCたちの最終決戦が始まります。
最終決戦では、いかにして戦闘を盛り上げればいいのか。
どういう演出をすればPCが気持ちよく戦うことができるのかといったGMテクニックの宝庫です。
●15節~ラスト
いよいよ15節、クライマックスを迎えました。
これまでシナリオの導線を丁寧に引き、様々な状況に対応してきたリンボGM。
そんなリンボGM操るアルターエゴ・リンボとPCたちの最後の戦いが始まります。
リンボGMが使うGMテクニックの中で、特にすばらしいもの。
明日どころか、今日から使うことのできるセリフが3つあります。
「世迷い事を!此処でl聞き届けて御覧に入れる!問うてやりましょうぞ坂田金時!」
「そうだ!情報交換と云うのは如何であろうなァ!?」
「(等と、云いつつ)」
これらのセリフは、そのまま使うだけでTRPGのクライマックス戦闘を盛り上げることができる、リンボGMの伝家の宝刀と言えるものでしょう。
さらに、クライマックスの戦闘の中で、リンボGMが特に注意しているであろうことが2つあります。
・PCのRP(ロールプレイ)プランを崩さないこと。
・アルターエゴ・リンボが倒すべき悪であることを明確に提示しつづけること。
PCのRPプランとは、TRPGシナリオの中で、それぞれのキャラクターがどういう行動をとり、どういうセリフを言おうかという計画や予定です。
TRPGでは、PCたちがシナリオの内容を事前に知ることは多くありません。
大まかなシナリオの雰囲気やシチュエーションを事前に伝えられることはあれど、PLが操るキャラクターたちは、ぶっつけ本番、その場その場で物語の内容を知り、その都度、自分のキャラクターがどういう行動をとるか決めなければなりません。
そのため、それぞれの状況に即したセリフや行動を、即興で考える必要があります。
リンボGMが用意した今回のシナリオ「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」において、PCたちの目的は、大まかにいえば「アルターエゴ・リンボとの決着をつける」ことです。さらに、金時PCにとっては、「戦う理由を見つける」ということも目的となります。
PCたちがその目的にそったRPができるように、リンボGMはこれまで様々なテクニックを使っていました。
シナリオ上の仕込みや、各キャラクターの設定、シチュエーション。変化する状況への対応。
リンボGMのマスタリングが結実するクライマックス戦闘。
それは、金時PCの語りから始まります。
「問うてやりましょうぞ坂田金時!」
戦いは、金時PCが「戦う理由」を語る場面からはじまります。
シナリオを通しての目的の1つであり、大変重要な場面です。
リンボGMは、金時PCの語りが決まる直前、あえてアルターエゴ・リンボとして問いかけます。
「宜しいでしょう。
我こそは羅刹王、新たなる大地獄異聞帯の神なれば」
「我が世界最後の英雄英傑となろう貴方の!」
「世迷い言を!此処で聞き届けて御覧に入れる!」
「問うてやりましょうぞ坂田金時!」
・金時PCが気持ちよくセリフを決めることができるタイミングを作り出すために、あえてラスボスから問いかけさせる。
・アルターエゴ・リンボがセリフを言う間、金時PCの担当PLは、脳内でセリフを反芻する一瞬の間を作り出す。
・問いかけに対する返答という形を作ることで、PLが発話しやすくなる。
あえてラスボスに話させ、間を作り出すことで、PCが気持ちよくセリフを言うための様々な効果を生むことができます。
特に、問いかけに対する返答という形を作ることで発話しやすくさせることなどは、クライマックスのみならず、調査フェイズや、NPCの会話などでもよく使われるテクニックです。
そして、金時PCの決めゼリフを聞いた後、アルターエゴ・リンボはその想いを否定します。
「その決意、その想い……」
「此処で喰い破って差し上げる!」
アルターエゴ・リンボはシナリオ上で倒すべき絶対悪であり、和解の可能性など微塵もないことを、あらためてPLに提示しています。
PCの主張をはねのけ、アルターエゴ・リンボが倒すべき悪であることを丁寧に丁寧に提示していく。
リンボGMが、常にPLのモチベーションに配慮していることがうかがえる好演出と言えるでしょう。
さらにそこからの大具足降臨、草薙の剣の登場は、「空想樹を伐る」ためのフラグがすべてそろったことを、PLは一瞬で理解することでしょう。
草薙の剣が現れての第一声が、アルターエゴ・リンボの「ギャアアアアア!」であることも高ポイントです。
そして戦闘に入るのですが、事ここに至ってもアルターエゴ・リンボは自分の勝利を確信しているセリフを言います。
大きなシナリオには大きなボス。
倒すべき敵が強大であるからこそ、PCも奮い立つ。
倒すべき敵が勝利を確信しているからこそ、こちらも全力であたらなければならない。
リンボGMは、大きな事件を扱うシナリオをGMする時のTIPSを随所で見せてくれます。
このあたりのリンボのセリフはすべて大いに参考になるでしょう。
そして、戦闘は終了。
PCたちカルデアが勝利します。
「情報交換と云うのは如何であろうなァ!?」
敗北し、金時PCが草薙の剣で空想樹に切りかかる直前、アルターエゴ・リンボはPCたちに情報交換を持ちかけます。
これこそが、リンボGMからPLたちへの、「もうこいつ倒していいよ」というメッセージであり、これを聞けばPLは自分たちの勝利を確信します。
いわば、悪い金持ちが「そうだ!金をやる!だから助けてくれ!」と叫んでいるのと同じ効果をもたらすものであり、金時PCがとどめの一撃を放つタイミングを、ここでも作り出しています。
悪は最後まで悪であり、見苦しくあがき、抵抗する。
その姿勢を示すことで、PCたちは何の迷いもなく最後の一撃を放つことができます。
通常の場合はここでクライマックス終了、大団円となりますが、リンボGMはまだ解決しなければならないことがあることを忘れていません。
それは、ここまでアルターエゴ・リンボと幾度も対峙した、カルデアの主人公と段蔵PCです。
「(等と、云いつつ)」
金時と大具足により、空想樹は伐られ、アルターエゴ・リンボは敗北しました。
ですが、これまでのアルターエゴ・リンボとの関係を清算させるため、カルデアの主人公と段蔵に何かしらのアクションをさせなければなりません。
そのために、リンボGMは、アルターエゴ・リンボに負けを認めさせ、そのようなセリフを言わせます。
そして、その裏で最後の切り札を使おうとしているという演出をおこないます。
その際、アルターエゴ・リンボは「(等と、云いつつ)」と心の中で言いながら、まったく死ぬ気がないこともまた明かされます。
おそらく、この「(等と、云いつつ)」まですべてリンボGMはPLたちに伝えたのでしょう。
その際、「(等と、云いつつ)」と言いながら、カルデア主人公PLと段蔵PLの方をチラチラと見ているリンボGMの姿が見えるようです。
この、「敗北後のさらに最後の一撃」は、ともすればセッションがダレてしまうこともありますが、リンボGMは「(等と、云いつつ)」とギャグを混ぜることで空気を壊さず、カルデアの主人公と段蔵PCに止めをささせています。
このあたりの手腕は見事という他ないでしょう。
さすがはリンボGM。
そして、アルターエゴ・リンボは見事爆発四散し、今度こそクライマックスは終了しました。
PCたちのRPプランを崩さず、最後までアルターエゴ・リンボを絶対悪として描き切る。
リンボGMの見事なマスタリングはここに結実しました。
やったぜリンボGM。ありがとうリンボGM。
エンディングフェイズにおいて、カルデアの主人公PCが「久しぶりに。がむしゃらに、頑張れたな」とつぶやいたことは、まさにリンボGMの巧みなマスタリングが生み出したものではないでしょうか。
以上で、「リンボに学ぶ、明日から使えるGMテクニック」は終了となります。
「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」はとてもすばらしい物語であり、あたりまえですがTRPGシナリオではありません。
ですが、そのたくみな物語構成から、学び取ることができるものはとても多いのではないだろうか。
この企画は、そんな想いから始まりました。
次の6章、あるいはイベントも実に楽しみです。
リンボGMが現れることはおそらくもうないと思われますが、また新たなるすばらしい物語が、別の形で生み出されていくことでしょう。
その時を楽しみに。
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