映画『呪い返し師—塩子誕生』レビュー。 宗教団体「幸福の科学」のブッ飛びぶりを見せつけられた

〜熱狂的な宗教性に、驚く〜

はじめに

旧統一教会が世間を騒がせ続けて、数ヶ月が経ちました。しかし世の中には、他にも社会的に物議を醸す団体があります。

幸福の科学という宗教は、これまでに20作以上の映画を作り、全国の映画館で上映してきました。その内容はいつも教団の教えに基づくプロパガンダであり、オカルトと”超展開”の連続です。しかし、最新作が史上最も際立っている点は、驚くべき「正義の押し付け」「”オカルト私刑”執行」に満ちていたことでした。
という訳で今回は、10月7日公開の映画『呪い返し師—塩子誕生』レビューをお届けします。ちなみに筆者は、同教団の「2世信者」ですが現在は信仰していない、という立場から批評します。ネタバレを含みます。

残念ながら、現在いくらでもマスコミが問題点を報じてくれる旧統一教会と違って、幸福の科学は未だ名前すら浮上しません。一方で幸いというべきか、後者の場合、映画という比較的とっつきやすいエンターテインメントを通じて、この団体の非常に特異な体質や、常識はずれな思考に触れる事が出来ます。
また、最後には「幸福の科学学園」の生徒が映画館へ動員されていることを示し、「宗教2世」問題にも軽く触れていきます。それでは、どうぞ。

レビュー本文

物語の主要人物は、鎌倉の私立校に通う三人の女子高校生。全員、オカルト研究部のメンバーで心霊好きという、今風とは言い難い設定です。
(※10月10日追記:正しくは都内の私立高でした)

冒頭、幸福の科学をモデルにした架空の宗教団体「幸福の心」の施設を、一見普通の若い女性が訪れます。実は彼女が変身した姿がヒロイン「塩子」です。彼女は「根本仏」(=幸福の科学の教祖・大川隆法をさす用語)に従って正義を執行する霊能力者です。(塩子の名前は大川の妻・紫央(しお)に由来)

場面は女子高に変わります。ある時、同研究部の三人組のひとり「奈々子」(以下「主人公」)が授業中に突然倒れ、首には正体不明のあざが。
「これは呪いなのでは?」と感じた三人は、週刊誌で話題のゴシップ記事に書かれた「呪い返し師」に頼んで邪気を祓ってもらうことにします。さっそくお焚き上げの儀式を行なうと、突風と共に、(その三人にとっては見ず知らずの)若い女性が突如現れ、「塩子、見参!」と言い放ちます。
超展開”すぎて元信者の筆者すら置いてけぼりになりますが、これがわずか冒頭20分くらいの出来事です。

塩子は、三人に対して自分の正体を一切明かさないまま「呪い」について語り出します。「呪い」について、映画の公式サイトは

現代人は、「呪い」を「わら人形に五寸釘で…」とイメージし、フィクションだと考える方が多いですが、実は職場や家庭など、私たちの身近な環境のなかでも呪いは飛び交っています。

映画公式サイトより

とした上で、「相手の不幸を願う気持ち」が悪霊などを招き寄せること、と説明しています。

さて、主人公にどうか助けてほしいと懇願され、塩子は行動を起こすことを決意。ここまで、意味不明すぎる展開と無駄にシリアスな雰囲気が続いた中、いきなり塩子が「素うどんが食べたい」と言い出します。これ、明らかにコメディー的演出なのですが正直滑っていて、映画館にいた大勢のお客さんの中から、笑っている声は一切聞こえませんでした。

それで、素うどんを運んできた出前のおっちゃんに感謝の一言も言わず黙々と食べる塩子は、勘定をオカルト研に押し付けたらしく、主人公がお金を払っていました
そしてようやく霊能力を使って「調査」を開始します。その結果、クラスメートの別の女子が、容姿端麗で成績優秀な主人公に嫉妬して「生霊」(いきりょう)という怨念エネルギー体を放ち、生霊が主人公の首を絞めていたと判明します。これも「呪い」の一種です。
すると塩子は「お前の正邪は判定された。お前は悪である!」と生霊に言い放ち、腕を大きく振りかざしてローマ字のZの字を描き「祓い、返し、守る」と決め台詞を唱え、最後にIの字を描くビームを放ちます。すると空から粉末が大量に降り注ぎ(画面中央に漢字でうっすら「塩」と書かれている)、生霊は消え去ります。ここまでが冒頭の大まかなあらすじです。

さて、勘のいい読者の方なら、以降の展開が薄々お分かりかも知れません。今作の、これ以降の内容を簡単にまとめるとこうです。振り込め詐欺師、DV夫、霊を否定する大学教授など、幸福の科学の教義から言って「悪い」人々がそれぞれ登場する、別々の短編エピソード集です。各エピソードでは、彼らの住居などに突然、建造物侵入した塩子が現れ、彼らを「悪霊」「鬼」「悪魔」憑き呼ばわりなどします。塩子が技をかけると、その人物は気絶し、憑依していた霊とのバトルに移ります。塩子は「お前は悪である!」と断罪し、先述の「Z」ビームと「塩」攻撃で霊を懲らしめます。
このように、ほぼ同じパターンの流れで展開するオムニバス(短編集)が約2時間続くのです。しかも振り込め詐欺師やDV夫という、詐欺や暴力の犯罪者(に取り憑いた霊)に対し、法律を根拠としない宗教的制裁(「Z」ビームと「塩」)を加えています。もはや”オカルト私刑”です。ただし詐欺師は最終的に、霊ではなく本人を物理的な縄でぐるぐる巻きにして警察へ引き渡しました。

塩子は若い女性で美しいと言う設定ですが、「は〜あ゛?」「〇〇じゃねえんだよ!」とか語気荒く叫んで相手を罵り、ビームと塩で悪霊を追い払う。悪霊側も塩子も叫びまくるシーンが多いので、観ていて疲れます。

それ以外にも、この映画は台詞回しがベタ。塩子も口汚いですが、女子高生の生霊が「死ね死ね死ね」などと言うのは、海外のB級映画で「F**K」を繰り返す類を連想しました。宗教の作った映画にしては、下品ではないでしょうか
また、先述の「”塩”テロップ問題」や「素うどん問題」の通り、時にコメディ要素もある演出はやはりチープで、疑問符が浮かびます。

その上「悪」の描き方も軽薄です。後半に登場する唯物論者の大学教授は、霊を否定する内容のレポートを生徒に書かせ、反発した生徒らは非科学的で単位に値しないと告げます。確かにこの行為は、信教の自由の観点から物議を醸す余地はあると思います。しかし最後は、「実はこの教授には悪魔がついていて、本当は子供の頃に人魂を見たと語るくらい素朴なオカルト体質の男の子だった。物理学を勉強しすぎて唯物論に洗脳されていただけ」という、しょうもないオチ。なんら合理的根拠は示さないまま、神や悪霊、あの世を”当たり前”の存在として描写し、無神論を”悪魔的思想”と断定する内容です。
塩子は「妄想」で生徒を「洗脳」するな、と言い放ち悪魔を祓います。

特にこの大学教授のエピソードは、DVや詐欺のような、明らかな犯罪行為とは性質が違います。それにもかかわらず塩子が同じノリで断罪している理由は、塩子の行動は世間の法律や常識よりも、幸福の科学の教えに基づいているからです。というか、他の全てのキャラクターに対しても、日本の法律や常識より、教団の教えを基準に裁いています。

以上、映画の流れと、エピソードをいくつか紹介しました。

最後に

今作を観て、他にも指摘したいことが2つあります。
1つ目は、教団の体質と教え。幸福の科学の映画はプロパガンダである以上、しつこすぎる教義の披露や、霊的ビームで悪を粉砕する描写は過去作でも頻繁にありました。しかし今作は最初から最後まで、教義に基づく正義を披露するどころか「普通の一般人に押し付け」「塩とビームの”私刑”で懲らしめる」ことが中心です。この点では過去最強レベルの分量と密度です。

ここで現実世界の話に戻ります。かつて、幸福の科学の批判記事を連発した週刊誌に対し、教団の指導のもと、信者らが抗議の電話やFAXをかけまくった事がありました。裁判所は業務妨害行為と、教団の使用者責任を認定しました。
今年に入ってからは、集英社の「宗教2世」体験談マンガに教団広報局が強い抗議をし、集英社は萎縮してマンガを公開停止。のちに連載中止の運びとなりました。(結局、今月に文藝春秋社から無事出版)

これらの事件の背後には、幸福の科学の「私たちが正義だ」「批判者は悪魔憑きだ」という信念傾向があります。映画に描かれている「悪霊」や「呪い」、「我々(塩子ら)が正義の側である」という信念はフィクションではなく、信者が本気で信じている事が反映されています。つまり映画のブッ飛んだ世界観と、実際の教団の教えや体質は非常に共通しているのです。実際に信者たちは、有名人から家族、友人など身近な人まで「悪霊憑き」は身近にいっぱいいて、「現代人の半数は地獄に落ちている」などと信じています。

そして2つ目は”2世信者”の話題です。今作は、主人公が架空の女子高の生徒であり、彼女らが「根本仏」=大川隆法に仕える「塩子」の活躍に感化されるお話です。この名前は大川の妻・紫央(しお)に由来しています。また、高校のロケ地は後述する「幸福の科学学園」であり、授業風景も一瞬、学園のそれと錯覚します。このように、「若い世代への教化・信仰継承」という、2世信者問題と密接に関わるメッセージが暗示されているのです。

さて、たったいま述べた私立学校「幸福の科学学園」は、その名の通り教団が作った、実在する全寮制の中高一貫校です。教団が映画を公開するたびに、学園の全生徒は地元の映画館にバスで動員され、映画を観るのが恒例行事です。その実際の様子は、公式ホームページに堂々と記載があります*1。なので今回の『呪い返し師』も観ていると考えるのが自然です。


教団のプロパガンダ映画を、生徒=2世信者に、学校をあげて観せるのが同学園なのです。

(了)

*1 念の為、アーカイブのURLも貼ります。https://web.archive.org/web/20220121201221/https://happy-science.ac.jp/ntblog/2021/13137/

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