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『TENET』に見る時間の横軸と縦軸

昨日、ふと思い立って
観よう観ようと思っていた『TENET』を映画館で観に行きました。

前提として、エンタメとしての凄味がある本作なので
細かい(科学的)矛盾には目を瞑って観ています。

その上で、自分が受け取ったメッセージの中でも
日本語のレビューが見つからなかった或る話について書いていきます。


時間を逆行する為の回転扉

まず、話を整理する為に
重要な役割を果たす回転扉についておさらいします。

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上図に描いたように、現代人は左から右へと時間が進んでいきます。
これを順行と呼びます。作中では赤色をベースに表現されます。

一方で、回転扉を通ると時間を逆行出来るようになります。
作中では青色をベースに表現されます。

主人公達(現代人)は逆行中は呼吸器無しで生きていけないので
逆行した後は必然的にどこかのタイミングで順行に戻ります。

(順行に戻るシーンはほぼ描かれないので
これを意識するかどうかで映画の観易さは大きく変わると思います)


映画における時間の流れ

続いては映画シナリオの整理をするのですが
ダラダラと書いてもしょうがないので図示します。

特に分かり辛いと言われているカーチェイスや挟撃作戦は
冒頭に書いた通り、突き詰めると謎が多く残り過ぎるので
全体の大まかな流れだけ示します。

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上図に示すように、現代人(&鑑賞者)の持つ時間軸というのは
左から右(Day A→Day C)に流れて行きます。
これに対して、映画は上から下の層の順で上映されます。

また、作中では省略されていましたが
主人公達はDay Cから逆行を始め、最後にDay Aで
ベトナムとロシア(スタルスク12)に分かれて行動しますが
この時、少なくとも主人公とキャットは順行しているので
Day Aよりも前まで一度逆行しているということに注意が必要です
(ここが抜けると映画の流れに付いていけなくなります)。


時間軸の縦と横

さて、ここからようやく本題ですが

僕が最も感動したのは
映像作品として本作が縦軸と横軸で時間軸を描いていたことです。

どういうことか図示します。

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上図に示すように
未来から戻ってきたキャット達にセイターが殺されるということは
もうカーチェイス等の(横軸の)未来は起き得ないわけなんですよ。

だけど、我々観客は間違いなく、それを過去の出来事として目撃しました。

つまり
回転扉を使う度に新たな未来(横軸的な意味で)が創造されるわけです。

そして、それは同時に
縦軸の意味においても未来が創造されている
ということを意味していると感じました。

過去を「既に起きた出来事」と捉えるならば
「起き得ない未来」(だけど確実にそこにあった過去)は
(縦軸としての)過去のものとなり
時間旅行をすればする程に、そうした過去が蓄積されていく
と同時に(過去を塗り替えることで)新たな未来が作られていくのです。

この視点を一つのエンタメ映画として描くことの意匠に感服しました。


今まで(一部の専門家を除いて)
現代人は横軸としての時間軸だけを意識して生きてきました。

しかし、何年後かの我々にとっては
縦軸の時間軸も当たり前のように
話されているものとなっているかもしれません。

もしそうなれば
そのことを最初に描いたメジャーなエンタメ映画作品として

本作は歴史に残るのでしょう。


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