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サッカークラブの戦術と戦略

一般的には戦術が局面的・局地的・短期的な対応のためのもの、戦略が総合的・長期的な対応のためのものだとされていると思います。

「戦」術・「戦」略とは言っても、戦争以外でも日常的に使用される言葉になりました。ローレンス・フリードマンの書いた「戦略の世界史」においては、戦争以外に政治、社会運動、革命家、企業ら多くの個人・団体が戦略的な言動を取ってきたことが指摘されています。

戦略の世界史(上)
https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/17645
戦略の世界史(下)
https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/17646

当然ながらスポーツ、プロチームでも戦略も戦術もあるでしょう。サッカーでも分類出来ると思います。

試合の際に、自チームの状況や相手チームに合わせて選ばれるスターティングメンバーやフォーメーション、試合中の選手交代などは一番小さな戦術、いわば「小戦術」です。

数試合を通じて、選手のコンディションや調子、前の試合結果や次・その次の試合に備えて選手起用や小戦術を検討する「中戦術」。

シーズンを通して貫かれる方針や、リーグや世界のサッカーシーンでの流行にも影響されるような、中戦術や小戦術の土台となるのが「大戦術」と言えます。

監督・コーチ陣・選手が検討・実行するのが戦術に当たるとすれば、クラブ経営者・幹部・GM・強化部が担当するのが戦略となります。

数ヶ月や一年の範囲で行われる、選手獲得、監督やコーチの招聘、そして成績やチーム状況に応じて為される解任などが「小戦略」となるでしょう。また、経営面でも試合時のイベント開催やファンクラブ・シーズンチケットの特典、さまざまなメディア・SNSでの広報戦略もあります。

一年だけではなく、数年レベルでのチーム作り、選手獲得・育成、経営面でも数年レベルでの財務状況や人事を考えていくのが「中戦略」。

そしてサッカークラブの場合は何十年も続くクラブのフィロソフィーというものが存在しますが、それが「大戦略」に当たります。

FCバルセロナのように誰もが認めるフィロソフィーを持っているクラブですとか、あるいは同じくリーガ・エスパニョーラで言えば、バスク人で選手を構成するアスレチック・ビルバオのようなクラブもフィロソフィーが長年に渡り保たれているクラブです。ビルバオの場合はクラブレベルの話でもないですが。

Jリーグでフィロソフィーがしっかりしているのは鹿島アントラーズでしょう。ジーコイズムと言い換えることも出来るでしょうけれど、30年近く継続する方針であり、クラブそのものでもあります。

読売クラブ時代からの歴史と伝統を持つ東京ヴェルディ1969も、長くJ2暮らしが続いていますがアカデミーから技術の優れた選手を育成している方針は全く変わっていないように思います。

アカデミーからの選手育成については、当然ながらガンバも長く成果を出し続けています。宮本、稲本、大黒、家長、宇佐美、井手口、堂安、食野と欧州移籍した選手だけではなく、ガンバ含めたJクラブに多数選手を供給してきました。

クラブの戦略とチームの戦術が今一番噛み合っているのがここ数年の川崎フロンターレでしょう。経営や広報面での成功と、チーム強化・タイトル獲得での成功を車の両輪のように成立させています。

上手く行かない、予想通りに進まない、対外的な影響に潰されるということはサッカークラブに限らず、戦争でも企業経営などでも起こります。むしろ予定通りに進まない方が当たり前で、それに対してどのように対応していくのかということが重要であり、それは前述の「戦略の世界史」にある通りです。

サッカークラブの場合、戦略面で成功していれば、戦術面で多少失敗してもリカバリーは出来ます。逆に戦略面で上手く行っていないときに戦術面でも失敗するとやっかいなことになります。

例えば、チーム強化が上手く行かず残留争いに陥ったとき、戦略面(アカデミー育成、財務状況、指導者確保)が出来ていれば、監督交代や緊急補強などで打開できますが、資金難で選手獲得や監督交代が出来ないと打つ手がほぼ無くなります。

また、戦術面、チームの成績が良い状態が続いていても、経営や財務面で大きな失敗を抱えていると、溝畑社長時代の大分トリニータのようにナビスコ優勝&J1リーグ4位の翌年にクラブ消滅の危機を迎えてしまいます。

クラブとしては重要度としては戦略>戦術であり、それぞれにおいて大>中>小の順位も付けられます。重要度と言ってしまうと、じゃあ一年の戦略や一試合の戦術はどうでもいいのかという感じになってしまいますが、言い方を変えると「取り返しの付く付かないのレベルの違い」と言っても良いでしょう。

枝を伸ばして葉で栄養を作り花を咲かせて実を付けるのが戦術・チームであり、根を生やし幹を太くして伸ばして木全体を大きくするのは戦略・クラブという言い方も出来るでしょう。日々の勝敗だけにこだわるのは、言葉通り「枝葉末節」の問題です。見ているファンにとってはもちろん重要ですが、幹の部分を大事にしているクラブが成功している一方で、枝葉ばかりが注目されるクラブも明らかにありますよね。

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