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Red Garland : Groovy

久し振りの投稿は、1923年アメリカ・テキサス生まれのジャズ・ピアニスト Red Garland の4枚目リーダー作『Groovy』(57年)を。

しばらく筆を擱いてしまうと書き始めるのが億劫で、収録曲が少なく肩の凝らない軽快なジャズ・アルバムでいこうかと。で、ふと手が伸びて選んだのがこのピアノ・トリオ。パーソネルは Red Garland(p)、Paul Chambers (b)、Art Taylor(ds) という派手さはないものの安心感・安定感バツグンの布陣、正にこのアルバムがそう。

この Red Garland という人、18歳の頃陸軍に入隊しボクシングに打ち込み、除隊後にウェルター級のプロボクサーになった変わり種。Wiki によれば35戦闘ったらしい(31戦との説あり。まぁどちらでもいいけど)。

軍隊在籍時にアルト・サックスを吹きピアノの手ほどきを受けたそうで、ボクサーをやめた後にジャズ・ミュージシャンに転身。24歳の頃、髪の毛を赤茶色に染めた時から Red Hair と呼ばれ、いつしか "Red" と呼ばれるようになったそうな。

32歳の時に Miles Davis とカルテットで『The Musings of Miles』(55年)を録音、その年に Miles Davis(tp)、John Coltrane(ts)、Red Garland(p)、Paul Chambers(b)、Philly Joe Jones(ds) のメンバーで黄金の Miles クインテット(第一期)を結成、その後1959年の退団まで(その間一時的に不在あり)の間に『Groovy』を含む多数のアルバムをこのトリオで残している。

壁面にチョークでイタズラ描きされたようなようなジャケットがいかにもニューヨークっぽくて素敵。古き良きニューヨーク・モダンジャズの名盤はアートワークも素晴らしいのだ。

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収録曲は全6曲、Wiki によれば 56年12月に2曲 / 57年5月1曲 / 57年8月3曲 と吹き込まれたそうなので明確なアルバム・コンセプトに基づいて製作されたようではないのですが、ニュージャージーの Van Gelder スタジオ録音、『Groovy』のタイトル通りスウィンギーでグルーヴィーなゴキゲン・ジャズ・アルバム。今の耳には音質は良くないですが(何せ60年以上も前の録音)、デカイ音量でこのノリを躰で感じながら聴くべし聴くべし。

(1) 『C-Jam Blues』 は Duke Ellington 作曲のスタンダード・ナンバーで多くのアーティスト達によって再演されている超有名曲。普段ジャズを聴かない人でもこのテーマ(メインのピアノ・リフ)は聴いたことがあるはず。中でもこの Red Garland バージョンが一番人気のようで、アルバムを象徴するナンバー。

原曲よりも終始ブルージーなトーンを保ちつつ、Chambers の力強く刻むベースに Taylor のブラシ・ワークが冴え渡り、前乗り気味に鳴る Garland のピアノがグルーヴを生む。イイですねぇ。

ちなみに個人的には Oscar Peterson バージョンが至高。テーマが始まる前に Oscar Peterson のピアノ独奏でスタート、 50秒あたりから Ray Brown が自身のダブル・ベースのボディを叩いてリズムを取り、ほどなくして Ed Thigpen がドラムを(スティックでなく)素手で軽く撫でるように叩き始める。本編に至る前の導入部の段階で何かやってくれそうな気配がムンムン、ゾクゾクするよね。1964年デンマークでの演奏。

(2) 『Gone Again』 では一転して甘いムードを漂わせるスロウ。バラードだけれども Garland はリリカルになり過ぎず丸みを帯びた明るく優しいタッチで弾く。繊細だけれども壊れそうではなく、力強く包み込むように、そして唄うように弾いている。Chambers のベースも聴きどころか。

(3) 『Will You Still Be Mine?』 はジャズ・シンガー Matt Dennice のペンによるスタンダード・ナンバー。オリジナルは Matt 本人が歌(歌詞あり)を唄っているけど、ここではアップテンポのリズムに乗って Garland がコロコロとシングル・ノートでピアノを走らせる。まるでボクサーのフットステップのように軽やかにリズムに乗りながら矢継ぎ早にピアノを繰り出しつつ、テーマでは彼の得意とするブロック・コードを叩きつけるようにして弾む。これも名演の一つでしょうかね。

(4) 『Willow Weep for Me』 は古いポピュラー音楽(Ann Ronell 作詞作曲)で、Billie Holiday や Sarah Vaughan などが唄ってる。「柳よ泣いておくれ」という邦題を目にした人もいるのでは。性急なナンバーの後にこのようにゆったりとした楽曲を巧みに配置したのはプロデューサー Bob Weinstock の考えによるものでしょうか。

全体的にブルージーで寂しげな楽曲なんだけど、エッジを効かせたハードなタッチもあったりして意外に表情豊か。オリジナルは3分弱ですが、こちらは10分近い演奏でもあきさせない。流石ですなぁ。中間の Chambers のベース・ソロも結構素敵だし、Taylor のドラムはブラシ中心だけど色々と工夫があって実はよく考えられてる。

(5) 『What Can I Say, Dear』 も古いポピュラー音楽。小粋で明るくスウィンギーなナンバー。これくらいのミドルテンポが一番 Garland のコロガリ具合が判るかも。左のブロックでアクセントを付けながら右のシングルでとにかく楽しげに唄ってます。
中盤の Chambers のソロは、アルコ嫌いの私ですがギリギリ許容できるかな。後半になって Taylor が初めてソロらしいソロを取りますが、やり過ぎることなく Garland と巧く応酬していて楽しい。

(6) 『Hey Now』 だけが Garland のペンによるもので4分弱と短いけど (1) C-Jam Blues にも似たスウィング感満載の楽曲で、このアルバムが『Groovy』であることを再認識させる締めくくり。ブンブン進む Chambers のベースとバウンシーな Taylor のリズム、そしてパンチの効いたブロックと転がるシングル・トーンといった具合に Garland トリオ節が炸裂。

久し振りに聴き返してみたけれど、超絶な技巧はなくとも名演・良盤は生まれるものだとあらためて実感。ジャズをあまり聴かない人が気負わず聴いて楽しめるアルバムと思います。
ポイントは、デカイ音量でこのノリを躰で感じながら聴くべし聴くべし。




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