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コーチングが機能しない本当の理由

日本にコーチングという概念、さらには職業が導入されて、何年くらいが経つのでしょうか?

1990年代に、アメリカで広まり、日本では2000年頃から、マネジメント研修や経営者への支援、自己啓発を中心に認知が進んでいったらしいです。なので、もう20年くらい経ちますね。企業研修では、マネジャーへの研修プログラムとして定番化しつつあると思います。

僕自身が、コーチングを学び始めたのは、2011年でした。
それ以前に、すでにコーチングを企業に提供する会社も存在しており、前職ではそういった会社とのお付き合い、仕事の依頼も行っていました。

さて、そのコーチングは、本当に「機能」しているのでしょうか?
つまり、クライアントである当事者のお役に立てているのでしょうか?

大きく分けて2つの「コーチング」があると思います。
ひとつは、ビジネスとしてコーチングを行なうスタイル、いわゆる「プロコーチ」です。
コーチングを提供する会社もいくつか存在しています。個人でプロコーチと名乗る方も大勢います。

僕も、あるプロコーチ養成講座で、コーチングを勉強しました。
とはいえ、資格として認定されているわけでもなく、国家資格でもありません。そもそもコーチング養成講座やその類の会社が発行する認定なんて、何の保証にもなっていません。ある程度の知識と度胸があれば、すぐにでもコーチと名乗れてしまうのが現状です。
つまり、プロコーチは玉石混交ということです。

※僕がお世話になったプロコーチ養成講座は、プログラムとしてはしっかりとしていたと思います。講師の方も、とても深い知識と経験を持っていました。ただ、受講している人たちは、いろいろでした。ホントに玉石混交(笑)。

もう一つのコーチングは、社内でマネジャーが行うコーチングです。
1on1や評価フィードバックなどさまざまな面で、コーチング的なコミュニケーションが必要とされています。

僕は、こちらのコーチングの方が重要であると考えています。
「コーチング」というよりは、日々のコミュニケーションスタイルのバージョンアップと捉えた方がいいかも知れません。

「コーチングが本当に機能しているのか?」というテーマの対象となるのは、ひとつめの「プロコーチ」においてです。

僕自身も、「コーチ」と名乗り、コーチングもさせていただく中で、時にはクライアントとしてコーチングを受けることもあります。コーチングを受けたり、提供したりする中で感じることが、コーチングは本当に機能しているのか?役に立っているのか?ということでした。

なんだかあまり役に立っている感はないなぁというのが正直なところです。僕自身がコーチングを受けて感じる率直なところです。

僕がコーチングをさせていただく中で、大きな決断をして行動を起こす人もいますが、あまり響かない人、行動変容や意識変容に繋がらない人もいます。それは、僕自身のコーチングの実力と言われればそれまでなのですが。。。
※僕自身の提供したコーチングで、とりわけネガティブなフィードバックをもらっているわけではありません。念のため(笑)。
そこそこのコーチングは提供していると勝手に思っています。

世の中のほとんどのコーチングと言われているものは、「タダの聴き役」なだけかも知れません。それでも、クライアントからすれば、聴いてくれてすっきりしたとソコソコの満足感を得られるので、コーチングとして成り立っているのでしょう。
※最近は、コーチングという名のついた、「聴くだけ」の副業ビジネスを提供している会社もありますね。。。恐ろしい。。。

コーチングが本当に機能するのであれば、人の役に立つメソッドであれば、もっともっと広まってもいいのではないかと思うのです。

キャリアコンサルタントも同様です。
本当にキャリアコンサルティングが機能している、役に立つのであれば、
もっともっと必要とされていいはずなのです。僕は、キャリコンの資格も持ってます。それも、キャリアコンサルティング技能士2級というのを。

※国家資格でありながらも、キャリコンのレベルは、コーチング以上に玉石混交です。ご注意ください(笑)。マヂで。

つまりは、対人支援を行なう仕事というのは、実はレベルがとても高い仕事なのではないかということです。裏返せば、対人支援を行なう人たちのスキルが低い、レベルが低いということです。

コーチングが機能していない理由がなんとなく見えてきたので、ちょっと書き連ねてみますね。

対人支援の仕事の対象者は、「ヒト」です。
地球上で最も未知の存在かも知れません。
ヒトは、機械ではないので、一定の扱い方、オペレーションのマニュアルがありません。さらには、身体的、精神的に、日々成長していきます。変化していくのです。とても、高度な対象物なのです。

その高度な対象物を支援する側、支援者はどのような存在であるべきなのか?どのような存在でないと、役に立つ支援ができないのか?ということを考えてみたいと思います。

ヒトの成長という面では、成人発達論からアプローチできます。
ヒトの意識の器、つまりは、物事を捉える視点は、その人の経験や思考の蓄積により変化=成長していきます。

「TEAL組織」で有名になった、ティールという概念は、組織の成長段階を表しますが、ベースは人の成長段階を分析した発達心理学です。

図2
図3

(図)TEAL組織の巻頭のカラーページから

2019年に発売された、ケン・ウィルバーの「インテグラル理論」に詳しく解説されています。
さらには、インテグラル理論の関連本も近年たくさん出版されているのでとても参考になります。
成人発達論は、ロバート・キーガンやスザンヌ・クック・グロイター、ビル・トーバートなど多くの学者がそれぞれの尺度で解説しています。

ここでは、ケン・ウィルバーがメタ分析したインテグラル理論をもとに考えてみます。

ヒトの成長段階を分かりやすく色で分類しています。
※詳細は、専門書籍をご覧ください。
加藤洋平さん、鈴木規夫さんの書籍が分かりやすいと思います。

レッド 自己中心的 20%
アンバー/ブルー 秩序・順応 40%
オレンジ 合理的 30%
グリーン 多元的 10% 前期ビジョンロジック
ティール 統合的 1% 中期ビジョンロジック
ターコイズ 全体性 0.1% 後期ビジョンロジック
※数字は、人口割合

と、その前後、レッド以前、ターコイズ以後もありますが、人の成長段階をこのように分類しています。
もちろん、学年のように年齢を重ねれば進級し、明日から突如オレンジになるというものではなく、成長のスピードは人それぞれであり、経験や思考によって、徐々に意識段階が変化していきます。
人によって、成長の速度の差はあるものの、数年、十数年を経て、段階を重ねていくと言われています。

多くの人、約90%の人が、レッドからアンバー/ブルー、オレンジの段階に属していると言われています。どういうデータソースかわかりませんが、そういう割合だと言われています。

残りの10%弱が、グリーン以上の、ビジョンロジック段階に属していることになります。わずか10%弱です。

レッド、アンバー/ブルーは、まさにヒエラルキーの社会です。
権力者のトップダウン、社会的なルールなど多くの秩序のもとに成り立っている社会です。

オレンジは、そこにさらに論理性が持ち込まれます。
より事実に即したデジタルな社会ということでしょうか。数値を拠り所とし、効率性、生産性を重視する社会です。まさに、いまの最先端の社会を表していると思います。

オレンジのコーチングは、うまくいかないと僕は感じています。
数値で判断し、論理的に処理していく。そんなことは、機械の方が得意です。AIがやってくれるでしょう。

しかし、ヒトは、感情の生き物です。
アリストテレスの言う、エトス・パトス・ロゴスですね。
この3つが、ヒトが動くという時には重要だということです。
ロゴス=言葉、ロジックだけでは、人は動きません。
エトス=倫理、信頼、パトス=情熱、感情も必要なのです。

エトス、パトスも理解した上で、コーチングを提供する。
クライアントのエトス、パトス、ロゴスを把握した上でのコーチングでないと機能しないということになります。

さらには、いろんな事情、いろんな視点が絡み合って、状況が構成されています。見る人によって、事実は異なって見えるし、見えていないもの、見えているのに気付いていないこともたくさんあるでしょう。

コーチは、それを俯瞰で認知し、自分自身のバイアスがかかっていることも認識し、多視点で、かつ共感的に、状況を理解しなければなりません。

そんなハイレベルなコーチングを、オレンジ段階のコーチ、ましてや、レッド、アンバーなコーチが提供できるわけないのです。他の論文では、成人の7割がオレンジにすら達していないという記述もあります。
もうそうなると、まともなコーチングができる人なんで、ほんの一握りになってしまいます。。

コーチが、さまざまに複雑に絡み合うヒトのエトス、パトス、ロゴス、さらには置かれた環境、課題も踏まえてコーチングを行なうには、高度なシステム思考、ビジョンロジック段階でなければ、そんなハイレベルなコーチングは提供できないのです。

ビジョンロジック段階とは、なんでしょう?
ケン・ウィルバーが唱える、ある一定の意識段階、成長段階になります。

ケン・ウィルバーは、「インテグラル理論」を提唱する思想家、哲学者です。発達心理学者ロバート・キーガンとも交友があり、発達心理学や
ヒトの意識段階、トランスパーソナル心理学などの分野で、アメリカを代表する思想家です。

僕自身も、ビジョンロジックを完璧には理解できていないし、当然その段階に到達しているわけではないので、なんとも説明しづらい部分はあるのですが、僕の理解レベルでざっくり言うと、複雑な状況を、俯瞰でシステムとして理解し、自分自身の偏見や思想に捉われることなく、統合的=様々な視点からみることができる段階のようです。

なんとも歯切れの悪い説明ですね。
プリンを食べたことない人が、プリンを食べたかのように、プリンの説明しているのと同じなのでご勘弁ください(笑)。

つまりは、人口の1%にも満たないかも知れない、ティール以上のコーチでなければ、まともなコーチングは提供できないのでは?ということです。
グリーンでも、そこそこのコーチングは提供できるかも知れませんが、さてさてどんなものでしょう。。。

ちょっと書いていて悲しくなってきました。
僕自身も、プロコーチなんて名乗っていいのかと思います。
効果的なコーチングを提供できる発達段階にいる人たちは、人口の1%です。
いや、1%もいるのか?、もっと少ないのでは?とも感じます。

本来の機能するコーチングを提供できる「プロコーチ」とは、
クライアントの抱える複雑な状況を俯瞰で的確に捉え、システマティックに考えつつも、感情にも深く共感することができる人なのかも知れません。


対人支援、コーチングは、有益な仕事、必要とされる仕事だと思います。
しかし、それを提供する人、プロコーチには、ティール以上の発達段階を有する人であることが必要になるのではないでしょうか。

レッド、アンバー、オレンジのコーチによるコーチングが蔓延している限り、ヒトの役に立つ、本来の機能するコーチングは広まっていかないのです。

では、どうすればよいのでしょうか?
ホント、悲しくなってきますね(笑)。

ひとつは、コーチ自身は、自分の人間性、意識の器を磨き続け、成長段階を上げていくことが必要なのでしょう。
そのためには、日々、統合的な実践が必要だと言われています。
integral life practiceですね。詳しくは、コチラも専門書をお読みください。

もうひとつは、コーチングを依頼するときは、優れたコーチを選ぶということですね。少なくとも、自分のことを理解できている、自己認識力の高いコーチを選ぶことをお勧めします。

間違っても、オレンジのコーチを選ばいように(笑)。
コーチングを受けても辛くなるだけです。客観性ばかりにフォーカスしてくるでしょう。数値化、データでアクションを迫ってきそうです。

自己認識力の高いコーチ=発達段階の高いコーチは、きっと謙虚でしょう。共感力も高いでしょう。でも、ズバズバ切り込んで切る部分もあるでしょう。僕のまわりのデキそうなコーチはそんな人です(主観的な印象ですが)。

逆に、ヤバいコーチは、やたらと共感力だけを押し付けてくるかもです。笑顔を作ってニコニコしてますが、その人自身の本質ではなさそうです。繕っている感満載です。

つまりは、プロコーチのコーチングの良し悪しは、そのコーチの発達段階の影響がそれなりにあるのではないかということです。
かといって、一朝一夕に発達段階が上がることはあり得ません。日々のインテグラル・ライフ・プラクティスが大事なのです。

さ、精進しよう!


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