ドゥテルテ引退にフィリピンの民主主義的矜恃を見る

フィリピンのドゥテルテ大統領が、来る大統領・副大統領選挙に出馬せずに政界引退を表明しました。憲法での大統領多選禁止を事実上回避する策として、娘が大統領、本人が副大統領に就くという仰天プランを狙っていましたが、大統領に何かあれば副大統領が昇格するために憲法違反一歩手前になるのは誰の目にも明らかでした。

そのため、副大統領プランは当初から厳しい批判にさらされていましたが、政界引退によって長女がその後を継げるかどうかが焦点となりました。

権力者が法の盲点を突いて傀儡政権を作って自分が陰の実力者となる、ということはよくある話ではあります。日本の政界でも院政とか闇将軍とか影のフィクサーとかキングメーカーとか言われますが、公的なナンバー2に就くことはありません。

実現しなかったものの、今回のフィリピンのケースに似ていたのは、かつてのロシアのプーチン&メドベージェフのタンデム体制です。連続3選禁止の憲法規定を回避するために、プーチン大統領は議会第一党当主になり、後継大統領に子飼いのメドベージェフを当選させて、法的にはナンバー2になりました。

実際にはプーチン首相が事実上の最高権力者であることは衆目に明らかでしたが、いけしゃあしゃあとしっかり任期を務めて、次の大統領選で入れ替わって、プーチン大統領&メドベージェフ首相に入れ替わって、今まで権力を維持しています。

それどころか憲法改正で任期を6年に延ばし、さらに大統領権限を議会に移す布石を打っていますので、次は議長職に就いて結局は最高権力者であり続けるであろうと目されています。

中国の習近平国家主席も2期10年の制限を撤廃してしまいましたので、プーチン大統領同様、国家の最高権力者としての地位を終身で保つのだろうと思われます。

それら独裁権力が支配する2大国に比べれば、今回のフィリピンは良識を示したと言えます。ドゥテルテ大統領が良識ある政治家と言って良いかどうかは別ですが、民主主義国家としての最低限の矜恃は示せたのではないでしょうか。

次のフィリピン大統領は、元世界チャンピオンのプロボクサーであるパッキャオ氏も立候補を表明していて、与党内の候補が結構華やかです。中国の南シナ海進出に対抗するため、日本にとってはフィリピンとの関係は重要です。日米豪印によるクアッドや、米英豪のAUKUSが対中国の抑止政策としては大きなものですが、南沙諸島における直接的な脅威に面している、フィリピン・ベトナム・マレーシア・インドネシア・タイなどとの軍事上の連携や協力を考えると、次のフィリピン大統領は日本にとっても重要なトピックです。

今の日本の政界を巡っては、自民党総裁選と衆院総選挙が最重要な話題になるのは当然ですが、近隣でも結構重要な選挙があることは忘れないでおきましょう。

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