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Common Sense : Resurrection

ゆえあって自分の過去レビューからのコピペ&大幅アップデート。
おのれの過去ログ文章って手直ししたい気持ちと敢えて手を加えずに取っておきたい気持ちがないまぜになる複雑な存在。
が、サイト引っ越しを契機に禁断の加筆修正を断行。

選んだのは Chicago 出身の Common Sense (現在は Common) 94年リリースの 2nd アルバム『Resurrection』。

その昔それこそ躰に沁み込むほどに聴いたもので、素晴らしい作品を久し振りに聴き直して、どうしても大幅アップデート・レビューを書きたくなった次第。

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やはり今聞くと音圧が弱いと感じるが、全15曲捨て曲なし、Common の生真面目さが伝わってくる傑作 Hip-Hop アルバム(私の所有CDはボーナス・トラック2曲が追加された日本盤)。
前半の7曲を "East Side of Stony"、後半の8曲を "West Side of Stony" と呼ぶ2つのセクションからなる構成。Stony Island Avenue はシカゴ南部にある通りの名で、Common はここから始まったのだ。

まずは "East Side of Stony" から。

劈頭を飾るのはアルバム・タイトルでもある(1)『Resurrection』。Power of Zeus 『The Sorcerer of Isis (The Ritual of the Mole)』(70年)の太っといドラム・ビートの上に、大好きなジャズ・ピアニスト Ahmad Jamal の『Dolphin Dance』の一瞬のフレーズをとらえてフリップ&ループさせたプロデューサー No I.D. のセンスは実に見事。Mista Sinister のスクラッチはキレが良いし、Common のフロウは超絶技巧派ではないが端正で聴いていて安心感がある。ジャジー & メロウ Hip-Hop のお手本。アルバムからの 2nd シングル、Hot Rap チャート 22位。

続く(2)『I Used to Love H.E.R.』では、ジャズ・ギタリスト George Benson の『The Changing World』(74年)のメロウなエレピ&ギターのイントロ部と If の『Fly, Fly, the Route, Shoot』(73年)からソリッドなスネアを拝借した、これまた Hip-Hop クラシック。リリックが真面目すぎて面白味に欠けるキライはあるが、享楽的・商業的になり過ぎた Hip-Hop シーンを皮肉った内容が Ice Cube をディスったとされ(おそらく Common にその意図はなかったのであろうが、狡猾な Ice Cube が巧みに利用したのだ)、後にビーフ合戦が始まったのも今となっては懐かしい。楽曲の良さとバトルのこともあり、一躍 Common はメインストリームへ。アルバムからの先行 1st シングル、Hot Rap チャート31位。

King Curtis の『Sweet Inspiration』(68年)からクセのあるベースラインと The New Apocalypse の『Get Outta My Life Woman』(69年)のドラム を使った(3)『Watermelon』は、ファンキー・ブレイクビーツ・チューン。"Watermelon !!" の声ネタは Johnnie Taylor の『Watermelon Man』(67年)からサンプリング。この「西瓜(スイカ)」というキーワードってブラック・ミュージックではよく使われるように思うのですが、どういう文化的背景があるんでしょうかね?

(4)『Book of Life』は浮遊感のあるループとドープなベース&ビートが印象的なトラック。Hip-Hop 映画『Wild Style』(82年)からダイアログを引用、突然 The Wailers の『Get Up, Stand Up』(73年)のリリックが出てきてチョットびっくりしたり、Roy Ayers のウルトラ・ド定番『Everybody Loves the Sunshine』(76年) から "My life, my life, my life ..." の声ネタをサンプリング。Mista Sinisterも全快で良し。

(5)『In my own World (Check the Method)』では No I.D. がラップを披露、少しダルな感じのヤサグレたフロウと Common の端正なライミングが対象的。トラックは Clyde McPhatter『The Mixed Up Cup』(70年)のスネアの上に Modern Jazz Quartet『But Not for Me』(56年)の華麗なヴァイヴをサンプリング、これもジャジーかつ浮遊感のあるトラック。

(6)『Another Wasted Nite with...』は電話口での喋くりインタールード。

(7)『Nuthin' to Do』はウネるようなベースが気持ち良いソウルフルなチューン。Gary Burton『Leroy the Magician』(71年)の骨太ドラム・ビートの上に Linving Jazz の『Walk on By』(70年)から一瞬の気持ち良過ぎるベース&ホーン・フレーズを逃さずサンプリング。流石です。クレジットによれば Wu-Tang Clan の『Protect Ya Neck』が使われてるらしいのだが、おそらく ODB の声だよね。

ここからが後半の "West Side of Stony"。

(8)『Communism』は 1st シングル(2)『I Used to Love H.E.R.』のB面。ジャズ・ピアニスト Pete Jolly の『Leaves』(70年)から浮遊するエレピと Freddie Hubbard の『The Surest Things can Change』(78年)からトランペット(フルート?)をサンプリング。2分強のショート・トラックだがメロウ度が高くこれも佳作。短い楽曲にもかかわらず敢えて入れてくる中間のブレイクがとても効果的。

(9)『WMOE』は Mohammed Ali の声をフィーチャーしたインタールード。Cannonball Adderleyの『Capricorn』(76年)から意外なトコロをサンプリング。同じネタ曲を使った名曲は Pete Rock & CL Smooth の『In The House』。

本作のハイライトとなる(10)『Thisisme』は、冒頭のフックは Boogie Down Productions の『Build and Destroy』(92年)から KRS-One の声ネタ "I love the way I am and can't nobody out here change me" を引用、Alton McClain & Destiny『Power of Love』(79年)の素敵なコードをピッチを上げてループし、ビシバシ・スネアは Paul McCartney のインスト・ナンバー『Momma Miss America』(70年)という構成 。
一言一言は大したことを言っているわけではないけれど、ここでの Common はまさにリリシストと呼ぶに相応わしいストーリー・テリング。3ヴァース目の「Sometimes, sometimes I get a good feeling」の箇所はマジでグッと来る(調べてみたらこのフレーズは Etta James の『Something's Got a Hold on Me』(62年)からの引用らしい)。そしてラスト怒涛の Mista Sinister のコスリも素晴らしい!!

(11)『Orange Pineapple Juice』では大好きなジャズ・ギタリスト Grant Green の『Maybe Tomorrow』(71年)から。といってもファンキー・ギターではなく元々ドリーミーな楽曲なのでそのテイストはそのまま(ただしドラムは Grover Washington, Jr. の『Hydra』(75年)からビシッと)。タイトルにはどのような意味が込められているのでしょうか?

(12)『Chapter 13 (Rich man vs. Poor man)』はハイライト第二弾。Archie Whitewater『Cross Country』(70年)のメッチャ気持ち良いコードと印象的なホーン・フレーズをそのまま使っているだけなんだけどこれまた素晴らしいトラック。ドラムは Detroit Emeralds の『You're Getting a Little Too Smart 』(73年)。Common と Ynot (ってよく知りませんが)によるマイクリレー・ラップでリリックは色々と先輩ラッパーから引用しているもよう。プロデュースも Ynot。

(13)『Maintaining』ではまたしても Modern Jazz Quartet の『But Not for Me』から違う箇所をサンプリング。フックのリリック&フロウは A Tribe Called Quest の『Scenario (Remix)』(92年)、ビートは The Whatnauts の『Why Can't People Be Colors Too?』(72年)のブレイク・ビーツから。

(14)『Sum Shit I Wrote』の少しダークで印象的なピアノ・ループは、ジャズ・トランペッター The Jonah Jones Quartet の『Lisbon Antigua』(61年)をサンプリング。しかも原曲よりも若干BPMを落とし、そこにタメの効いた Brethren『Outside Love』(70年)のタイトなドラムをアテ込むというアイデア。凄いよね。それにしてもこんな曲どこから持ってくるのだろう? Ynot プロデュース。

最後を締めくくる(15)『Pop's Rap』では Common の父親でバスケットボール・プレイヤーだった Lonnie Lynn のポエトリー・リーディング。家族愛ですなぁ。後ろでエレピを弾く Lenny Underwood の仕事が素晴らしいです。

以下の2曲は日本盤ボーナス・トラック。Common パパの語りの後に持ってくるのは無粋でしょ。
(16)『Soul by the Pound (Thump Mix)』
(17)『Can-I-Bust』

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