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The Wooden Glass featuring Billy Wooten : Live

暑い夏にはアツイヤツを聴くに限る!! ということで The Wooden Glass featuring Billy Wooten のライブ・アルバム『Live』(72年)を14年振りくらいに聴く。

これって今から50年近くも前のアルバムなんですねぇ。そもそも古い上に当時のナイトクラブでのライブ録音ということもあって音質は良くないけど、聴き始めて30秒もすればその熱気に包まれ忘我の境地、ほどなく阿鼻叫喚のファンク絵巻は地獄絵図と化し、気がつけば極楽浄土に至るというトンデモナイ・アルバム。

いわゆるカテゴリーとしてはジャズ・ファンク、レア・グルーヴと言われるもので、この熱量とヤンチャ振りはレッチリに匹敵、圧倒的なコテコテの黒いグルーヴが好きな人は必聴必携の裏名盤。

1972年といえば Grant Green の『Live at The Lighthouse』や Jimmy Smith の『Root Down』がリリースされた年でジャズ・ファンクが宇宙爆発した年といっても過言ではないですね。

パーソネルは Billy Wooten (vibraphone), Emmanuel Riggins (organ), William Roach (guitar), Harold Cardwell (drums) というカルテット編成。
ギターの William Roach を除く3人は Grant Green の2枚のアルバム『Visions』(71年)、『Shades of Green』(71年)で演奏していて、気心の知れた Grand Green コンボのレコーディング・メンバーで臨んだライブ。

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この Billy Wooten というヴィブラフォニスト、wiki にもほとんど情報が載っておらず、知り得たものは手元にある日本盤CD(P-VINE Records が2004年にリイシューしたもの)のライナーノーツくらいしかない。これだからCD売れないんだよねぇ。。。

ちなみに Discogs にアナログレコードのラベルがアップされていたので見ていたら "The Vibe Man" とある。「ザ・ヴァイブマン」って日本語で書くとなんかヤラシイね。

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以前にブログでも書いたような気がしますが、ヴィブラフォンという楽器はそれほど好きな楽器ではなくあまり積極的に聴いたことがないのですが、これは凶暴なまでのワイルドネスと甘美なメロウネスが交錯する快盤(怪盤)。USインディアナ州のインディアナポリスという田舎だからこそ生まれた猥雑なパワーがたまりません。
ではレビューへ。

収録曲は、オリジナルリリースの6曲に、P-VINE がリイシューした際にスペシャル・ボーナス・トラックとして追加収録された1曲(Hip-Hop トラックメーカー Madlibが (4) をリミックスした(7)) の全7曲。
CDのライナーノーツを見ると (1),(3),(4) の3曲が Wooten オリジナルとなっていますが、(4) は The Dramatics のカバーなので2曲が正しいと思います。

(1)『Monkey Hips and Rice』は Wooten オリジナル。Wooten が率いたグループ The Nineteenth Whole の唯一のスタジオアルバム『Smilin'』(72年)に収録したヤツのライブ・バージョン。いやはやコレが凄いのなんの。

いきなり荒々しいオルガン・ペダルのブーストされたベースでスタート、ドラムも品格などクソ喰らえとばかりにドコスコ蹴って叩きまくる。オルガン(手鍵盤)は音が割れんばかりにコキコキ・ビビヒャーと鳴り、ワウ・ギターが粘っこくグチュグチュと絡んで来る。

そのドス黒いファンク・ビートの上を Wooten のヴァイブが舞う。最初は鉄琴らしくクールに奏でられているが、すぐさま自分達の熱気で溶け出し、あとは傍若無人・問答無用とばかりに打ち鳴らす。
バンドが渾然一体となって押し寄せてくる怒濤の重量ファンク・チューン。
冷静に聴くとミスタッチもあったりしますが、そんな小賢しいことに囚われず大音量で浴びるべし。とにかくアツイ!! アツイッす!!

(2)『We've Only Just Begun』はご存知 Carpenters 70年のヒット・ナンバー(邦題は「愛のプレリュード」)のカバー。調べてみたら Carpenters もオリジナルでなくカバーだったのね。

もともと優しいメロディーを持った楽曲ですが、そこに艶やかなヴァイブ音が響けばメロウネス溢れるのは当然。チキチキ・ハイハットとオルガンのコード弾きがあるので純然たるポップスとはならずメロウ・ファンクとして聴くことができる。ギターは小気味よくバッキングに徹しているところもまた良し。

実はこれ、Grant Green の『Visions』(71年)で演っていて、その時は当然 Green のギターがメイン・メロディーを唄っていたわけですが、Wooten もイイと思ったのでしょう自分のライブで自身が堪能しちゃったというわけ(レパートリーが少ないというのもあると思うけど)。

(3)『Joy Ride』も Wooten オリジナル。(1) ほどのイキッぷりはありませんが、ノリノリのグルーヴィー・トラック。ドラムスがどっしりとしながらも前ノリのビートを叩き、ペダル・ベースとともに強力なリズムを作る。良質なオルガン・ジャズの様相ですね。

「Joy Ride !!」の声は曲紹介であると同時に自然と心から発した雄叫びでもあるのでしょう。

ここでは Roach のギターがイイ味出してます。ファンキーにバッキングするのはもちろんのこと、Green 直系のシングルノートで弾きまくり、三連のツイタッツイタッも炸裂。
Wooten は (1) では気が狂ってましたがここでは楽しげにウネリまくっていて、カルテットのバランスが程良いファンク・チューン。

(4)『In The Rain』は同年72年にシングル・リリースされた5人組ソウル・ボーカル・グループ The Dramatics の大ヒット曲(US Billboard のR&Bチャート1位)をカバー。

オリジナルは雨音のSE音で始まるスロウ・バラード、ここではヴァイブの雫が滴り落ちる。ビートがハッキリしているのでオリジナルの静謐さとは少し違うドリーミーでソウルフルなナンバー。
Riggins のオルガンとヴァイブのからみが素敵ですね。アルバムで一番短いトラックでもう少し演って欲しいです。

凶暴ファンク --> メロウ・ポップス --> 弾力ファンク --> メロウ・バラードと緩急を付けた配置はライブ演目そのままなのでしょうか。その場にいたオーディエンスが羨ましい。

(5)『Day Dreaming』も同じく72年にシングル・リリースされた Aretha Franklin の名曲(US Billboard R&Bチャート 2週連続1位)をカバー。これは後に Quincy Jones, Roy Ayers, Mary J. Blige, Natalie Cole などの錚々たるアーティストがカバーしてます。

原曲は愛くるしいメロディを軽快なボッサ風のタッチで進めていきます。こちらもドラムをしっかりと打ちながらも颯爽とした印象は変えずに Aretha の唄うメロディー・ラインをヴァイブ攻め。キュートなファンク・ナンバーになってます。

同じヴィブラフォニストの Roy Ayers とのアレンジの違いを楽しむのも面白いかもです(Roy Ayers はスタジオ盤なので音がクリアだしパーカッションやストリングスも重ねているので作り込みが全然違うけど)。

(6)『Love Is Here』ラストは The Supremes 67年のヒット曲(US Billboard R&Bチャート1位)『Love Is Here and Now You're Gone』をカバー(邦題は「恋ははかなく」)。

オリジナルは3分未満の60年代のモータン・サウンドですが、こっちはアルバム最長尺12分強の明るくポップなジャズ・ファンク、ヒッピー・ヒッピー・シェイクでウキウキ・スウィンギィー。

これも (3)『Joy Ride』同様に4名のプレイヤー・バランスがとても良くて、リラックスした中で各人のソロパートを廻してゆくもの。個人的には Riggins のオルガンが前面に出てくるところが好きですね。

所々で鳴る無遠慮なホイッスルや演奏終了後のオーディエンスの盛り上がり具合がこの日のライブを象徴しています。

(7)『Madlib - 6 Variation Of In The Rain』はボーナス・トラック。Hip-Hop 界隈では名の知れた DJ、プロデューサー Madlib による (4) 『In The Rain』のリミックス・バージョン。単なるリミックスというよりはコラージュのように大胆に斬り貼りして再構築したものというのが適切か。

しかし、このトラックの出来・不出来にかかわらず、熱血ライブの最後に加工したスタジオ・レコーディング曲を差し込む神経が理解できない。


と自分で言っておきながら、最後に Roy Ayers をブチ込んでしまうセンスもいかがなものか。。。でも、『NPR Music Tiny Desk Concert』シリーズってとても素晴らしいプログラムなんですもん。そしてこれに登場した Roy Ayers がとっても素敵なんですもん。

1940年生まれで映像は2018年だから喜寿(77歳)を超えても『Searching』や『Everybody Loves The Sunshine』をアツく演っている姿を多くの人に知っていただきたいのです。
(ちなみに過去の出演アーティストを確認するのは本家サイトでなく wiki の方が判りやすいです)


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