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冬の海

春が来る前に海を見に行きたいと思っている。
海を肉眼で見たのは、小さいころ家族で海水浴へ行ったときと、部活の合宿で少し。どちらも真夏のことだった。
冬でなくてはいけない。夏はおろか、春でも、秋でもいけない。私はいま、冬の海をみたい。

きっと冬の海はあまり人が居なくて、閑散とした空気が冷たい風となって私を「寒っ」と言わせるのだと思う。静かで、さびしくて、とてもとても親しみの持てる場所なのだと思う。

適当なおしゃれをして、ケータイと、できるだけのお小遣いを持って。最寄りの駅で小さなインスタントカメラを買って。
電車の窓から海が見えるのだ。それはキラキラと太陽の光を反射しているかもしれないし、曇りのグレーに飲まれて、どんよりとかさついているかもしれない。とにかく私はそれに小さく舞い上がって、インスタントカメラのフィルムを1枚減らす。
海についたら、しばらく砂浜を歩いて、それからぼーっと海を眺めて、同じようなアングルの写真を何枚か撮って。
帰りの電車に乗る直前、フィルムが1枚余っていることに気がついて、小さな喫茶店で、小さなクリームソーダを頼んでそれを被写体にする。
インスタントカメラを買ったお店でまた現像を頼んで、その間にまた別の喫茶店で何か食べて、現像された紙切れを受け取ってから家に帰る。

ひとりでふらふらとしたいものだけれど、やっぱり大好きな人と行くのも憧れてしまう。
例えば私が、海行きたい、って呟いたらあの人が、
冬なのに?と笑って、私は、冬だからだよ、と答える。じゃあ今度の日曜行く?なんて言うから私は、わっ!、と嬉しくなったのを必死に押さえ込んで、うん、行こう、ってやわらかく笑う。
まぁ、これがひとつでも実現するはずはないのだけれど。


こんなことを考えていた。月に1度(仮に毎月の最初の日曜日としよう)、自分がなにか素敵だと思うことをひとつする“素敵の日”を作ろう、と。
例えばそれは、真冬に海へ行ってみるだとか。花屋で気に入った花を好きなだけ買うでもいいし、普段入らないような、少しおしゃれな喫茶店へ行くでもいい。真新しくて私にはまったく珍しい服を着て、さらにファッションウィッグなんかをつけて一日過ごしてみるとかも面白いかもしれない。
とにかく、自分が「これやりたい」と思ったことをやる日を作れば、少しだけ生きるのが楽しくなる気がするのだ。次は何しよう、って考える時間も含めて。
ただひとつ問題があるとすれば、私の行動力だ。休日はいつも屍となっている私にとって、自分で朝起きて、自分から出かける準備をして、自分から家を出る、なんてことの難易度がそれはそれは高い。

それでも、頑張ってみようと思う。無理そうなら無理でいい、そう思いながら生きていきたい。
とりあえず、冬が終わる前に、海に行ってみようと思う。

追記
この下書きを一日おいて、なんだかどうでも良くなってしまってやっぱり実際には行かない気がしてきました。身近で簡単なことから始めることにします。どうせ生きるしか道がないのだから、少しでもそれを好きになれますよう。


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