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都会から地方への税金移転の限界

高度経済成長期を過ぎ、ニクソンショック、オイルショックを経て都会と地方の経済格差が誰の目にも現実の問題として現れだした70年代末に、一村一品運動が起こりました。

一村一品運動は、各自治体で特産品を作って、自治体の外の人がそれを購入することで地方に外貨(同じ国ですが)が来るように持っていくという、政策と言うよりはまさに運動だったわけですが、実際にはそんなに旨い話はなく、もちろん実行出来た村や町はあったにせよ、全国的に見れば地方の苦境は続きます。

その後も過疎と過密の社会問題は一層深刻さを増していき、バブル景気の最中である竹下内閣の時に、ふるさと創生事業として、各市区町村に一億円が交付されました。

一億円の金塊で話題になり、人々の記憶にも残った事業でしたが、当然ながらこれだけで地方創生、村おこし、町おこしで成功した自治体もごくわずかでした。

バブル崩壊後は、地方だけではなく日本全体での不況と低成長が続き、「失われた10年」、「失われた20年」、「失われた30年」と、経済成長のないデフレの期間がただ延びています。

2010年代に入り、ふるさと納税というフレームで、都会の税金を地方に移転させるようになりました。もちろん代価があってのことですが、その代価は税金を受け取る自治体と、納税者の間のやり取りであって、税金が流出する自治体はマイナスだけが発生するので、これも事実上の都会から地方への富の移転です。

納税者から自治体へのお金の移動という観点で見ると、一村一品運動→ふるさと創生事業→ふるさと納税と進むにつれて、より直接的にお金の移動、富の移転が行われるようになりました。

一村一品運動→消費者が資本市場で特産品を購入して自治体の税収増
ふるさと創生一億円→国が税金を自治体に移転
ふるさと納税→納税者が税金を自治体に移転

ふるさと納税でも創意工夫をこらして税収を増やした自治体もありますが、当然ながらみんながみんな税収増になっているわけもなく、またあくまで納税者にとってお得になりそうな見返りがないと利用も増えないので、税収増にも限りがあります。

これでも都会・地方の格差問題が解消されなければ、後の手はあるでしょうか? 税金という富の移転で追いつかなければ、人そのものを動かすしかなくなります。

コロナ禍で脚光を浴びたテレワーク、在宅勤務によって、都会に住まなくても都会での仕事が出来る!と思われましたが、当然ながら実際には一部の仕事しか対象になりません。

都心の中心地の不動産価格は高いにしても、少し離れればまだまだ住宅はありますし、なにより地方に比べて医療、福祉、教育あるいは買い物や娯楽などで格段の住みやすさにつながります。

仕事をする場所だけ地方に移転するにも無理があります。教育はコロナ禍での遠隔授業がテストケースになりましたが、都会の進学校に通う生徒が地方に住むことは出来ません。医療にしても遠隔手術の可能性がようやく始まったところです。

後は住民票だけ自由に動かせるようにするくらいでしょうか? それにしたって住民税と住民サービスが不釣り合いになってしまいます。住民税を払っていない人に対する自治体のサービスというものが必要なのか。不公正、不平等がつきまといます。

日本国は連邦制でもなく、地方自治体の独立性は限定的なため独自の財源も限られてきますが、こうなると何かの税目の国税から地方税への変更を行うか、自治体独自の課税を認めるくらいでしょうか? と言っても、増税したらむしろ人も企業も逃げますから逆効果になるのは間違いありません。

いっそのこと、森林が多い自治体と人口が多い自治体の間で、二酸化炭素排出量取引のような、自然環境税の移転でもしましょうか。

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