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発展途上のままの方が先進国にとっては有利という問題

発展途上国から先進国になれる国家となれない国家が存在します。「中所得国の罠」と言われますが、正確に言うと、国民一人あたりGDPが、低所得国から発展を遂げて中所得国になった後、成長が鈍化して高所得国になれないという理屈です。

先進国=高所得国とはならないこともあるのですが、一応はイコールとして考えますと、先進国になるためには、「中所得国の罠」を突破する必要があります。

産業構造を転換することによって先進国に向かう道が開けるのですが、そのためには、内需拡大と産業の高度化が必要になり、そのためには中産階級・熟練労働者の増加が必要であり、そのためには教育やインフラへの投資が必要となります。目先の利益ではなく数十年後を見据えた投資が必要となるのですが、この点が難しいところなのでしょうか。

低所得国の時には、いわばほぼ全ての国民が貧困状態です。そこから発展する中で、どうしても国家の中枢、産業の中心にいる人たちが富裕層となります。少数の富裕層が多数の貧困層から搾取する社会から、多数の中間層・中産階級が存在する社会に転換しないと先進国にはなれないのですが、国家を牛耳っている人たちにとってそのモチベーションやインセンティブが存在するかどうかが、「中所得国の罠」に引っかかるかどうかの転換点となります。

この辺は、道徳・倫理上の問題だけではなく、社会構造や文化、歴史、民族(種族)構成など様々な要因が関係してきます。単に汚職・不正・腐敗を無くすべきだとか再分配がどうとかいうのは目的よりも結果でしょう。ともかくこれは内政問題と言えます。

では国際的に見たらどうなるかというと、先進国は途上国と貿易・取引を行い、食料や資源や部品・原料のほか低賃金での人的リソースを受け取ります。その見返りとして、途上国は先進国から資金を受け取って、高付加価値な商品や設備を購入して発展につなげます。

先進国から見れば、途上国が豊かになって先進国の商品やサービスを購入してくれるお得様が増えるのは望ましいことです。そのためには先進国の高価なモノを買ってくれるくらいまで経済発展してもらわないといけないのですが、先進国の仲間入りするくらいまで発展すると、今度は製品・サービスを生産する商売敵になってしまいます。

言い方を変えると、発展途上国が途上のままである方が、既存先進国にとってはライバルが増えず好都合という見方も出来るのではないでしょうか?

だとすると、途上国において中産階級を作らせないよう、途上国内における収奪構造を維持してもらっていた方が、先進国にとっては都合がいいのでしょうか? 途上国が少数の支配層が多数の非支配層から富を奪って貧富の格差が固定している方が、先進国側には助かるのでしょうか?

そうなると、途上国の非民主的な独裁制を先進国が応援するというインセンティブが発生します。こんな反道徳的なことがあるのか、と思ってしまいますが、かつて冷戦時代のアメリカが反共を掲げる独裁者を支援していたことや、今のロシアや中国が自国に有利な対応をしてくれる非民主的国家を支持することを考えれば、あり得ない話でもありません。

独裁者が権力を維持し、その取り巻き達だけがひたすら富裕になっていく国家では、中産階級の成立など望むべくもなく、先進国にはなり得ません。それでもそれなりの規模の経済があれば、少数の支配層が莫大な富を蓄えることは可能です。

もちろん、先進国や国際機関の全てが、途上国の先進国化を否定しているわけではありません。先進国のライバルを増やさないために独裁者を支援しますと公言する政府が存在するわけもありません。ただ、単に不当な独裁者が収奪構造を維持し続けるメリットが、先進国側にも存在する反倫理的な仕組みは、どうすれば克服できるでしょうか?

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