符亀の「喰べたもの」 20210110~20210116

今週インプットしたものをまとめるnote、第十七回です。


漫画

いえめぐり」 ネルノダイスキ

次々と変わった物件へと内見する形式で進む、連作短編集。作者さんは、文化庁メディア芸術祭マンガ部門で新人賞を受賞されている方です。

狂気的なオブジェや内装が高い画力で描かれており、アート的な漫画として面白いです。「取り憑かれたように改装にのめり込んで精神病棟に入院させられた資産家の家」から始まり、「一万年以上生きたクジラの中で寄生虫を殺しながら暮らす家」「木の穴が入口な地下住居」などのリアリティを欠く設定の家も高い画力のおかげで現実感が与えられています。入居希望者のキャラが自分が住みたいかどうかのみで家へのジャッジをする「内見」というフォーマットも、家の変わりっぷりへのツッコミはさせつつもその存在までは否定しないので非現実性を強く意識させず、静かに狂気に飲まれていくような感覚の補助としてうまく働いていると思います。

アート抜きな娯楽作品としてもよくできており、最後の最後でカラーページまで使って全力の狂気をぶつけてくる構成も面白いです。月並みな言葉ですが、オススメです。


ヤンキー君と白杖ガール」(1巻) うおやま

「黒ヒョウのモリ」の名で恐れられるものの優しいヤンキーと、色がボンヤリわかる程度の弱視である少女とのラブコメ。

個人的にラブコメ系4コマはギャグが強めでないと苦手なのですが、これは試し読みして苦手意識を覚えなかったのでとりあえず買ってみました。そして実際に面白かったので、ここで紹介しています。

この作品の特徴として、1つの4コマごとにちゃんと話が進むという点が挙げられます。以前twitterに最適化された画は男女の仲が進展せずにイチャイチャする形になるみたいな分析を紹介しましたが、そこで挙げた「お近づきになりたい宮膳さん」ぐらいに振り切ってくれないと、そういう漫画は苦手なんですよね私。同じ理由で日常系とかも読めないタイプです。

ですが、この作品はほぼ全ての4コマでストーリーが進むため、そういう「結局何の話やったんこれ」的な冷めた感情を覚えにくいのが好印象です。キャラも立っていて「弱視」「ヤンキー」という要素をストーリーでもラブコメ的画作りでも活用しているため、読めば読む程作品への好感度が増す点もポイントが高いですね。全巻買います。


ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~」(1巻) 瀬野反人

ワーウルフ(人狼)やスライムといった異種族と、音声言語だけでなく視覚や嗅覚を使ってコミュニケーションをとろうとし、それについて研究する研究者の物語。

各種族の言語体系をしっかり考察されており、それが人間視点から見て「わからない」ことを面白く感じられるように描けているのが見事です。その「わからない」も、「その場で主人公が解析してわかるもの」「通訳してもらってわかるもの」「師の手記と突き合わせればわかるもの」「答えが明示されないもの」と多様な「わからない」があるのが良く、作品世界の奥深さが感じられます。全巻買います。

あと個人的には、これを「残念博士」とか「おばあちゃんとゲーム」とかの瀬野反人さんが描いてらっしゃったのが一番驚きました。言ってくれたら1巻の時点で買ったわなんでtwitter消したねん売れてるみたいでよかったです。


最近新刊が読めていなかったことに危機感を覚え手を出していなかった作品に挑戦してみましたが、これが大当たりだったので非常に充実した週でした。とりあえず下2作品は既刊全部買います。



一般書籍

経営者の孤独。」 土門蘭

SCRAPやCAMPFIREなど10社の経営者に「孤独」をテーマに行ったインタビュー集。以前とりあげたポプラ社社長へのインタビューは載っていませんが、それと同じ連載です。

成功した経営者という強い人が「孤独」や「寂しさ」といった自分の弱さについて語り、それが自分の中にあることを認めながらもそれを肯定して進む意志を語る。人間賛歌として非常に面白い1冊だったと思います。

そんな観点を抜きにしても、10人の一流の経営者の考えがしっかり読めるだけでもこの本の価値は高いと思います。インタビュアーの土門氏も素晴らしく、「インタビューの前には、相手の方の著書と取材記事になるべくすべて目を通」され、それで浮かんだ疑問や仮設をしっかり言語化してぶつけながらも自分の考えに固執せずちゃんと相手の話を聞く。非常に力のある書き手さんだと思います。ポプラ社社長のインタビュー時は正直邪魔に感じていましたが、筆者がどういう思いで質問しているのかが別部分で書かれているのも、どういう気持ちでその後の会話を読めばいいのかがわかって読みやすかったです。まあそこの背景がグレーで読みにくいのは辛かったですが。

個人的にボードゲーム製作者さんたちへのインタビューをしたいと思っているのですが、その際はこれ…レベルは難しくても、それに準ずるぐらいの準備とクオリティでインタビューしたいものです。


Web記事

20/12/31 ゲートルーラーは「本物」かもしれない

ゲートルーラーの現時点の問題点と、それが「仕方なくそうなっているとしたら」という仮定のもとで今後の拡張性について考察した記事。

この考察が正しいかどうかは不明ですが、「製作者目線からは一番合理的な選択がプレイヤー目線だとバカにしか見えない」というのはよくあることであり、気をつけたいと思います。


『普段の研究は息苦しい。でも対局の現場では…』渡辺明名人が脳研究者に明かしたAIとの距離感とは

渡辺明名人と東大教授で日本の脳研究の第一人者である池谷裕二先生との対談記事が間違いだらけである件

上の記事を面白く読んで、これは今週紹介する記事にするかもしれんなと思っていたらボコボコにされていたでござるの巻。ネットリテラシーは大事。

なお、後日(下の記事が出た翌日)に修正が入ったようです。


今週も、新作のアートワークに尽力していたのと単純にやる気が出なかったのとでインプット量は多くありませんでしたが、質はかなり高かったのではないかと思います。新作のアートも結構いい感じ(今日のテストも好評)だったので、どうぞご期待ください。

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