符亀の「喰べたもの」 20220213~20220219

今週インプットしたものをまとめるnote、第七十四回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

推しの子」(7巻) 赤坂アカ×横槍メンゴ

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推しの子に転生した兄妹が、それぞれの目的を胸に芸能界に挑む物語。第六十二回以来の紹介です。

この巻前半の、各キャラの見せ場が次のキャラのエピソードに対するフリになっている構成が本当に見事です。「兼ねる」ことで作品の密度を上げるだけでなく、それぞれのエピソードにつながりが生まれてぶつ切れな印象を持たれにくい、各話の立ち位置がガイドラインとなって話の筋がわかりやすいと、多様な課題をワンアイデアで解決しています。

さらに後半、妹側が主役になるエピソードが始まろうかというところの巻末で、そのキャラがこちらに話しかけてくるような画作りをしているところも上手いと思いました。兄側が主役の前エピソードがかなり長かった分、影が薄くなっていた妹キャラを強く印象付け、主役の座を取り返したのを意識させる演出としてよく利いています。


リボンと棘 高江洲弥作品集」高江洲弥

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ひつじがいっぴき」「先生、今月どうですか」などの作者、高江洲弥さんの短編集です。

性癖の煮凝りという感じの作品が多く、これらの半分の初出であるハルタの懐の深さを思い知らされました。個人的に作者さんは私と似た性癖の持ち主だと思っていたのですが、いや、貴方と比肩できるなどとおこがましい考えを抱いておりましたこと誠に申し訳ございませんでした。

作品としては、近年(2019年)発表の「洋裁店の蝶」「タートルネックと先生と」の2本、および性癖が近かった「ある日森の中」が好みでした。「ある日森の中」は設定もロリータの主人公の行動も狂っているのに、パーカーの女の子のリアクションとそれに対する主人公の劣情が共感を呼ぶという一点で物語が崩壊しないように保たれているのに凄まじさを感じました。(だからこそオチで物語が壊れて終わらざるをえなくなった感があるのは、欠点かもしれませんが。)「タートルネックと先生と」も、結婚への障害として一般的に連想される連れ子の女の子の役割を変えることなく設定を飛躍させ、読者が混乱しにくいようにしている点が上手いと思いました。

最後に少し余談を。私の好みのモチーフの一つにマネキンのような「血の出ない生首」があるのですが、帯の既刊一覧からこの方の初連載が「首花は咲きゆく」という生首ものなことを知り、やっぱ性癖いっしょじゃねえかという思いを強くいたしました。


ブシギャル」平田将

自分らしくギャルとして生きる女城主を描いた読み切りです。

画面の白と黒の使い方が上手いと思いました。ギャルのガングロ、線の書き込みが細かくも白地が目立つ鎧、白主体の着物と、キャラの服装が明暗から描き分けられていて画面のコントラストが映えています。山場を闇の中での戦闘とし、黒背景によって白い2人を目立たせているのも見事でした。


人はバットで殴られると死ぬ」 吉村健太郎

キツい。

オチを冒頭に持ってくるのはよく使われる手法ですが、その分最後にオチを描かないことで余韻を残す手法には感心しました。あとストーリーがキッツい。


今週はそれ以外に時間を割いたため、漫画のインプットは少な目でした。ですが久々にWeb漫画のインプットがちゃんと書けたのは、良かったのではと思います。


一般書籍

知ってるつもり」 西林克彦

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「知ってるつもり」止まりの知識がなぜ問題なのか、知識を役立てるためにはどうすればいいのかを説いた新書です。書影は、光文社のWebページより引用しました。

「共通性」と「個別特性」という、システム化されて利用可能な知識の学び方として挙げられた2つのキーワードがわかりやすく、勉強になりました。終盤には与えられた知識の整理法だけでなく能動的に知識を得る方法も解説されており、それも納得がいくものでした。

一方、文章面では気になるところもありました。この本はよくある詰め込み式で系統だっていない知識に警鐘を鳴らす本ですが、それゆえに読者の持つこれまでの知識に対しても、言ってしまえば不十分だと批判する形になっています。「取材・執筆・推敲 書く人の教科書」では、「違った意見の持ち主を、ことばで説き伏せる」ような「説得」をする文章に対し、問題提起がなされています。本書はその「説得」の文である印象が強いうえに、読者が攻撃されているような感覚をも抱きやすいように感じます。特に、中盤まで「どうやってシステム化した知識を得るのか」の話が出てこず、ただ筆者が「システム化できるとこういう知識が得られます」「するとこういう疑問がわいてくるのでさらに知識が得られます」と方法をわかってからの話ばかりするために、「愚かな読者と賢い筆者」という構図すら感じてしまいます。

また、本書は詰め込み式の独立した知識を生む教育についても批判しているのですが、そこにも問題があると思いました。この本の第2章では、目的や形状が異なる磁石について大学生と議論し、彼らがその間に一貫した性質を見出していなかった(N極が北を指す磁石と刺さない磁石があると考えていたなど)という例を挙げています。ここで面白いのが、この事例の前後(1、3、4章)に挙げられている事例では該当する単元の教科書について記述の不十分さを述べているにも関わらず、この例に関してのみ教科書への言及がないことです。実は、ここで大学生がよくわかっていなかった性質の約半分、例えば方位磁針が別の磁石の影響を受けることについては、小学校の理科の教科書に載っています。うがった見方をすれば、筆者は独立した知識を生む教育への批判という自身の主張に合わない部分でのみ教科書の記述を示さないという、アンフェアな書き方をしています。なお、ここの不公平さに気づいたのは筆者の提唱する「共通性」を持ち出したためとも言え、ある意味自らが「共通性」を考えることの重要性を示したともとれるかもしれません。

このように書き方の面では問題があるようにも感じましたが、考え方をキーワードにより言語化してくれたのは、それを指針とするのにとても役立ちます。読む価値があった本だということは間違いありません。


Web記事

メタバースとWeb3は、何者でどこに向かうのか?

ゲームディレクターのかえるDさんが、最近話題の2つのワードについて解説されたnoteです。

メタバースについては概ね知っていた通りでしたが、Web3は名前すら聞いたことがなかったため、勉強になりました。


誰も手をつけたがらない仕事を拾う親切心とその危うさ

放置されている軽微な仕事を引き受けることの功罪について述べられた記事です。

「シャドウ・ワーク」「ケアの倫理」(ケア活動の)「四つの局面」といった用語により、これが広く問題視されている(されるべき)課題であると感じやすくなっています。名前をつけることの強さを感じます。


The 10th KAC DDR女性部門 決勝ラウンド (22/2/11)

KACというKONAMI音ゲーの日本一を決める大会のDDR女性部門で優勝されたプレイヤーの、体験記です。

真剣かつ勝つために音ゲーをされている方の考えを読むのは初めてであり、それだけで勉強になりました。文章としては、選曲理由の書き方が上手いと思いました。最初にウォーミングアップに用いた曲の選曲理由を書かれていますが、これは個人的な理由としての部分も大きく、レポート記事としても自然です。これが最初に来たからこそ、その後の対戦相手の得意不得意を考えて選曲した課題曲の理由についても、ガチすぎるとかストイックすぎるといった印象を持ちにくくなっているのかと思いました。


古畑任三郎:堺正章『動く死体』

古畑任三郎」第1シーズン第2話「動く死体」についてのブログです。

私が本作第1シーズンで最も好きな話について、良さを的確に言語化され、かつその当て書き(演じる役者に合わせて脚本を書くこと)性について論じられた、名文です。


感情を無視した『課題解決』では、顧客の心は動かない。コト消費の時代における体験デザイン #CXDIVE 2019 AKI

上記ブログを書かれた「わかる事務所」について調べていた際に見つけた、CX(顧客体験)に対する鼎談のレポートです。

中盤の「過去の自分も抱えていた課題を解消しようと」する姿勢や、右肩上がりでなく「感情の浮き沈み」まで考えたカスタマージャーニーなど、学びの多い記事でした。


上でも挙げた通り、今週は田村正和さん追悼のために一挙放送された「古畑任三郎」を見始め、ハマった週でした。まだ第1シーズン全12話と第2シーズン1話目(明石家さんま回)しか見られていませんが、とても面白いです。些細なシーンでも犯人と古畑との対決で致命的な一打になりえるため、それを見逃さないように集中してドラマを見る気になるのが面白さの要因の一つかと思っています。全話見終わったら、またそのあたりを考えたいですね。

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