問題解決力を高める「推論」の技術

■書籍
問題解決力を高める「推論」の技術
著者:羽田康祐

■推論力とは

ビジネスは、困難の繰り返しといっても過言ではありません。日々の仕事の中でこのような場面に直面したこともあるのではないでしょうか。

・「何かを考えないといけないことはわかっている。でも、何をどう考えていいかがわからない」
・「分析しろ、と指示されたが浅い分析しかできない」
・「伝えたいと思っていることが伝わらない」

「何をどう考えていいのかわからない」という状態は、未知の出来事に出くわして、思わず「頭が固まる」という状態です。別の言い方をすれば、未知の出来事に対する「推論」が働かず、思考停止になってしまっている状態ともいえます。

また、「浅い分析しかできない」という状態も、物事の奥深くにある関係性や力学に対して、適切な推論が働かない状態です。

ビジネスの現場では、大なり小なりさまざまな困難に直面します。しかしこれらを生じさせている原因を見抜いたり、解決に向けた仮説を考えることができなければ、ビジネスを前に進めることはできません。そして、問題の原因を見抜いたり、仮説を考えたりする際に必須となるのが「推論力」です。

本書では「推論力」を次のように定義しています。

推論力=未知の事柄に対して筋道を立てて推測し、論理的に妥当な結論を導きだす力

さまざまな問題の原因を見抜くためには「なぜ問題が生じたのか?」という「見えない原因」に対する推論力が求められます。また。仮説を考える際にも「見えない未来」に対する適切なる推論が必要不可欠です。

推論力はビジネスコミュニケーションにも必須となります。
冒頭であげた、「伝えたいことが伝わらない」という問題も、その解決策のカギは「推論力」にあるそうです。

なぜなら、「伝えたいことが伝わらない」状態は、次の2つのどちらかに原因があることがほとんどだからです。

・自分が伝えたい論点と、相手が聞きたい論点にズレがある。
・結論に至る話の筋道が、論理的に一貫していない。

例えば、論理的な一貫性のなさが伝わらない原因はどのよなことかというと、もしあなたが突然「100億円の投資が必要です!」という結論の話をしたとしましょう。その結論に何の脈絡もなければ、相手から納得感が得られないことは想像に難くありません。

あなたが「100億円の投資が必要です!」という結論の話をするなら、「なぜそもそも投資が必要なのか?」という「前提の話」と「なぜ投資額100億円という結論に至ったのか?」という「推論の話」がセットとして語られなければなりません。そして「前提」→「推論」→「結論」の間に論理的な一貫性があれば、話の脈絡が一貫するため、劇的に伝わりやすくなります

コンサルティング業界ではよく、新米コンサルタントの訓練として、「雲・雨・傘」というフレームワークが用いられるそうです。このフレームワークは、問題解決やコミュニケーションの際の論理の一貫性を鍛えるために、

雲:「空は曇っている」(前提)
雨:「よって、雨が降りそうだ」(推論)
傘:「だから、傘を持っていくべき」(結論)

という思考パターンを定着させることを目的に開発されたものです。
この「雲・雨・傘」のフレームワークを見ても、「前提」と「結論」をつなぎ、論理的な一貫性を保つために重要な役割を果たすのが「推論」であり、話を伝わりやくする上で非常に重要な要素であることがわかります。

■「優れた洞察」を生み出すー帰納法ー

ロジカルシンキングや論理的思考関係の書籍を読むと「帰納法」という言葉をよく見る。
ロジカルシンキングの書籍を紐解くと、「帰納法」は、「妥当性の高い論理を導くための手法」という意味合いで語られることが多い。しかし、帰納法の本来の真価とは、数多くの「法則」を発見できることです。

世の中には飲み込みが早く「一を聞いて十を知る人」が存在するが、「なぜ一を聞いて十を導きだせるのか?」と疑問に思ったことはないだろうか?

「一を聞いて十を知る人」はどんな些細な事実からも「見えないもの」を見抜き、それらを「法則化」した上で、さまざまな分野に応用する習慣を身につけています。よって少し説明をしただけで手持ちの法則に当てはめ、「それはこういうことですか?」と十を理解してしまうそうです。また、質問があるかどうか尋ねると、的確な鋭い質問を返し、何をやらせても的を射た行動をします。

このような人たちが無意識に習慣にしているのが「帰納法」なのです。

帰納法の「帰納」とは、「物事が落ち着いて(帰)、結論に納まる(納)状態」を指します。

この意味合いの通り、帰納法とは複数の物事から共通点を発見して、結論を導き出す推論法のことを指します。別名「帰納的推論」とも言われます。

ビジネスにおける帰納法の活用局面は、大きく分けて2つあります。

・環境の変化を捉えて、方針や戦略を策定する局面
・世の中の事象から「法則」を発見し、学びに変える局面

あらゆるビジネス活動は、環境の変化から逃れることはできません。政治や政策の変化は「市場競争のルール」そのものを変化させます。経済の変化は売上やコストなど利益に直結する「バリューチェーン」に大きな影響を与えます。そして社会やせの変化は売上の元となる「生活者の需要構造」を変化させ、テクノロジーの変化は「市場競争の成功要因」を劇的に変えてしまいます。

このように、環境の変化は時にビジネスの「根底」にすら影響を与えかねないインパクトを持っています。これらの変化の中には一企業の努力だけでは抗いきれない変化も少なくありません。だとすれば、複数の環境変化の奥底に流れるメカニズムを発見して、そのメカニズムを味方につけることができる方針や戦略を策定するのが合理的です。そして、環境の変化をもとに方針や戦略を策定する局面は、そのまま帰納法が活用できる局面となります。

3C分析やPEST分析など、さまざまなビジネスフレームワークがありますが、これらは単に情報収集や整理のために使うのではなく「帰納的な推論を働かせ、有益な示唆を導き出す」ことで初めて使いこなせるツールです。

もし、環境の変化を捉えて、優れた戦略や方針を策定する場合は、これらのビジネスフレームワークを活用する際に、

複数の事:複数の市場環境の変化から、
共通点の発見:その奥底に流れる共通のメカニズムを見出して、
結論:そのメカニズムを味方につけられる方針や戦略を策定する。

という帰納的な推論を働かせることを意識することが大切です。

■「予測と検証」を可能にするー演繹法ー

演繹法というとロジカルシンキングの世界では「論理」の側面に焦点を当てて紹介されることが多いです。

しかしビジネスの実務では、演繹法を「予測」に用いると有益な場合が多くなります。また、演繹法は、うまく応用すれば「前提を疑う」「前提を概念で捉える」「前提を捉えなおす」ことで、これまでの当たり前や常識を覆し、新たな側面の発見や価値の創造につなげることができます。

演繹法とは、「前提となるルールに物事を当てはめて、当てはまるか、当てはまらないかで結論をだす」推論法を指します。別名「演繹的推論」や「三段論法」とも言われます。

ここでいう「ルール」とは、規則や常識、あるいは方針や法則など「一般に正しいとされていること」を指します。

ビジネスにおける演繹法の活用局面は、大きく分けて3つあります。

・ビジネスの環境変化を予測する局面
・提案の良し悪しを検証する局面
・洞察的帰納法で得た「法則」から価値を生み出す局面

ビジネス環境の変化を予測する際には、次のような枠組みで演繹法が活用できる局面です。

前提となるルール:背景にある力学
当てはめる物事:今の局面
導かれる結論:「背景にある力学」に「今の局面」を当てはめた「今後の予測」

例えば、

前提となるルール①:生産量が1万個を超えれば→規模の経済が働いて製品1個当たりの単位コストが80%に下がる。
当てはめる物事②:来年半ばには、生産量が1万個を超える。
導かれる結論③:よって来年半ばからは→製品1個当たりの単位コストが80%に下がる。

このように、演繹法は「背景にある力学」を前提に置くことで、将来の予測を可能にします。そして予測が可能になれば、事前に必要なアクションを計画しておくことが可能です。

そして、ビジネスの世界では「提案をしなければならない」という状況に立たされることは多い。なぜならビジネスとは、「価値を生み出してお金に変える活動」であり、「価値をお金に変える」には「提案」が必須となるからです。

しかし、どんなに優れた「提案」も、採用されなければその価値はゼロです。だとすれば、提案は、相手の意思決定を促す上で十分に合理的であり、かつ納得できるものでなくてはなりません。その際にも演繹法は活用できます。

適切に提案をするには、その前提として「目的」と「目標」が必要になります。「目的」とは、提案を通して成し遂げたい「内容」のことであり、もし「目的」がなければ「何を成し遂げるべきかわからない」という状態になります。

また「目標」とは、「目的(=成し遂げたい内容)」の達成水準」のことを指します。もし「目標」がなければ、「どの水準まで目的を達成すべきか?」がわからなくなるため、やはり適切な提案をすることはできません。その結果、提案は「目的がわからず」「目標」も曖昧な提案となってしまうため、採用される可能性が低くなります。

もし、提案内容が採用される可能性を高めたい場合は、企業や組織が目指す「目的」や「目標」に対して、提案内容を合致させる必要があります。
これを演繹法のロジックに応用すると次の通りになります。

前提となるルール:目的・目標
当てはめる物事:提案内容
導かれる結論:目的・目標に対して「提案内容」が当てはまるか当てはまらないか

このように、提案の局面では、「目的」「目標」を前提に置き、そこから演繹的に提案を考えていけば、目的や目標に対して、精度の高い提案ができるようになります。

■まとめ

「何をどう考えていいのかわからない」「伝えたいことが伝わらない」とう課題があるため、その解決策をさぐるため本書を選定しました。

私は社長から、前提が抜けるとよくご指摘をいただいますが、頭の中で考え結論だけ伝えてしまったり、説明を始めてしまったりするので、相手と意思疎通が取れなかったり、

考えといてといわれると、起こっている事象にとらわれ、そもそもの目的や目標が抜けてしまったりすることが多いです。

これからは、本書であった

「雲・雨・傘」というフレームワーク

前提となるルール:目的・目標
当てはめる物事:提案内容
導かれる結論:目的・目標に対して「提案内容」が当てはまるか当てはまらないか

これらを提案を考える際や、その提案を伝えるときに意識して使うようにトレーニングしていきます。


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