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法律は歴史に基づく

ミャンマー情勢は報道を見る限り正常化の兆しも見えません。ミャンマーほどではないせよ、隣国のタイでも軍事政権の支配が続いています。

タイでは立憲王制が敷かれていますが、ちょくちょくニュースで見かけるのが、王家に対する侮辱罪、いわゆる不敬罪での摘発です。立憲君主制の国でもイギリスや日本のように不敬罪が無い国もあれば、タイやサウジアラビアのように存在する国もあります。

タイの不敬罪は罰が厳しく、また軍事政権に抵抗する反体制派を弾圧する口実にも使われているため、国際的にも非難されています。しかし、近代国家ではよそから概念を導入して新しく作った法もあれば、歴史に基づく慣習法もあります。タイの不敬罪はどちらかというと後者の方であって、ラーマ・ティボーディー一世が1351年に政府侮辱に関する法律を作ったそうです。

14世紀の時点で存在していた慣習を法律に改めたので、それ以前の伝統を考えると、タイの地域での不敬罪という概念を西欧的価値観で取り除くのは難問かも知れません。

それでも、不敬罪を恐れず国王や軍事政権を批判するデモも繰り広げられていますので今後は分かりませんが、どちらにせよ国際社会の圧力よりもタイ国民の要求が重要なのは言うまでもありません。

そもそも軍事政権が出来上がるのはクーデターを許す土壌があるからですが、民主主義が成立していても軍部がクーデターしかないと判断するとそうなってしまいます。戦前の日本においても、大正デモクラシーは昭和に入ると五・一五事件、二・二六事件に対して結果的に無力でした。

民主主義自体もよく批判されますし、最高の制度でもないでしょうけれど、代わりになるものはそもそも比較になりません。

人数が多い集団の不利益になるが必要な大事なことを、多数決だけで決めると当然ながら実行出来ません。

それに対して批判や絶望した人が政治から離れ、また次の多数決ではもっと差が開き、独裁政治が成立するか、あるいは、多数派の中で少数派が分離して、多数派が少数派を無視して少数派が絶望し、同じことが繰り返されます。

それでも独裁的民主主義なら少なくとも多数派の利益になる政策だけは実行されますが、均衡した少数派による多党乱立状態になると、連立政権が出来ては潰れて政治が麻痺する可能性もあります。

不敬罪廃止にしろ民主主義導入にしろ、その国の歴史に影響されますし、状況とタイミングが適切ではないとどうにもならないでしょう。西欧的リベラル的価値観は、大まかに見れば正しいでしょうし、たいていの地域で導入した方が良いのは良いのでしょうけれど、無理矢理やると失敗します。

西欧的価値観を全力で否定し始めているのが中国政府であり、香港での弾圧に象徴されていますが、そもそも民衆を弾圧するのは東洋的価値観でもダメなのですけどね。

「苛政は虎よりも猛し」
とは孔子の言葉ですが、世界中に孔子学院を作ってきた中国共産党の人は孔子を否定したいのか持ち上げたいのかどっちか分かりませんね。孔子学院は最近、現地政府に警戒されて潰され始めていますけれど。

同じ中国の故事成語なら、
「民の口を防ぐは水を防ぐよりも甚だし」
と言うのもあります。歴史を否定する共産主義らしく、中国政府は人民の反対意見を押し潰していますが、東洋的価値観にも西欧的価値観にも合致しない中国は今後どうなるでしょうか。

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