「TENETテネット」(2020・英/米)
ネタバレないと思います。一般公開されている公式HPや予告編などで得られない情報は書いてないはず。
「TENETテネット」のあらすじ
ウクライナ、キエフ。テロリストが襲撃した国立オペラ劇場で、ある機関に所属する男(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、仲間の諜報員を脱出させる任務を実行。そのミッション中に彼は「弾痕が消える」様子を目撃した。その後、敵に捕らえられ、拷問にされるはめに。しかし隙を見て自殺ピルを飲み込むけれど、ただの睡眠導入剤だったらしく、気づけば救出されてベッドの上にいた。実は彼の口の固さを確かめたテストだったのだ。そして連れてこられた研究所で彼は、普通では考えられない現象を見せられる。手のひらをかざすと、テーブルにあった弾丸が手に飛びつく。弾倉に弾が空っぽな銃を的に向かって撃つと、刺さっていた弾丸が銃口に吸い込まれていく。順行する時間の中で、一部だけが逆行していた。
その不思議な弾丸の出どころを調査するため、案内人ニール(ロバート・パティンソン)をパートナーにつけた彼は、インド・ムンバイの武器商人の屋敷に侵入。黒幕だったその妻・プリヤ(ディンプル・カパディア)から情報を得て、ロンドンに住むクロズビー卿(マイケル・ケイン)の元へ赴いた。老人いわく、セイター(ケネス・ブラナー)というロシアの富豪が、その鍵を握っている、ということ。彼は、贋作と知っているにも関わらず、ゴヤの高価な絵画を、セキュリティ厳重な貸金庫に所有し続けていた。その事実を利用すると良い、とアドバイスをもらう。そしてセイターの妻、キャット(エリザベス・デビッキ)に接触を始める・・。
監督・キャスト
監督:クリストファー・ノーラン
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナー、マイケル・ケイン、ディンプル・カパディア
公開初日
新作が公開されないので、映画館はこれまで、クリストファー・ノーラン監督の過去作をIMAX上映していた。僕は「インセプション」「インターステラー」「ダンケルク」を観に行った。そしたら、そのたびに、予告編として、「TENET」の冒頭6分のシーンをまるっと本編の前に流していたのだった。
いつも導線に面したの端っこの席にしているから、予告編を観なくても、本編が始まる頃にこっそり着席すればいいようにしているんだけど、でもIMAXの場合、オープニングロゴの映像が観たいので、どうしても最初から座っちゃうんだよな。「IMAXの映像技術は、あなたを未知の世界へ連れていきます」みたいなナレーションとともに、お花畑の画面が、ずうっ、と広がって、スクリーンに吸い込まれていく感覚になるやつ。そして、ボクシングとか宇宙船の船外活動とか、「インディジョーンズ」みたいな洞窟中に広がる魔宮とか、「プライベートライアン」みたいな臨場感のある戦争シーンがあるやつだ。
だからつまり、本作の冒頭シーンをとにかく何度も刷り込まれたわけだ。しかもIMAXのクオリティで。そんなことをされてしまうと、やっぱりどうしたって気になってしまうもので、公開が近くなればなるほど、いてもたってもいられなくなってきた。そして、いつの間にか席を予約。「アベンジャーズ・エンドゲーム」ぶりに、公開初日に鑑賞することになった。
ケネス・ブラナー?ハンス・ジマー?
観ている最中の最初の驚きは、「あれ、ケネス・ブラナーがいる」というものだった。ロバート・パティンソンやマイケル・ケイン以外、あまり知った顔がいない、という事前の印象だったんだけれど、普通にいるじゃないか、大御所。しかもものすごく重要な役で。もしかして、予告編だと、巧妙に隠されていた?でも、いま改めて予告編を見直してみたら、ケネス・ブラナー、きちんと出てるんだよな・・。おかしいな、見た覚えないんだよな。まさか・・なにか・・オレが時間を逆行しているんだろうか?
それにしても、マイケル・ケインのノーラン監督映画の常連ぶりは、もはやこれは癒着、忖度、なんだろう、なんか脅迫されてるんじゃないの。
次に、観ていくうちに、じわじわっと不思議な違和感を感じ始めた。映像は、いつもの実写至上主義のそれなんだけど、でもなぜだか、どうも印象が違う。観賞後にWIKIを調べてびっくりした。そうか、今回の音楽、ハンス・ジマーじゃなかったのだ。決して旋律的ではない、不協和音も辞さない態度で、とにかく骨太、というのがハンス・ジマー。そして今回の音楽も、それに近い要素はあったけれど、途中からなんだか電子音に囲まれるようになった。あれ、ハンス・ジマーって、ノーランと同じように、生音主義じゃなかったっけ、マイルス・デイヴィスみたいに、時代に合わせて進化し続けるなあ、と思ってたら、そもそも別人だったのかよ。
ノーラン監督の女性観
エリザベス・デビッキが、とにかくでかい。どうやら身長が190cmあるらしい。ここで、同じように190cmの有名人を引き合いに出したかったんだけれど、調べてみたところ出てきたのが、「アントニオ猪木」だった。猪木って、もちろんレスラーだからでかいんだろうけどさ、でもジャイアント馬場とコンビで思い出しがちなので、なんとなくイメージが「ちっちゃい方」なんだよな、困った。
ノーランって、とにかくスパイ映画しか見ないで育っちゃったんだろうな、と思わせられる。というのも、彼の映画に出てくる女性たちってつくづく、ボンドガール的に意味不明な行動が多いのだ。「メメント」のキャリー=アン・モス、「インセプション」のマリオン・コティヤール、「ダークナイト」や「インターステラー」のアン・ハサウェイ、全員、裏切るのか?裏切らないのか?というところをふわふわとただよい、見ている側としては、えっ、そこでそんなことするの、と思わせられ、「展開」には貢献してはいるけれど、決して生身の人間には見えないようだ。男のキャラクターだと、なぜだか納得する肉感があるのに。僕が男だからだろうか。
なぜ延期する?
待ちに待ったハリウッド超大作の封切り。しかし、映画を延期する理由が、はっきりと伝わっていない気がする。「コロナのせいで」と言うんだけれど、コロナのせいで、何ができないから、なんだろうか?
別に、制作が遅れてるわけじゃないんだと思う。だって本作をはじめ、「007」の新作、「ムーラン」実写版など、ぜんぶ公開日付が前々から決まってたんだから。じゃあ「映画館の安全対策」だろうか?でも映画館ってさ、人々が同じ方向を向いて微動だにしないし、ぺちゃくちゃ喋ることもないし、あらゆる体験型娯楽の中で、最も感染リスクが少ない種類だと思うんだよな。(日本に限るかものかもしれないけど。)
さいきんの方が映画館に行く頻度が増えたんだけど、どこに行っても、清潔だし換気も良いし、決められた入口から入った大人しい観客たちが、決められた出口から大人しく出ていく。伊勢丹とか、大江戸線とか、代々木公園とか、マクドナルドとかの方がよっぽどリスクはあるのではないか。決してそれらの施設に非があるわけじゃなくて、人間の行動の話。
公開遅延の理由。たぶん、僕が思うに、こういうことだと思うのだ。
僕たちのような「映画ファン」だけが、映画館に行ったところで、ぜんぜん儲からない、わけだ。映画が趣味の人って(日本だと)もともと全体の1%くらいという実感。だから、その他99%を、なんとか騙して映画館に連れて行くために、いろいろな大人たちが、あらゆるメディアミックスを駆使して、無関心層を煽動するような「お祭り」をしてあげて、ようやく大きな利益がでる、という構造なんだと思う。しかもそれは、公開初日から2週間くらいが勝負なのじゃないかな。
しかし、今の状況だと、そんな風に、あらゆる業界を同じように動かせる体力がないから、とりあえず先延ばし先延ばしにするしかない。商売なんだから、しょうがないよね。つらいところである。
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