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ゴールデンウイーク・九州

今年は残りわずかとなった国内の未乗の鉄道路線を踏破するという目標を掲げていた。目標を掲げた当日に達成不能になってしまったのだけど、できるところはやっていこうという方針で行くことにした。出かける理由はいくらあってもいいものだ。
早速、5月の連休は九州に行くことにした。長崎に行く西九州新幹線と、福岡市の地下鉄が2駅伸びた区間と、熊本電鉄で線路の付け替えがあった区間がノルマである。GWど真ん中の遠征なんて直近10年で記憶にないが、カレンダー休みの勤め人になってしまった以上しょうがないので、最繁忙期価格を甘んじて支払う。

0日目・東京

5月2日夜、バスターミナル東京八重洲。今回の旅のファーストランナーはオリオンバス8041便、東京と福岡を結ぶ日本最長距離を走る高速バスだ。「水曜どうでしょう」で有名になったはかた号は新宿発なので、こちらの方が僅かに距離が長い。

青森と福岡が同時に表示される発車案内

ひっきりなしにやってくるバスのそれぞれに対して、どこそこ経由のどこどこ行とアナウンスが入る。連休前夜とあって、荷物を抱えた人も多い。グループは別れの挨拶をしたり、期待に胸を膨らませたりして祝祭感に満ちている。
今夜の福岡行は2台口で満席。小倉までは降りられないバスに、50人以上の猛者が集う。同行の志士たちはこの出立の時を前にして浮足立っていない。九州までバスで行こうと考える者どもは只者ではない。21時ちょうどにバスがやってきた。福岡営業所持ちのドライバー2人体制。手荷物を預けて車内へ。やはり凪いでいる。
バスは定刻に出発し、早速運転手から挨拶を兼ねたアナウンスが入った。曰く、「最繁忙期につき4時間遅れる可能性がある」と。さすがに脅しだろうと思った。前方からETCの車載器の音が聞こえたので首都高に乗ったのだろう。しかし、ちっともスピードが上がらない。早速谷町JCTで詰まっていた。
高架橋のジョイント音が静かになったから東名に入ったであろうが、制限速度が60km/hから100km/hになったとは思えない。またも詰まってしまい、地図を開いたら横浜町田IC手前の十日市場であった。ここまで1時間。アナウンスは脅しではなかったと理解した。最初の休憩は駿河湾沼津SAの予定が中井PAになってしまった。

1日目・~福岡~長崎~熊本

翌朝、福山東IC~福山SA間での事故渋滞にも嵌り、終点のHEARTSバスステーション博多には2時間45分遅れの14時20分に到着した。あんまり遅れたものだから鳥栖JCTの渋滞が福岡県内まで伸びてくる事象はすっかり解消していた。小倉で降りてもいいと案内があったけど、「毒を食らわば皿まで」の精神で博多まで乗りとおした。同好の士が10人くらいいた。
九州に入ってからの旅程は熊本で宿泊する以外は予定を決めていなかった。前日に博多~長崎の乗車券は手配していたけど、変えてもいいやくらいに思っていた。なお指定席部分は乗り遅れ扱いで無効である。
前線司令部での検討の結果、長崎先回りという案で確定し、その前に福岡市営地下鉄七隈線の博多~天神南を乗りつぶす。VISAカードのタッチ決済で乗れるのが新鮮であった。
長崎に到着し乗ってきた車両で折り返す。滞在時間は18分であった。次の諫早で島原鉄道に乗り換えて、島原へ向かう。最速の新鳥栖まで引き返すルートはあまりに味気ないので、島原港から有明海を突っ切る高速船に乗り継ぐルートを採用した。ここで呼吸を整える。

日本画のような景色

島原港で列車から船への乗り換えに30分ほど時間があったので駅のそばのスーパーに駆け込む。熊本に着くのが21時前なので、先んじて夕飯を調達しようという企てである。結局物珍しいものしか買わなかったので、熊本でもスーパーに駆け込むことになった。ゆめマートは首都圏にないから許してほしい。

海産品が島原で購入したもの

「スーパーのお惣菜」と言ってしまえばわびしい食事に見えるだろうが、鮮魚の湯引きを酢味噌で食べるスタイルは首都圏ではまずもってお目に掛れないので、大変貴重な体験をしたと思っている。これだから旅先のスーパー巡りはやめられない。もちろんトロトロに甘い醤油も購入した。麦味噌も1kg入りだったけど購入した。既に荷物が重い。

2日目・熊本~北九州~

朝のうちに熊本電鉄で御代志まで行きノルマを片付ける。でかでかとくまモンが描かれた車両ながら、中身は東京メトロのままなので少し不思議な経験。

左から先々代の三田線、先代の日比谷線、先代の銀座線

御代志に着いたら都合よく熊本市内に戻るバスがいたので飛び乗る。ほぼ来た道と並行するが、乗り物が変われば景色が変わる。
前日に長崎を片付けたので、この日のノルマは熊本電鉄に乗ることくらいで、あとは帰りのことだけを考えればよかった。旅程としてはゆとりが有り余っているので、熊本~阿蘇~杖立~日田とバスを乗り継いで、BRTに転換した日田彦山線に乗ろうと考えていた。
これでもまだゆとりがあるから阿蘇で少し観光しようと、早い時間のバスに乗れば阿蘇山まで行けるぞと、そのために早起きして御代志往復を片付けたのである。
このオプションが裏目に出た。通町筋から乗った阿蘇山上行きのバスは、阿蘇のカルデラに入って山体に差し掛かってから渋滞に嵌り、草千里までで5時間も掛かってしまった。

バス後方に見える駐車場待ちの列が5km以上伸びていた

2日連続の旅程崩壊である。早々に下山しようにもバスのダイヤも崩壊しているのでいつ来るとも見当がつかないが、バスロケなんて大層なシステムはないのでひたすらバス停で待ち続ける外なかった。標高1000mの草原で延々と風に吹かれながら2時間立ちんぼをした。
阿蘇駅に戻ってきた時点で17時を回っており、熊本に戻って新幹線に乗らないといけないことが確定した。高速な幹線交通のおかげで何とかなっているともいえる。熊本駅で球磨焼酎を買い込み(また荷物が重くなる!)、一路北九州へと向かった。

3日目・~太平洋~横浜

まだ2日目の途中であるが、話題の都合でいったん区切りを入れた。

今回の九州からの帰路には2021年に就航した東京九州フェリーを選んだ。港は新門司ながら、小倉から連絡バスが出ているので前後のアクセスは悪くない。
御多分に漏れず満席だったけど、そもそも船体が大きくてパブリックスペースが広いので「混雑している」という印象は受けなかった。あちこちに居場所があって船室でじっとしていなくてもよいというのはとても良い。

いかの姿フライ以外は熊本で買った晩酌セット
朝食の洋風プレートセット
オープンデッキでのBBQ抽選を勝ち取った
ディナーのカジキポワレ

ご覧の通り、船内の娯楽のメインを張るのは食事になるが、食堂ではなくレストランとして営業していることを考えると相応のお値段かなと感じた。食に重きを置かない人には割高に見えるかもしれない。海況という当たりはずれの大きい要素があるが、21時間掛かることを許容できるならオススメしたい乗り物であった。

旅情は何処にありや

鉄道旅行の醍醐味は旅情にあると言われることが多い。飛行機で行けばもっと早いし、クルマで行けばもっと自由に行動できるのに敢えて選ぶ理由としてわかりやすいものである。
その旅情の源泉を考えると、係員と旅客の接点の多さは一つの有力な候補であろう。しかし、昨今の鉄道会社は様々な事情から係員と旅客との接点を削減する方向に施策を進めている。インターネット上で手続きをあらかじめ済ませておけるのは一見便利ではあるが、事情を知らない土地のことでそういったことをするのはハードルが高いものである。通勤や通学といった普段使いに特化した鉄道は、どんな田舎であっても「メトロ化」していると言える。
「メトロ化」した鉄道は日常の乗り物である。そのシステムには、聞いたら教えてくれる人とか、ちょっともたついても許される時間的ゆとりとか、大きな荷物を置いておく空間的ゆとりはない。駅に貼ってある時刻表がなくなるとか、でっかいスーツケースの取り回しに困るとか、コンビニはあれど食べるところがないといった現象の根っこはここにある。鉄道会社のみならず、「メトロ化」した鉄道を普段使いしている人にとっても、非日常を持ち込まれるとちょっと「メイワク」なのである。(カッコつきカタカナで書いた諧謔を踏まえてほしい)
今回の旅行で、バスターミナルで流れる肉声の案内放送に、手荷物を預かってくれるバス会社に、レストランを営業するフェリーに、かつて鉄道が有していた旅情の要素を見出した。
「メトロ化」というキーワードについては勢いで出てきたものなので今後の検討課題とする。

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