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Common : One Day It'll All Make Sense

Common Sense あらため Common の 3rd アルバム『One Day It'll All Make Sense』(97年)を聴く(今回は過去ログ・アップデートではなく新規投稿)。

94年に 2nd アルバム『Resurrection』をドロップしたときはアーティスト名 Common Sense、リリース当時は一部で高い評価を受けつつも Billboard チャート 129位 と商業的には大ブレイクとまではいかなかった。しかし、アルバムからの先行シングル『I Used to Love H.E.R.』が Ice Cube をディスったとされビーフ合戦に到ることで注目を集め Hot Rap シングルチャート 31位、続くセカンド・シングル『Resurrection』では Hot Rap チャート 22位 を記録することで一躍メインストリームに躍り出ることになる。

だがその代償は、カリフォルニア州オレンジ郡を拠点に活動するレゲエ・バンド Common Sense からその名前を訴えられ、Common に改名を余儀なくされる。どうせなら『海砂利水魚』あらため『くりぃむしちゅー』くらいのマグニチュードで変えた方が良かったのでは? と思うがどうだろう(笑)

で、全く興味もないのにレゲエ・バンド Common Sense を調べてみたところ、1987年には活動をスタートしていたようで、自身と同じ名前の Common Sense Records レーベルを立ち上げ5枚のアルバムをリリースしてる!! (今どき YouTube でいくつか音源を聴くことができる)

さて本題。

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このアルバム・ジャケットを見た瞬間にコレは傑作に違いないと直感した。いわゆるギャングスタ・ラップ、パーティー・ラップとは距離を置いたものであることが一眼で判る。幼少の頃の Common、子供ながらにボーズをとり cool にキメようとしているが、傍らには彼のおばあちゃんと思しき婦人。それほど裕福な家庭だったとは思えないが、上品なたたずまいに優しく微笑みながら肩に手を置くおばあちゃんとのツーショットに、アメリカの黒人家庭の在り方が顕れているように思う。何気無い日常の1枚をアルバム・ジャケットに配しセピア・トーンにまとめたセンスが素晴らしい。

ちなみに 1st アルバム『Can I Borrow a Dollar?』(92年)、2nd アルバム『Resurrection』(94年)、そしてこの 3rd もプロデュースしている盟友 No I.D. (1st の頃は Immenslope と名乗っていた)とは一旦ここでお別れ。二人が再び共同制作するのは14年後の 9th アルバム『The Dreamer/The Believer』(11年)。ではレビューへ。

(1)『Introspective』は、ブラジリアン・ソウル&ファンク・バンド Banda União Black の『União Black』(77年)の静謐な導入部そのままに Common 自身によるポエトリー・リーディングで幕開け。「I like to welcome everybody to the LP, One Day It'll All Make Sense, by me.」

印象的なギター・ループが冴える(2)『Invocation』。元ネタはソウル・ジャズ・ギタリスト Jimmy Ponder の『Jennifer』(76年)で、9分に渡る原曲からトロケるようなギター・フレーズを「発掘」しループさせた No I.D. の手腕に脱帽。このナンバーを繰り返し聴き過ぎて、原曲でループしないことに物足りなさを覚えてしまう始末。

(3)『Real Nigga Quotes』は土臭いホーンとネバっこく太っといバリトン・ギターによるループ・ナンバー。Main Source, NAS, Jungle Brothers などの Hip-Hop レジェンド達をサンプリングしているらしいのだが良く判らない(おそらく Lyrics のサンプリングと思います)。5分間に渡って Common がリリックを噴射しているが、私の英語力では解読できない。プロデュースとフックのコーラスは同郷 Chicago 出身の Dug Infinite が担当。

アルバムからの 1st シングルで、ボーカルに Lauryn Hill をフィーチャーした(4)『Retrospect for Life』は、偉大なソウル・シンガーの名曲を巧みに配した Hip-Hop 時代のニューソウル・クラシック。

Donny Hathaway 『A Song for You』(71年)の導入部のピアノをそのまま引用、同じく Donny の『Giving Up』(69年)を繋ぎ合わせたブロック・ピアノをバックに Common がシリアスなテーマを滔々と語り、フックでは Lauryn Hill が Stevie Wonder の『Never Dreamed You'd Leave in Summer』(71年) の歌詞を少し変えて切々と唄い上げる。どのネタ元も名曲だけど、Stevie は絶対に聴いて欲しい。自然と涙が出てくるよ。。(彼は Michael Jackson のトリビュート・ライブでもこの曲を演ってるね)

プロデュースは No I.D. と、Erykah Badu や Jill Scott に楽曲を提供する James Poyser 二人による制作。

(5)『Gettin' Down at the Amphitheater』は Hip-Hop 映画『Wild Style』(83年)のサントラ盤収録 Grand Wizzard Theodore の『Gangbusters』をそのまんま使ったオールド・スクール・ド真ん中のビートに乗って、De La Soul の Posdnuos と Trugoy をフィーチャー。彼ららしい少しユルめのファット・ビート・チューンで、1st ヴァース Trugoy - (フック) - 2nd ヴァース Common - (フック) -3rd ヴァース Posdnuos の順。

(6)『Food for Funk』は不穏な雰囲気をまとったミディアム・ヘヴィ・トラック。差し込まれる「I can feel the funk」の声ネタはGang Starr の『Ex Girl to Next Girl』でもサンプリングされていた Caesar Frazier の『Funk It Down』(75年)から。

(7)『G.O.D. (Gaining One's Definition)』では Goodie Mobb の CeeLo をフィーチャーしたナンバー、(4)『Retrospect for Life』と並ぶ泣きのソウル・バラード。美しいエレピとシンプルなビートに乗せて、Common の優しいフロウと CeeLo の暖かい唄声が心に沁みる。元々 CeeLo はハードコアなラッパーと言うよりはソウル色の強い人なのでこのハマり具合は格別。フックのリリックもシンプルだけどグッと来るよね。

(8)『My City』はフリー・ジャズとまでは言わないが、かなり自由度の高いピアノ&ベースにソプラノ・サックスが蝶のように飛び廻る演奏に、同郷 Chicago 出身の Malik Yusef なるスポークン・ワード・パフォーマーが全面にフィーチャーされたポエトリー・リーディング・ナンバー。最後に突然 Joe Henderson の『Solution』(76年)がサンプリングされて終わる。あれ? Common はどこへ行った?

(9)『Hungry』は Soul Dog『Can't Stop Loving You』(76年)のインパクトのあるダダダダ・ダンッを借用し、Common が(マシンガンとまではいかないが)小気味よくリリックを叩きつけて来る小作品ながら印象に残るチューン。

タイトルを見たときは Mary Jane Girls ネタかと思ったけど実は違う(10)『All Night Long』では Erykah Badu をフィーチャーし、バックトラックは The Roots が演奏するという反則とも言うべき極上の Jazzy Hip-Hop ソウル。アルバムからの 3rd シングル。硬質なドラムと濡れたようなエレピが夜の匂いを発し、そこに Common のフロウと Erykah のシルキーヴォイスが美しくも妖しく交差する。凛として透明感がありながらどこかエロティック。後に二人の間にロマンスがあったというゴシップもなるほどです。

ちなみに Brand New Heavies のリミックスがあり、全く別のトラックになっているんだけど、これが違った意味で良く出来てる。こちらも必聴。

(11)『Stolen Moments, Pt. 1』は緊張感漂うストリングスとフルートのような音で構成されるショート・トラック。後半に出てくる「What can I do?」の声ネタは Gwen McCrae の『90% of Me Is You』(74年)から。

シームレスに続く(12)『Stolen Moments, Pt. 2』では Franck Pourcel の『Girl』(70年)から冷え込むようなストリングスをサンプリング。No. I.D. 流石です。ここでは Common のヴァースを挟むように The Roots - Black Thought がコーラス部に参戦。最後は Roy Ayers『The Black Five』(75年)の導入部をそのまま借用。

(13)『1'2 Many...』はコメディ映画『Silent Movie』(76年)のサントラ収録『Burt Reynolds' House』の一瞬をフリップ&ループ。う〜ん、このセンス凄いです。プロデュースは(3)『Real Nigga Quotes』も手掛けた Dug Infinite。コスリもナカナカ。「No.1!!」の声ネタで Boogie Down Productions をサプリング。

Q-Tip をフィーチャーした(14)『Stolen Moments, Pt. 3』は Fania All Stars『Prepara』(79年)のイントロのパーカッション&ストリングスをループ。Q-Tip と Common って別に相性は悪くないと思うけど異化効果が起きるでもなくちょっと面白みに欠けるかな。中盤に映画『King of New York』と『Scarface』からダイアローグを引用し、最後は映画監督 Melvin Van Peebles の音楽アルバム『What the.... You Mean I Can't Sing?!』(73年)収録の『Superstition』でクローズ。カルチャー背景が異なるせいか、このあたりのセンスというか感性がよく判りませぬ。

(15)『Making a Name for Ourselves』では、当時新進気鋭のジャマイカ出身ラッパー Canibus が参加。彼は LL Cool J とのビーフで注目を集めたが、それ以降パッとしなかったなぁ。バックトラックは Surprize の『Sweet Love』(72年)からラフなドラムをサンプリングし、メロディアスなウワモノは一切無し、ときおりSE音を差し込みながらひたすら Common と Canibus でMCを繰り広げるハードコア・チューン。

アルバムからの 2nd シングル(16)『Reminding Me (Of Sef)』では歌姫 Chantay Savage をフィーチャー、ビートの元ネタは Chicago の先輩 Lowrell のメロウ・ダンス・クラシック『Mellow Mellow Right On』(79年)で、レトロでグルーヴィーなシンセベースと爽やかなカッティング・ギターがキャチーな楽曲。フックで Chantay が唄うフレーズは Patrice Rushen の『Remind Me』(82年) を引用、その判りやすさもあってか Billboard Hot Rap Singes チャート9位を獲得。プロデュースは Ynot。

ラストを飾る(17)『Pop's Rap, Pt. 2 / Fatherhood』は前作同様、Common パパ Lonnie "Pops" Lynn によるボエトリー・リーディング。ピアノ・トリオ編成のジャジーな楽曲をバックにパパが優しく語りかけてきます。

ふ〜。全17曲、70分におよぶボリューミーなアルバムでお腹一杯。

しかし、今回も捨て曲・駄曲一切無し、ボースティング Hip-Hop に馴染めない人は是非チェックを。

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