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shape of エピローグ
「そろそろ行くぞー」
ロッカールームに鳴り響いたキャプテンの声で現実に引き戻される。ページの端をぎゅっと握り締めてから、ゆっくりと瞼を開いた。途端、『ジャパンの新エース誕生か?』という文字が視界に飛び込んでくる。大仰な言い方だな。心の中でつぶやいて、嘲るように小さく笑った。改めて、雑誌を少し遠ざけて俯瞰する。見開きページの右側にはシュートを放った後の自分の写真と、大見出しに書かれた文句の続きに
shape of 象ることのできない夢
音を出さないようにハンドリムを回して、庭につながる窓辺に車椅子を止める。リビングの中央とは違って少し肌寒いものの、正午に近い時間だからか陽射しのぬくもりが感じられた。窓の外に視線を下ろすと、小さなサッカーコートがそこにはあった。まだサッカーを始めたばかりの頃、俺たちのために父が作ってくれたものだ。切り揃えられた芝生、何度も書き直された白線、ゴールがわりのキックターゲット。芝が青々と風に揺れて、隅
もっとみるshape of 透き通る想い
ばかみたいだ。
リビングの床に横向けで倒れて泣いている兄を見ながらそう思った。近くに転がっている車椅子が、そう思ってはいけない、とでも言うようにフレームを鈍く光らせる。ハッとして駆け寄り、僕はもう何度目かになる台詞を吐いた。
「大丈夫?」
右腕で顔を覆いながら泣いている兄に返事ができるわけがなかった。殺した嗚咽が震えとなって肩を揺らす。倒れた拍子にはだけたのだろう、露になった背中には紫
shape of プロローグ
一昨年三月、横浜サッカースタジアムで行われたJリーグ第三試合。FC横浜対ソレイユ長崎戦は、前半三十分2対2と膠着状態が続いていた。横浜が先制点を奪うも、すぐさま一点を返され、点を取ってはまた返されといっこうに点差を広げられずにいた。そんな緊迫した状況の中、均衡を破ったのは途中出場でピッチに上がった一人の新人選手だった。
パスを呼び込んでからの華麗なドリブル、極めつけに豪快なシュートを放って、