符亀の「喰べたもの」 20220306~20220312
今週インプットしたものをまとめるnote、第七十七回です。
各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。
漫画
「つばめゴンドリエーレ」 及川滲
後輩をかばい上司と揉めて東京から離島に帰ってきた元OLと、その島に流れ着いたヤクザとの物語。
面白かったです。単巻完結できれいにまとまっており、絵が上手くてコマ割りも上手い。ストレスなく読みやすい作品で、初連載とは思えない漫画力を感じました。というか、1話1話でやっていることはかなり王道なのに、話ごとに軸を変えながらも全体的なまとまりを保って読みやすさと画力で殴りつつさわやかな読後感で〆る作品という語りにくいタイプの良作のため筆が全然進まないのだわこれが。
なので各話の良さを分析するのは諦め、つかみの上手さと、この作品全体のまとまりの良さについて考察しようかと思います。まずつかみ、つまり1話についてですが、メインキャラ2人のキャラの描写が見事だと感じました。2人は「東京から離島に流れ着いた者」という意味で共通した2人であり、片方の説明がもう片方にも通じる点で説明描写を圧縮できます。そしてこのうち、ヤクザの男は「やさしいヤクザ」という属性についての説明が多く、本作を差別化し話を動かすための設定面を担っています。一方元OLの主人公は、設定は上記の共通性を示す程度にしか使われない一方で、ヤクザに世話を焼きつつもその行動が独特であり、個人的な性格が丁寧に描写されているように感じました。このように似た2人の違う面、片方は肩書的な設定でもう片方は性格面、を描くことで、同じような説明シーンを省きつつキャラの情報を多く伝えて愛着を持ちやすくしているのではないかと思いました。
次に本作のまとまりのよさですが、「はぐれ鳥と止まり木」「ツバメと巣」といったキーワードがテーマとなっており、かつそれを作中のセリフで示しているのが1つの理由なのかと思います。このモチーフを何度か提示されることで「その話」として印象づけられ、まとまった話だと感じやすいのかと思いました。正直、ここまで各話で話の軸(仕事モノ、キャラ説明、ヤクザと刑事のやり取りなど)が異なるとは読み返すまで思っておらず、とっ散らかった印象を受けずに読めたのに驚きました。
隠された匠の技的なうまさが光る漫画であり、読みかえすほどに勉強になる作品に思えます。
「極主夫道」(9巻) おおのこうすけ
元最凶のヤクザが、専業主夫として活躍する任侠コメディです。たぶん4巻ぐらいから積んでる(5巻に至っては購入すらしてないっぽい)のですが、まあ飛ばしてもいけるだろと最新刊を読んでしまいました。あと映画化おめでとうございます。
「元ヤクザがすごい主夫やってる」というネタだけで9巻引っ張ってきた作品ですが、マンネリ防止のための工夫が結構見られて面白かったです。話によって主人公の立ち位置を任侠ネタを持ちネタとするメインボケと主夫力でボケを足す進行役兼リアクション役とで変化させ、作品のテーマは保ちながら一本調子になりすぎないようにしています。各話のオチが弱めなのも、キャラも絵面も濃い本作で胃もたれしないよう、意識的にゆるくしているのだと思います。Web連載的にも物足りずにもっと読んでもらったほうが嬉しいですし。
にしても、まさかヤクザものが2本続くとは思いませんでした。
「裸一貫!つづ井さん」(4巻) つづ井
オタクで腐女子(1話より引用)な作者とオタクで腐女子(1話より引用)な友人4人が楽しむ様子を描いたコミックエッセイ。第三十三回以来の登場です。
改めて読むと、「転」が多い漫画だなと感じました。「それはさておき」「ところで」的な展開が頻出し、それによって情報密度と狂気が増されて面白くなっています。その「転」ですが、ヤバい友達の謎行動に振り回されるという形で出てくることが多く、本作はそこがテーマなところもあるため、急に謎なオモシロがぶっこまれても読者としてストレスを感じにくいです。それをバカにしたり「かわいそうな私」的に描くのではなく、「頭おかしい作者と頭おかしい仲間たち(褒め言葉)」というテイストで描いているのも、「振り回されている」表現に嫌味さを感じない理由かと思います。
「振り回される」のが自然になるようにして急展開を許容させ、オモシロの密度を高める手法は、意外と汎用性が高そうですね。
「自販機と指」 さめこ
自販機の中の指と、2人の少女とを描いた4ページギャグ漫画です。
むちゃくちゃテンポがいいのですが、少女の1人が落ち着いたキャラなおかげか空回りはしていないのが面白いです。それでいてむしろ落ち着いているほうがボケなのも笑えますし、活発そうな方のツッコミがずれていても納得感があるため多少強引な展開でも流せてしまうのも強いなと感じました。
「つばめゴンドリエーレ」のような上手すぎて上手さがわかりにくい系の作品は分析も難しいのですが、なんとか良さを言語化できたのは良かったと思います。こうやっていいインプットを続けたいですね。
一般書籍
ハードカバーを半分ぐらい読めました。
Web記事
「『テラフォーミング・マーズ』の感想」
「『アーク・ノヴァ』の感想」
上記ゲームについて、良い点悪い点を個人の見解として書かれたnoteです。
「〇〇な点がしんどく感じた」というのはいろんな意味で言及を避けがちですが、これらのnoteではしっかりと記載していただいており、内容も納得できるもので勉強になります。「アーク・ノヴァ」の方はプレイしていなくても読めるほどシステムの説明がわかりやすく、他のゲームについてのnoteも読みつつ、システムの説明の仕方についても学びたいところです。
「見よう!西洋絵画」
西洋絵画で人気のモチーフについての解説シリーズ(全10話)です。
1話で「Q.どんな場面が人気なの?A.エッチなやつ」と言い切ってしまい、ここから紹介するエピソードをそういう文脈(エッチなやつ)に位置付ければいいのかわかりやすくしているのがいいですね。その後の解説も、そのおかげもあってかわかりやすいです。
「ラヴィット!」の好調の理由を、MCである麒麟川島さんの「大喜利力」「なめられ力」「仕切り力」という三つの力によって説明した記事です。
「なめられ力」というフォローへの信頼感を表した言葉が、興味深いと思いました。残念ながらその具体的な内容やそれを鍛える方法については詳しく書かれていませんが、覚えておきたい概念だと思います。
実話ホラー風の創作怪談をされる雨穴さんの最新作です。
クローゼットから発見されたとされる人形やその中に入っていた機械がキレイすぎてリアリティが薄く、正直最初はのめりこめませんでした。しかし、中盤の時系列の矛盾が解かれたところ、「正しいストーリー」が提示されたところで、「真実」に迫っている感じを受けて一気に作品の世界に入ってしまいました。このように「実はこうだった」と示せば(そしてそれに説得力があれば)作品にのめりこみやすくなるというのは、テクニックとして使えそうです。
宣伝枠です。
新作のカード画像を1日1枚毎日twitterで紹介するとかいう地味にめんどくさい企画をやっているので、是非見てください。投稿忘れて抜けができたら終わりの企画なので、正直結構ビクビクしてます。
今週は、FGOのイベントであるキャラが活躍し、twitterが大盛り上がりした週でもありました。こういう人気ゲームの時限式で解放されるストーリーはみんながよかったポイントをつぶやいてくれるので自分でよかった探ししなくて済むから楽ですね。この連載的に最悪の発言だな!
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