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1つのピース

毎朝起きて、仕事をして、寝て、それを5日繰り返して、寝て遊ぶ2日を過ごして、また月曜がやってきて。

この生活をあと何年繰り返すんだろうか。
65で仕事を辞めるとして、あと40年。いや、どんどん寿命が延びて50年かも。
自分の生きてきた時間の倍、これを繰り返すのか。
だったら早く死んでもいいような気がする。
別に自分から死にたい訳じゃないけれど、いざ死ぬとなったら「やり残した」と思うことなんて、たぶん無い。

人生の先輩方はどう思っているんだろう。
結婚して子どもができたら、長生きしたくなるんだろうなというのは、何となくわかる。
ただ仮に子どもができたとして自分の生きる意味をそこに集約してしまうのは、あまりにも怖い。

別に読みたくもない、「私が運命の人に出会うまで」みたいなインスタの投稿を無意味に読みながらそんなことを考えていると、友人からLINEが来た。
「今週末どこで会う?」
そうだった。どこで会おうか。
「新宿とかどう?春服見たいな」
「お、いいね!私も服みたい!そうしよ〜」

友達との遊び方も、段々決まってきてしまった。
会えばまずは仕事の愚痴を言い、どちらかの「最近なんかあった?」という一言から暗黙の了解のように恋話をする。
そして大体は「何もない」もしくは「進展がない」という近況報告から、「私たち結婚できるのかな」という不安をお互い慰め合って終わる。
これはこれで勿論楽しい。ただアラサーにもなって、こんな女子大生みたいな日常を送っていて大丈夫だろうか、とも思う。

そんなことを毎回思うくせに、予定の日が来ればそれなりに楽しく準備をして待ち合わせ場所に向かうのだ。今日は春物の新しいコートが欲しい。
「ごめんお待たせ!どうしよっか、とりあえず何か食べる?」
「そうだね、そうしよう!」
「おけ、私行きたいお店あってさ〜、ここどう?」
私が社会人になってから一番よく遊んでいる会社の同期は、流行に敏感で、美味しいお店をたくさん教えてくれる。行動力と決断力のある、私とは真逆のタイプ。だから仲良くなったのかもしれない。

いつも通り彼女の部署の愚痴を聞いて、あ〜私も似たようなことあるな、わかる〜なんて言いながら私も自分の愚痴を言い、一緒に春服を買った。
今日もいつも通りだけど、楽しい。夜ご飯の時は、お酒を飲みながら最近気になっている同僚の話でも聞いてもらおうか。
「最近なんかあった?」
「うーん、そうねえ」
おや?と思った。ここで彼女が言葉に詰まることはほとんどないから。
「あのね、私、彼氏できた」
全く思っていなかった返答に、私は思わず箸を止めた。
「え、えー!そんないい感じの人いたの?よかったじゃんおめでとう!」
人としてまずはお祝いしなくては、という気持ちだけで、言葉を繋げた。
「彼氏、実は同期のA君なんだよね。これまでもよく飲んではいたんだけど、この間急に告白されてさ。これまで意識してなかったけど、一緒にいるの楽しいし生理的に無理とかじゃないし、全然ありじゃない?と思って。OKしてみた」
「わーまじか、A君がそんな風に思ってたの全然気が付かなかったなあ…」
「ほんとにね、私もびっくり笑」
でもまだ全然友達っぽいし、どうなるか分かんないよほんと、急に別れるかも!と彼女は冗談ぽく言っていたけれど、その後彼の話をする彼女がとても可愛くて、ああ彼女も彼のことがちゃんと好きなんだと思った。

「じゃあありがとう、またね!A君とお幸せに〜笑」
「やめてよ笑 ありがとね、また会社で!」
いつも通り彼女と別れ帰路に着く。
彼女と会える回数も減ってしまうのかな、恋バナは彼氏がいる人同士で話したりするんだろうな、と少し寂しく思いながら、普段あまり聞かないラブソングを再生した。いいな、彼女はこの曲の主人公になれたのか。
私はいつまでも第三者のままで、久しくラブソングを自分事として聞けていない。

ただ、彼女に彼氏ができたことよりも、彼女の「何もない」という返答を期待していた自分に驚いた。そして心底呆れた。いつから友達の不幸を望むような人間になったのか。
何の変化もない日常に飽き飽きしているのは自分だけじゃない、とたかったのかもしれない。
みんなそう、人生なんてそんなもん。そういう現実逃避。

と同時に、自分が「恋人がいる」ということを一種のステータスと捉えていることにも気が付いた。
彼女に「彼氏がいる」と言われたとき、「あ、負けたな」と思ってしまった。恋人なんて作りたい人は作ればいいし、いなきゃダメなものでもないよね?なんて話していたくせに。

彼女の「何の変化もない」日々は、唐突に終わりを告げた。でもそれは、彼女だけの話ではないのだと思う。

ラブソングではない曲が聴きたくなって、顔を上げる。とっくに見慣れてしまったはずの景色が、少しだけ違って見えた。

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