17歳、日記

私はもう17歳なので星乃珈琲に1人で入れる。
本来2人で囲むためのテーブルの、奥側に1人で座った。仕切られた隣の席には女の子2人(『新歓』というワードが出ているあたり大学生だろう)、そして顔をあげれば男女がメニューを見ている。あ、右隣の席にもおひとり様が来た。
細身で背の高いクールな女が注文を取りに来た。お冷を持ってきてくれた店員は感じのいい太った女性だったのだけれど。どっちも素敵な女性だったけど、私はそのどちらにもならないな、と思った。いちごの乗ったパンケーキを注文した。

私は17歳だ。17歳の女の子は好きな人に髪型を褒められると無双できる。だから1人で珈琲店に入ったし、さっきだって1万円分の図書カードを握って本屋に行き、出てくる頃には図書カードと一緒に千円札が2枚ほど消えていた。
まだ買っていない漫画の新刊と、「うみべの女の子」と「ソラニン」を手に取って、あとは気になっていた小説を4冊くらい買った。...バイトをするなら和菓子屋がいいな。

パンケーキが運ばれてきた。今度はあの気の良い女性だ。やっぱり素敵だ。たしか女芸人に似た人がいた。(もちろん良い意味だ。)
机に乗せる直前、上に乗ってるいちごが倒れた。あ〜あ。
「すみません、いちご倒れちゃいました。直してきますね!」
あ、いいんです。そのままで大丈夫です。
例えばこれが感じの悪い男相手だったら、少し顔をしかめて「おねがいします」を言っただろう。
いちごを倒したのがあなたで良かった。今日私をはじめて笑わせたのはあなたですよ。
そう口に出してしまえば良かった。何しろ今日は無双モードなのだから。

パンケーキはふわふわで美味しかった   店を出ると雨がふっていた。これが物語の中で、私が主人公だったならきっと快晴のはずだ。この世界の主人公はまだ、東京の郊外の珈琲店の、感じのいい女性店員を知らないらしい。「主人公」が彼女と結婚でもしたら、きっと毎日のように晴れるだろう。そしたら作物は育たず女性は悲しみ、今度はずっと雨が降るかもしれない。


17歳はもう大人だ。少なくとも子供ではないし、なにより少女じゃない。14歳のとき、私は少女を棒に振った。そもそも14歳のとき私は少女を知らなかった。教室のすみっこで本を読んだり、架空の探し物をしている自分が恥ずかしかったし、クラスの中心で、甲高くて大きな笑い声を上げている女の子が勝ちだと思っていた。16歳のときにぜんぶ分かって、取り返しのつかないことをした、と思った。結局道は前にしか無いし、歩くことを強制される。
けれども私の中の少女は、決して彼女のようには笑わない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?