【DAY 12】好きなジャンルの苦手な映画 「新感染 ファイナル・エクスプレス」
DAY 12
a film that you hate from your favourite genre.
好きなジャンルの苦手な映画
「新感染 ファイナル・エクスプレス」(2016)
ヨン・サンホ監督
コン・ユ、マ・ドンソク、チョン・ユミ、チェ・ウシク、アン・ソヒ
ソグ(コン・ユ)は、別居中の妻に会うために、小さな娘を連れてソウルから釜山行きの高速鉄道に乗る。その列車には、発車直前に飛び乗ったが、そのまま通路にうずくまってしまった女性がいた。介抱しようとした乗務員は、急遽凶暴化した彼女に襲われて同じように凶暴化、そして列車内に次々に感染者が増え、阿鼻叫喚の状況に。当初は自分たちだけが助かろうと画策するソグだったが、逃げるうちに娘と別々の車両にはぐれてしまった。同様にパートナーとはぐれてしまった、無骨なサンファ(マ・ドンソン)、野球部のヨングク(チェ・ウシク)と共に、感染者で溢れる車両を突っ切って救助に向かう。
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僕は、ゾンビ映画だけではなくて、近年の韓国映画も好きだ。日本のメロドラマの焼き直しばかりだった時代を経て、作家性が強い作品に製作費が回されるようになってきたのか、韓国特有の空気感を持った映画が増えてきた。監督軸で分類する場合、ポン・ジュノ、パク・チャヌク、キム・ギドク、パク・フンジョン、ナ・ホンジン、あたりを信用している。
この人たちの映画に共通して言えるのは、「生々しい暴力性」と「シュールな笑い」とか、「美しい純愛」と「卑劣な性表現」のような、二律背反が1作の中に存在するということ。そして、なんでこのタイミングでこんな展開にしちゃうんだろう、という説明のない裏切りがあること。そして、日本人の僕らにとっては、人物も風景も馴染みのあるビジュアルなのに、微妙に食い違う文化や価値観が垣間見えたとき、はらはらする違和感を感じることができるということ。
そんな韓国発の「電車の密室」×「ゾンビ」。これはつまり、「スノーピアサー」(2013)と「渇き」(2009)のいいとこ取りじゃないか、予告編もいい感じだし超たのしみ。公開前、そんなふうに思って、ハードルが上がりまくっていたのだ。
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前半部分は、「予兆」をだらだらと描き、けっこう焦らされたものの、最初の感染者(これシム・ウンギョンだったんだ。彼女は日本映画の「新聞記者」(2019)に出演し、今年の日本アカデミー賞で主演女優賞を獲得した)のゾンビの所作を見てひと安心。美人の客室乗務員(ウ・ドイム)のゾンビ化したあとの180度吹っ切れた演技も素晴らしかった。
「28日後...」のときにもちらっと紹介したように、彼らは走るタイプのゾンビだし、しかも感染までのスピードがかなり速い。なので、次々に増殖し、かなりの大群が面で押してきて、もはや人の洪水になる。CGがハリウッド並なのか、それとも命知らずのスタントマンだらけなのか、ガラスの壁をゾンビの群れが「はらみでる」という映像はなかなか見れない。
また、たぶんヘリコプターの離陸直前に奴らが群らがったのであろう、ブライダルカーに結ばれた空き缶のように、飛んでるヘリに凧のしっぽのごとくしがみついている感染者たちには笑った。当然ずっと捕まってはいられなくて、ときどき落ちてくるのだ。それを素人がスマホで撮ったていの映像にしたのも、新しい表現。
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ただ、結局は人間同士のいざこざを描きたいわけだ。バス会社の役員であるヨンソク(キム・ウィソン)という悪役が出てくるんだけれど、こいつがとんでもなく悪いやつで、つねに自己保身しか考えておらず、そのためには周りを煽動するし他人を平気で犠牲にするのが、あんまり戯画的じゃなくて真に迫るところがあって、胸糞悪い。また、なんだか意地悪な顔をした老姉妹が列車内ではぐれてしまい、片方が感染者のいる車両に取り残されてしまったというエピソード、結果として扉を開けるための伏線なんだけれど、この絆が少々気味が悪い。主役側の登場人物たちがひとりひとり感染していくくだりも、なんだか真面目に仰々しくやりすぎで、居心地が悪いのだ。
そういった嫌悪感のおかげで、僕としては面白映像を心の底から楽しめなかった。もうちょっとふざけていればよかったのに。でも、よく考えると、ゾンビ映画と韓国映画って、どちらもそういう人間のエゴとか社会の醜さみたいな、そういうのを描くのが大好物なんだよな、そこが一致団結してしまうなんて、すっかり油断していた。
あと、主演のコン・ユが、不感症なヒーローをクールに演じるんだけれど、その妙にきれいな商業的な作り物感、どうも「踊る大捜査線」を観せられているような気分になった。
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ただ、続編が出来上がったのだけど、これがまた「面白そうだ!」と思ってしまったんだよな・・。これだけ悪口を言ったくせに、結局どうせ真っ先に観てしまうと思う。
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