【株式保管委託要件】M&Aイグジットでストックオプションの税制優遇を受ける方法
#0. QUICK TAKE
上場イグジットだけでなく、M&Aイグジットでも税制適格SOの税制優遇を受ける方法はある。
ただしその手続負担は軽くない。証券会社との契約締結、SOホルダー全員の証券口座開設、株券発行会社への移行(=株式を紙媒体で発行)が必要になる。
そうした手続きに1~2か月かかってしまうこともあるので、M&Aのスケジュールとの関係で要注意。
#1. M&Aイグジットの際の扱いは意外と知られていない
スタートアップの多くがストックオプションを発行し、メンバーのインセンティブとします。
よく用いられるのが税制適格ストックオプション。法定の制約を受けることと引き換えに、課税タイミングを株式譲渡時まで繰り延べ、かつ最大税率約55%の総合課税を回避し、税率約20%の株式譲渡益課税のカテゴリーに落ちる非常に魅力的な税制優遇を受けることができます。イグジットの金額が大きいほど、恩恵も大きくなります。
上場イグジットで税制優遇を受けることはごく普通に行われますが、M&Aイグジットの際に税制適格ストックオプションのホルダーが税制優遇を受けるためにはどうすればよいか、相談を受けることがよくあります。
※前提:未上場スタートアップ、税制適格ストックオプションを発行・割当済み、株式譲渡によるM&Aイグジット
#2. 紙媒体の株券を発行、証券会社に管理を委託
M&Aイグジットの際に税制優遇を受けることは、実は簡単ではありません。
証券会社と契約し、SOホルダー全員に証券口座を作ってもらい、紙媒体の株券を発行して、証券会社に株券の管理を委託する必要があります。
#2-1. 具体的ステップ
(1)まず、発行会社が証券会社と契約を結び、株式の保管事務等を委託します。証券会社への委託手数料が発生します。
(2)SOホルダー全員が、証券口座を開設する必要があります。
(3)株券発行会社へ移行します。物理的な、紙媒体の株券を発行することになります。平成16年(2004年)の商法改正で株券不発行制度が導入され、現在では株券を紙媒体で発行する会社は多くありませんが、ある意味時代に逆行することになります。
必要な法的手続きは、株主総会(特別決議)による定款変更(会社法214条、466条、309条2項11号)と登記(同法911条3項10号)です。
(4)SOホルダーがSOを行使し、発行会社が株券を発行し、証券会社にその保管を委託します。(元)SOホルダーは、当該株券をM&Aの買収者に売却するなどし、証券会社に媒介手数料等を支払うことになります。
#2-2. M&Aスケジュールへのリスク
検討開始から証券会社による株券保管開始まで、1~2か月は平気でかかってしまいます。特にSOホルダーの数が多い場合、全員分の口座開設など事務手続きが煩雑になり時間がかかります。
これは、スピーディーにM&Aのディールを完了させたい場合に、大きな障害になりかねません。しかし、だからといって株式保管委託要件を満たさない形で進めてしまうとSOホルダーが税制優遇を受けることはできないことになるため、SOホルダーへの経済的補填についても検討しなければならない可能性がでてきます。
少なくとも言えるのは、M&Aの際、税制適格SOホルダーが税制優遇を受ける事ができるようにする場合は、上記手続を織り込んでスケジューリングする必要があるということです。
#2-3. 法的根拠
なぜこんなに面倒なことをしなければならないのか。その法的根拠は、租税特別措置法にあります。
税制優遇を受けるためには、同法に定められた全ての要件を漏れなく満たさなければならず、今回問題になるのが、そのうちの株式保管委託要件です。
要は、SO行使によって得られる株式が
①ホフリ(証券保管振替機構)が管理している
OR
②証券会社に保管委託されている
ことを求めています(信託は一旦捨象。)。
上場すれば、必然的にホフリが株式を管理することになりこの要件を満たします(したがって上場イグジットの場合株式保管委託要件はハードルにならない。)。
M&A イグジットの場合、ホフリの選択肢は無いので、証券会社に保管委託することになります。
そして、証券会社への保管委託にあたっては、以下のとおり、株券発行会社となることが前提とされており、またSOホルダー全員が口座開設することが求められているのです。
以上、M&Aイグジットで税制適格SOホルダーが税制優遇を受ける方法でした。(おわり)
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