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逃げ延びるために本を読む

暇というわけでもなく、これといって大きな事件が起きるわけでもなく、時間がさらさらと流れていく。バイトをしているおかげで、曜日の感覚は失わずに済んでいるけれど、今はただただ退屈で仕方がない。

私が生まれ育ったこの土地は美しいけれど、日本に住んでいればどこにでも感じることのできる美しさなのだと思う。目を見張るような特徴的な文化があるわけでもないし、荘大な大自然に圧倒されるわけでもない。ひたすら続く農地と、それを区切るまっすぐな道路、連なる家々。いくら車で走ったって、景色はいつも同じ。平野の隅に立つ青い山々が、少し大きくなったり小さくなったりするだけだ。

道路で区切られた田んぼにはまだ水が張っていない。今の時期は麦が植えられている。緑色の畑は、あるタイミングで突然、示し合わせたようにいっせいに金色に染まる。植えた時期はバラバラなはずなのに、不思議だなと思う。そして、ずんぐりした見た目の割に動きの素早いコンバインで、どんどん刈られていく。

麦畑は好きだ。背丈の揃った麦と、どこまでも広い空だけがそこにある。雲雀の鳴き声がかすかに聞こえてくる。情報量の少なさが、心を静かに、穏やかにさせる。こういう景色があるところに生まれてよかったと思える。

そういう気持ちがあっても、やっぱり退屈で仕方がないのは変わらない。5年や10年、あるいは30年や50年、麦畑を眺めながら穏やかに暮らすことはできない。馴染んだ土地ではあるし、愛着もあるけれど、生涯を共にする場所ではないと思う。

こんな田舎、とっとと出てやるぜ!と言えたらかっこいいけれど、きちんと職についているわけでもなく、貯金も体力もないし、病院に通いながら毎日薬をもりもり飲んでて、生活は実家頼みで…。全然ダメだ。何一つ、ここから離れられる準備ができていない。

ちょっと働いて、ちょっと家事を手伝って、ちょっと車の運転をして、こんな「ちょっと」の積み重ねでもへとへとになって、休みの日はほとんど眠っている。心のどこかで「この穀潰し…」と静かに自分を責める声が聞こえる。疲れているときほど焦る。こんなところで若さを消費している場合じゃない……

ありがたいことに、自分の周りの人たちは優しい。なんとかなるよ、今はこれでいいんだよと言ってくれたりする。でも、毎日孤独を感じるし、ふとした瞬間に、泣きたいような、いてもたってもいられないような寂しい気持ちになる。

最近は、それを紛らわすように次々と本を買って読んでいる。直接悩みを解決してくれるような本も読むし、全くそうではない本もある。

一番「そうか、自分にはこういう本が必要だったんだ〜!」と思ったのは「発達障害サバイバルガイド」というタイトルの本。発達障害を持つ人が、うまく生きていくためのさまざまな方法が載っている。
私自身は発達障害と診断されたことはないけれど、生活する上での困りごとが多いので、もしかしたら助けになるかも…と思って読んでみた。すると、自分が生活の中でつまづいているポイントが具体的にわかってきて、納得すると同時に、なんだか感動してしまった。結局は自分を受け入れるしかないんだなあ〜という、いい意味での諦めのような気持ちも湧いてきた。ここ最近で一番有意義な読書になったと思う。

他にも、ずっと気になっていた漫画や、新書、文章の書き方の本を買った。全部読んだ本もあれば、詰んだままになっている本もあるけれど、本が自分のすぐそばにあっていつでも読めることが大事なのだと思う。本を読むのに集中していると、ここではないどこかに逃げているような感覚になって、それがとても心地良い。いちばんひどく心を病んでいた時期は全く活字が頭に入ってこなかったので、今はあの頃より良くなっているんだな〜と分かるのも嬉しい。

環境を物理的に変えるには、気力も体力もお金もいる。読書はその真逆で、一冊の本だけで、自分の精神の内側の世界に潜っていくことができる。毎日読書をしているような人にとっては常識なのかもしれないけれど、現実に飽き飽きしている身にとっては嬉しい発見だった。

もちろん、本が全てを解決してくれるというわけでもなくて、いくら読書に没頭していても、孤独なときは本当に孤独を感じるし、全く本を読む気になれない日もある。本に勇気づけられた次の日、生きてるの嫌だな〜という気持ちが止まらなくなったりする。
そういう時は本の世界から現実に戻って、寝たり働いたりお菓子を作ったりしながら、時間を稼ぐ。するといくらかは楽になって、また本を読めるようになる。

…この記事を書きながら気づいたけれど、「しんどい時間をやり過ごす」とか「つらさを紛らわせて現実から逃げる」みたいなことは、たしか以前にも散々書いていた。ということはつまり、少なくともその時のつらさは無事に消化できているから、今に至るということなのだろう。

だから今度も、読書をして、他のこともやって、時間の流れからうまい具合に目を逸らせたらと思う。そうしているうちにまた別の、麦畑ではないどこかに流れ着いて、少しは楽に生きられるような気がする。



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