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【海外HR事情】労働組合、米国で復活の背景とは:スターバックス労働紛争の行方

スターバックス労働紛争の経緯


2024年2月27日、米スターバックスは、店舗スタッフが結成する労働組合との間で展開してきた2年間の紛争に終止符をうち、団体交渉権を含む労働協約の締結に向けて、労使が前向きに取り組んでいくことを発表した。差し当たり、2022年に組合を結成した店舗で支払いを留保していたクレジットカードによるチップの支給などを再開する。

スターバックスで労働運動が行われるようになったのは、2022年12月、ニューヨーク州バッファローにあるスターバックスの店舗で、賃金の引き上げ、スタッフの増員、シフトの柔軟化などを求めて労働組合が結成されたのが最初だった。労働組合結成の勢いはまたたく間に広がり、次の6週間で20店舗、8か月後には米国内9,000店舗中、200店舗で労組が結成された。現在は400店舗にまで広がっている。

この間、会社側の労働組合対策、組合潰しも苛烈だった。CEOのハワード・シュルツ氏が直々に多くの店舗を訪問し、バリスタたちと面談し圧力をかけた。また、組織的に組合活動を監視したり、組合員であるスタッフを解雇したり、組合結成の動向がある店舗を先んじて閉鎖するなどした。2022年5月には、組合がない店舗だけを対象に、賃金引き上げと研修の強化を実施した。この分野で最有力の法律事務所Litter Mendelsonを雇い、「労働組合は労働組合費の利権をむさぼっているだけ」とのネガティブキャンペーンも展開した。

組合側は、こうした行為は労働法違反に当たるとして、200件を超える訴訟を起こしているが、会社側は事実無根だと反論している。組合側も、ストライキ、大学キャンパスでのネガティブキャンペーンなどで対抗してきた。バーニー・サンダース上院議員が、シュルツCEO証人喚問して圧力をかけたこともあった。

新世代による労働運動の広がり

日本同様に、米国でも労働組合、労働運動はほとんど廃れた存在だった。しかしパンデミックに前後して、ミレニアル世代、Z世代を中心に復活してきており、ストライキ件数は大恐慌時代以来の水準に達している。

しかも、運動の中心はかつてのように工場労働者ばかりではない。脚本家、俳優、ファストフードスタッフ、ゲームデザイナー、アニメーション、小売、インターネットテック企業など、これまでになかった業界や業種で労働運動の広がりがみられるようになってきた。スターバックスやアップルといった、一見組合活動がそぐわないような進歩的なイメージの会社の店舗スタッフで、賃金が低く、残業が多い環境に大学卒の従業員が配置されているようなケースが多いのである。

組合運動復活の背景の一つには、労使間の経済格差の拡大がある。1978年から2021年までに、CEOの給与は1,460%増となったが、同じ時期に、労働者の給与平均は18.1%増に留まっている。労働者の給与が抑制されている現実があるのだ。

世論調査でも、現在では68%のアメリカ人が労働組合活動を支持しており、これは1965年に記録した71%以来の高水準だ。ただし実際の労働組合加入率は2021年で10.3%と、いまだに史上最低水準に留まっている。労働組合費が給料から天引きされることが大きなネックだ。

別の背景としては、Z世代など若い世代の特徴があげられるという。UCLAのJay Tucker教授は、「今の若い人は、テクノロジーを使いこなすだけでなく、共同作業が得意で、責任感が強く、偽善を見抜く力がある。不適切なことがあれば、上司の責任を追及することを恐れない。対立のやり方が昔とはずいぶん変わってきたように思う」とコメントしている。LA TimesのEyan Faughnder記者も、「最近入職してきた若者は、これまでの世代よりも、社会変革を求めて会社との対立を恐れず、会社に圧力をかけることをいとわないようだ」などとして、若者気質の変容が背景にあると指摘している。


(出所)

Why Starbucks, Apple And Google Are Unionizing Now For The First Time. CNBC, Aug 6, 2022, YouTube

Starbucks, Union Agree On ‘Path Forward’ To Work Together, Huffpost, Feb 27, 2024

Look For The Union Label, The Big Picture, Jul 28, 2023


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