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Herbie Hancock : Takin' Off

年末の仕事が一段落したので、リラックスした気分で 1940年 アメリカ・イリノイ州シカゴ生まれのジャズ・ピアニスト  Herbie Hancock 22歳の時の初リーダー作 『Takin' Off』(62年)を聴く。

これもだいぶ昔にショート・レビューしてますが、今回はジックリ聴き直して大幅アップデート。

パーソネルは Herbie Hancock (p)、Freddie Hubbard (tp,flh)、Dexter Gordon (ts)、Butch Warren (b)、Billy Higgins (ds) という ピアノ + 2管 + リズムセクション のクインテット編成。

5人の中で Herbie が最も若く(最年長の Dexter Gordon は17歳年上でこの時点で既にリーダー作を15枚以上リリースしている大御所)、今聴くと Herbie Hancock らしさ全開ではないけど初リーダー作で全曲オリジナルというのはジャズの世界では珍しい。コンポーザーとしての才能が早くも発揮され、かつ周りの関係者もそれを認識していたからこそできた事で、先輩方も快くサイドメンを引き受けたんだと思う。

アルバム・ジャケットはいかにも Blue Note らしいスタイリッシュなアートワーク、ピアノ同様に全体をモノトーンで色調したところに朱色の HERBIE HANCOCK の文字。カッコイイよね。

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どーでもいい話だけど、この作品を含む Blue Note Records のアルバムを500枚以上手掛けたグラフィック・デザイナー Reid Miles も Herbie と同郷のシカゴ生まれ(Reid の方がだいぶ年上だけど)。
ちなみに wiki によれば、彼はジャズには興味を示さずクラシックが大好きだったそうで、自分がデザインした Blue Note アルバムを受け取ってもそのほとんどを友人に渡したり、中古レコードショップに持ってったそうな。

収録曲は全6曲、先に述べたように全曲 Herbie のペンによるもの(後に3曲のalternateテイクが収録されたが、私の手元にあるのはオリジナルの6曲盤CD)。プロデューサーは Alfred Lion、録音は Van Gelder Studio とまさに Blue Note のアルバム。

(1) 『Watermelon Man』は後にジャズ・スタンダードともなる有名曲、おそらくジャズファンでなくてもこのテーマは聴いたことがあるはず。
(シングル・カットされたが当時は Billboard チャート 121位 と振るわず、翌年にキューバ出身のコンガ奏者 Mongo Santamaría によるカバーが Billboard 10位 とヒットし、その作曲者として Herbie が知られるようになる)

Herbie は21歳の時にシカゴを離れニューヨークを拠点としたが、この曲は幼少シカゴ時代の裏通りや路地を駆け巡るスイカ売りの荷馬車のリズムと、それを呼び止めるお客さんの "Hey, Watermelon man" との声を回想してフレーズに当て嵌めたそうな。

wiki によれば Herbie は意識して売れるように書いたそうで、確かにピアノによるブルージーなコードとファンキーなリズム、2管によるゴスペルタッチのキャッチーなメロディ、と冒頭のピアノ&ホーンのテーマは一聴して耳に残るよね。

印象的なテーマから Freddie Hubbard のトランペット・ソロ、Dexter Gordon のテナーサックス・ソロと続く。どちらもリズムに乗って伸びやかでキモチ良いですが、個人的には Freddie の方が好きかな。Herbie のバッキングは終始同じですが、Gordon ソロの途中から変化を付けてきてピアノ・ソロへと入ってゆく。ウマイねぇ。

最後にテーマに戻ってきますがピアノが絡んできて楽しい。もう少しこのテーマ部で遊んで欲しかったなぁ。

シングル盤のジャケットはコレ。これもイイよね。

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ミステリアスで不穏なピアノに始まり2管が揃ってテーマを吹く (2)『Three Bags Full』は上述 (1) のシングルB面に収録。この雰囲気、私好みです。

ソロでは、曲調に合わせてか Freddie のトランペットは最初は抑制しつつもやがてしなやかに鳴り出す。続く Gordon はスムーズで抜けの良いトーンで饒舌に語る。いずれも尺が短い気がするけどどちらも手堅くて良し。
2管ソロの後ろで弾いている Herbie のバッキングにも注目。もちろん出しゃばることはありませんが、気を緩めることなくアプローチを変化させているところはさすが。

Herbie のソロは彼らしさが出ていると思う。リリカルだけれどもリズムを意識して跳ねるように弾いている。22歳の初リード作品とは思えないくらい堂々としてる。地味だけど Billy Higgins のドラムがスゥイング感をリードしているのが効いてるかな。
テーマに戻ってきて終わる。終わる直前の Billy のリム連射が好き。

(3)『Empty Pockets』は日本語意訳すれば "無一文"。若き新進ジャズ・ピアニストの現実は食うや食わずの日もあったそうで、シャレ半分マジメ半分のタイトルにニヤリ。

ブルージーなピアノ・コードでスタート、すかさず2管がヤクザなテーマを吹く。どちらかと言えば3者のアドリブ勝負といった楽曲か。

Freddie のトランペットは自由に大空を飛び廻る感じだけれどもハメを外し過ぎない。Gordon のテナーは野太さとしなやかさがあり、艶やかで迫力がある。これは貫禄勝ちですな。
Herbie のバッキングはいつものように控えめだけど飽きさせない工夫があるし、ソロはアツくなり過ぎず軽快にかろやかに弾いてます。イイねぇ。Butch Warren のツンツン突き進むベースがキモチ良し。

(4)『The Maze』のオープニングはマイナー・コードのピアノに哀愁漂うメロディをトランペット&テナーが奏でる魅惑の楽曲。

Herbie のピアノ・ソロかと思ったらすぐに Freddie にチェンジ。緩急があってイイ鳴りしてる。調子が良さそう。またしてもショート・ピアノ・ソロをはさんで Gordon 登場。テナーの音質もあってか安心感・安定感のあるソロ。こちらは絶好調。それに触発されてか Herbie のバッキングが非常に多彩でこの即応性がジャズの醍醐味かと。

ピアノ・ソロは Herbie らしくバウンシーで流麗。これはカッコいいね。これら3者の闊達な演奏を堅実にサポートする Billy のシンバル・ワークと Butch のランニング・ベースの存在も重要な要素の一つ。

(5)『Driftin'』はミディアム・ビートの佳曲。アタックの強いブロック・ピアノでスタートし即座に2管がテーマを吹く。この後にテーマをピアノが演ったりホーンが吹いたりと事前にアレンジが練られてる。

ソロは Gordon のテナーから。落ち着いたオトナのムード漂うシックなトーン。それを引き継ぐ Freddie もフレーズ少なく空間を活かした演奏。それゆえドラム&ベースがキリリと際立ちますね。

このテンポは Herbie の得意とするところで、ピアノ・ソロはこのアルバム一番の尺長で幾度もヒラメキが発されてる。過激ではないが刺激的なタッチで、Miles Davis が目を付けたのがよく判る名演と思います。
最後のテーマも単なる繰り返しではなく変化してアクセントを付けているところがニクイ。

ラストの (6)『Alone and I』はバラード。ロングトーンの重低音ベースとブラシ・ワークにピアノが囁くように唄い出し、ほどなくして Gordon のテナーがゆるりと語りはじめ夜のニオイが漂い始める。ステキですなぁ。

短めのピアノをはさんで Freddie もブレス少なめに優雅に吹き始めるがすぐにピアノ・ソロへ。もう少し吹いて欲しいんですけど。
で、その Herbie のソロですがまさしく典雅そのもの。22歳の新進ピアニストとは思えぬロマンチックぶり。それを支える口数の少ない Butch のダブル・ベースが何とも素敵。
と思ったらトランペットが戻ってきて高音ロングトーン、クウゥ〜堪らんとなります。

再びテナーが入ってきて、最後にトランペットとピアノと一緒にクローズ。甘美な楽曲ですが、主役は Herbie ではなくホーン。

全6曲、40分弱。随所に Herbie らしさは光るもののホーンが主役のクインテット作品のようですね。どうしても冒頭の『Watermelon Man』の印象が強過ぎてファンキーなアルバム・イメージが付き纏いますが、バランスの取れた佳作と思います。

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