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貯蓄から投資にはセーフティネット

日本人は投資よりも貯蓄を好むと言われます。政府や金融機関が躍起になって税制や広告宣伝を行い、徐々にその傾向も変わりつつあると思いますが、アメリカと比べるとまだまだ大きな差はあります。別にアメリカがあるべき正しい姿であるわけではないので、そこまで行かなくても良いはずなのですが、銀行預金で存在するよりは株式や投資信託や不動産などにお金が回った方が良いと考える偉い人がたくさんいるようです。

銀行が企業に対して十分な融資を行っているなら、別に一般国民が銀行預金中心の資産形成をしていても経済全体で見れば問題ないはずですが、銀行の融資も低調ですし、間接金融よりも直接金融で株価が上昇する方が、色々と得をする人も多いということなのでしょう。

とはいっても、実際に十分な資産がまだ無い一般大衆にとっては、そうそう「貯蓄から投資へ」というスローガン通りには動けません。銀行預金の利率と、株価上昇率の表を見せられたところで、行動に移すにはまた別の準備とモチベーションが必要です。

そもそもなぜ日本人が貯蓄好みになったのかという原因から考えないといけません。政府・銀行・大企業が護送船団方式で経済の発展を牽引していた戦前戦後を考えると、直接金融よりも間接金融が発展するのは道理です。むしろ株価の安定のために株式持ち合いという慣習が生まれたのも、銀行融資で資金調達できるからこそでしょう。

だからこそ、一般市民は株式を買うのではなく銀行預金・郵便貯金を通じて経済に参加すれば良かったのです。銀行は融資のための資金を調達するために、手厚いサービスで個人からお金を預かるというサイクルが生まれました。

ただ、その一連のパターンもバブル崩壊と長期の経済低迷によって失われてしまいました。銀行は企業への融資をためらい、企業は社債や上場・新株発行で資金を調達するようになりました。置いてけぼりになったのが資産が少ない個人であり、銀行預金では数百万円預けていても、一度通帳やキャッシュカードの再発行手数料を取られたらマイナスになる程度の利息しか付きません。

だからこそ、貯蓄から投資に、というお題目が掲げられることになるのですが、大規模な自然災害に毎年のように見舞われる日本において、手元にいざという時のお金をある程度残しておきたいという動機付けは非常に強いものがあります。将来大きなお金になる投資よりも、家や仕事が無くなった時に生きていくための貯金は欠くべからざるものです。

それでもあえて政府なり金融機関なり経済学者なりが、日本国民に投資を進めるのであれば、そういったいざという時に銀行預金を引き出さなくても当面生きていけるようなセーフティネットが充実していないといけません。

特に、旧来の家族観、家族関係が無くなりつつあり、頼れる家族が近くにいない人にしてみたら、投資を最優先に考えるのは難しいはずです。

地震・台風だけではなく、今では大規模な感染症によって仕事が無くなることも頭に入れなくてはいけない時代になってしまいました。

失業保険や生活保護だけでは投資最優先の意識を作らせるほどのセーフティネットたり得ません。永久的なベーシックインカムまではいかなくとも、それなりのものでないと誰もが最初に投資に意識が向かう時勢にはならないでしょう。

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