国債は国民の借金なのか、資産なのか

政府が国債でお金を調達して、現金給付などに使った場合、政府からお金をもらった人に物やサービスを売った人が、政府への貸し手になります。詳細は以下のノートに書いた通りです。

なので、国債は借金です。この借金は誰が返すことになるのでしょうか。

まず、政府が国債返済のために税を賦課する場合は、税賦課の対象になった人が国債返済の負担を負うことになります。この場合はシンプルです。

もし政府が国債を返済せず、借り続けた場合は二つの可能性があります。

一つは、インフレです。政府からお金をもらった人に物やサービスを売った人は、受け取ったお金をいつか使うので、物やサービスに支払われるお金の量も増えることになります。このお金の量が十分に大きいと、物の値段が上がります。この場合、物の値段が上がったときに現金・預金を持っている人は、自分のお金で買える物の量が少なくなるので、損をすることになります。また、物の値段が上がっても、年金や家賃はすぐには変えられないので、年金をもらっている高齢者や家賃収入を得ている大家も損をすることになります。このような損は、国債の発行がなければ起きなかったことですから、これらの損が国債返済の負担と同じになります。これらの人の損で誰が得をしたかというと、それは政府からお金をもらった人です。

政府が国債を返済せず、借り続けた場合におこるもう一つの可能性は、インフレがおこらずに、最初に政府からお金をもらった人から、その人に物やサービスを売った人へ、また次の人に物やサービスを売った人へと、お金が人々の間を転々とすることです。このケースが発生するのは、買い手がお金を持つことで物やサービスが売れるようになり、お金の供給に合わせて物やサービスの供給量が増える場合です。経済学理論上でこういうことが起きるのは、お金が不足しているために経済活動が停滞している場合です。この場合、国債を発行してお金を配ったために経済活動が活発になる分の得(いわゆるシニョレッジ)が、最初に政府からお金をもらった人に配られ、その他の人は損も得もしないということになります。

最後の場合は、誰も損をしないので、どんどん政府は国債を発行して、お金を国民に配ればいいと感じるかもしれませんが、お金を出し続ければやがてお金の不足はなくなります。なので、シニョレッジにも限りがあります。であれば、限りあるシニョレッジを、子供の教育や科学技術への投資、困窮家計の救済など、賢く使った方が国の力は大きくなります。なので、インフレが起きなければ国債を発行してお金を配っても何のコストもかからないということはなく、お金を他の目的に使った場合の便益がコスト(機会費用)になります。

以上のように、国債発行には必ずなんらかの費用が発生します。なので、国債が借金か、資産かという問いは大雑把すぎます。国債で調達したお金を無駄に使ってしまうと、税かインフレにより誰かの負担になるか、もしくは有用なお金を使い方をすれば便益を受けられた人(国民全体)の損になります。