国外からの批判が権力者を強固にしてしまうジレンマ

独裁政権が常に国民に恨まれているというのはおそらく幻想でしょう。もちろんその政権が終わっていたら色々噴出してくるのでしょうけれど、だからといって独裁政権があらゆる反発を力で押さえ込んでいるから反対者がいないのだ、というのは欧米の民主主義信奉者の理想であって事実とは異なるかもしれません。

ミャンマーにおけるロヒンギャ問題もそうです。難民の人権擁護を重視する人にとってみれば、ミャンマー政権によるロヒンギャ族(ミャンマー側はベンガル人という呼び方をしていますが)への仕打ちはとてつもなく残虐なものに思えて、こんな政権を支持する国民なんていないはずだ、とまで思っているかも知れませんが、ロヒンギャ問題の解決が難しいのはミャンマー国民の大半(その構成がほぼ重なる仏教徒)は政権のロヒンギャ対応を支持しているからです。

それこそ、このロヒンギャ問題が大きく世界的に取り上げられるようになってから、欧米から非難されるようになったアウンサンスーチーがその非難がありつつもロヒンギャ擁護に乗り出さない理由はここにあるのではないでしょうか。ロヒンギャ族への今のミャンマー政府・ミャンマー軍の対応をアウンサンスーチーが非難して別の対応を取るように求めると、国民からの支持を失い、その結果は軍事政権への逆戻りという恐れがあります。だからといってロヒンギャ族虐殺などが認められる訳ではありませんが、国際社会の非難がアウンサンスーチーに集中して彼女の権威・権力が失われてしまうとかえってロヒンギャ問題は悪化しかねないかと思います。

ブラジルのアマゾン大火災についても非難すれば解決するという問題でもないでしょう。

アングル:アマゾン火災、ブラジル国内では大統領批判少なく
https://jp.reuters.com/article/brazil-environment-politics-analysis-idJPKCN1VK0L1
ブラジルのボルソナロ大統領は、アマゾン森林火災への対応をめぐり、国際舞台では欧州の指導者たちや環境保護グループから激しい批判を浴びている。しかし、国内で大統領の対応の鈍さに怒る国民は少ない。

ブラジルでは権力者の腐敗が長く続きました。また、アウンサンスーチーのような国際的に知名度と人気があるような人も権力中枢には居ません。そうなるとポピュリズムを掲げる政治家が支持を集めやすくなります。そんな中で誕生したボルソナロ大統領ですが、アマゾンの森林に火を付けたのは環境保護NPOだというものすごい理屈を持ち出していますが、それが真実か嘘かはブラジル国民にとってはあまり重要ではありません。ブラジル対外国という図式が成立してしまえばアマゾンはブラジル国民の資産であり、その資産に手を突っ込む外国勢力を排除する大統領が英雄となってしまいます。

それならそんな独裁者を排除してしまえばいいのではないか、という考えが出てきかねませんが、独裁政権を排除した後に待っているのはユートピアではなく大混乱であることはアフガニスタン・イラク・リビアなどを見れば間違いありません。独裁政権が成立した土壌を変えないまま独裁政権を存在できないようにすると権力の集中が行えず、国家としてのまとまりがなくなります。政府は唯一の合法的暴力装置でないと国家が成立しないのですから当たり前と言えば当たり前です。

少し前にアップしたこちらのnoteにも関連しますが、

悪の独裁者をすぐに排除してしまうとすぐに次の悪が広がります。そして雑草のように次の悪は前の悪よりも悪い意味で強固になります。独裁政権を国外から擁護や黙認するのはもちろんダメですが、ただたんに非難したり軍事力で排除したりしても結果的にはむしろ悪化するかも知れない、ということは常に考えておくべきことでしょう。

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