未来の液体燃料 木質バイオマス-バイオエタノールCycle カーボンサイクルテクノロジー(10)
(樹木の大規模植林によって固定された二酸化炭素)ー(植林に投入されたエネルギーが排出する二酸化炭素)=NET CO2固定 > ZEROとなれば大気中の二酸化炭素を減らすことが出来る。欧米やオセアニアでは、排出量削減のため、第三国で大規模植林を行い、排出量取引の手段に使おうという考え方がある。二酸化炭素量を相殺するため、この取り組みをカーボンオフセット、貨幣価値を産むため取引単位のことを、カーボンクレジットなどと呼んでいる。従って、大規模植林事業やそういった森林の所有が投資の対象となっている。私は西オーストラリアでまさにグリーンバブルともいうべき、ユーカリ植林ブームを目の当たりにした。しかしながら、投資に見合うだけの成長量を示さなかったために、この投資は破綻するという結末だった。経済的インセンティブが働かなければ、持続的な営みとならないのは極めて残念な思いがする。
ならばと、木質バイオマス植林を試みた。早生樹ユーカリを作物のように数年の超短伐期で収穫し、バイオエタノールに変換しようという試みである。エネルギーとして排出される二酸化炭素は、再度森林に固定されるためカーボンニュートラルなどとも呼ばれる。
ユーカリを丸ごとインフィールドでチップ化し、セルロースやヘミセルロースなどの多糖類を酸やセルラーゼなどで加水分解してグルコースやキシロースなどの単糖にする。あとは酒作りと同じく酵母の働きでアルコールに変換するのだ。キシロースは5単糖であるため、これを資化する酵母を育種したり、酸とアルコールを分離する技術を開発したり、高価なセルラーゼを回収したり、それは様々な研究開発が講じられた。出来上がったバイオエタノールを10%程度ガソリンと混ぜるE10が米国(トウモロコシが原料)やブラジル(サトウキビが原料)で普及したことから、わが国も色めきだって研究投資したものだ。しかしながら、当時はガソリンという化石燃料の価格を打ち破ることはかなわず、今やバイオエタノール車を開発しようというカーメーカーは無くなってしまった。そもそも、トウモロコシやサトウキビは食糧であり、森林を伐り開いてまで栽培することは懐疑的な取り組みである。ガソリンは持続可能な資源ではあり得ないし、食糧をエネルギーに変換することはあり得ないとすれば、未来の液体燃料は木質バイオマス由来のバイオエタノールになると期待される。
要は、大規模植林が経済的なインセンティブが働くような仕組みにすれば、植林という究極のカーボンサイクルテクノロジーが進みだすのかもしれないが、現状そうはなっていない以上、森林の価値を最大限に高める議論や取り組みを、私は日本の飛騨高山で検証していきたいと思っている。