すい臓がんの告知～③

主治医の先生が、年明けに国立がんセンター東病院の予約を取って下さいました。

『年明け2020年1月6日（月）の朝10時、
今から作る紹介状とデータを持って、国立がん研究センター東病院の受付へ行って下さい。』

色々冊子ももらいました。

“癌宣告をされた方へ”
“癌宣告をされたご家族へ”

と書かれたパンフレット2冊です。

照れや恥ずかしさ”など無く、夫婦で手をつないで部屋から出ました。

(こんな事…付き合い始め以来かな…。)


妻はいったん帰宅します。

この日は子供達を友達の家に預けて病院へ来てくれていましたので、そのお迎えでした。

一人でベッドに戻り、退院の準備をします。
荷物を片付け、着ていたパジャマから昨日着ていた私服へ着替えます。

「そう言えば今日は歯磨きしてなかった。」
歯磨きもしました。

一人でベッドに座り込み、何をしたらいいのか分からない時間が過ぎました。
会社には電話をしました。

「やっぱり癌でした。すみません。…」
みたいな感じだったと思います。

とにかく朝からずっと、何か放心状態で
“あぁもうすぐ死ぬんだ。あまりにも突然だな”
とばかり考えていました。



この日は年末最後だったこともあり、周りのベッドにいた方たちも退院の準備をしています。

看護師さんに
『お世話になりました。もう大丈夫になりました。ありがとうございました!!』
とか
『よいお年をお迎え下さい。』
という会話が交わされています。

私にはそれが、何か外国語のように聞こえました。


しばらくして担当して下さった看護師さんがベッドへ。

『先生から、国立がんセンターに行ってすぐ治療に入れる様、体が“全身麻酔”に耐えれるかの検査をして欲しいという事でした。
その方が向こうで調べることが少なくなって早く治療に入れますので。』

「はい分かりました。何をするのですか？」

『心電図と心臓のエコー検査・肺活量の検査です。14：00に予約が入っていますので、それまでにその場所に着いていてください。』

「分かりました。」

そこから何をしていたのか覚えていません。

心電図は毎年の健康診断で撮っていますのでいつも通りでしたが、心臓のエコー検査は初めてでした。

心臓の弁が開いたり閉じたり。

あぁこんな感じで心臓って動いているんだと思いながらモニターを見ていました。

肺活量のテスト、私は喫煙者でしたので心配しておりましたが『問題なし。年齢なりに平均値』との結果でした。

検査が終わって病室へ戻ります。

看護師さんに
「これからどうしたらいいですか？」と聞いても
『今先生が検査結果のデータCDと紹介状を書いてくれているので、そのまま待っていて下さい』
と言われましたのでそのままベッドで待ちます。


病室の窓から外の駐車場をぼ～っと見ながら、もう一度戻って来てくれる妻の車が入ってくるのを
ずっと、ただ待っていました。

しばらくして主治医の先生が来ました。
『CDを焼くのに時間が掛かっています。明日の退院じゃダメですか？明日なら間違いなく出来上がります。』

「すいません、もう家族がいる家に帰りたいんです。何とか今日退院できませんか？」

『分かりました。やりますね。』

すいません。わがままを言って…。

多分今までの自分ならそんな事、
絶対言わない様な事でした。

自分…人が変わってしまったかな…。
もう何に対しても余裕などありませんでした。

心にも、そして“残された時間”と言うよく分からない焦りから来る、時間の余裕も。



ただただ、妻と子供達に早く会いたかったんです。